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【魂に刻まれたもの2】魂の力は意思の力。強い気持ちに力は宿る

あのめちゃくちゃ強い谷崎さんも、どうやっても勝てなかった細山さんも、いとも簡単にやられてしまった。


もう、吉村を止められるのは自分1人しかいないことを理解する。


「…分かった。来いよ吉村。」


理性を失っている吉村は、お構い無しにこちらへと飛びかかってきた。



身についた癖、と言うものはなかなか消えるものではなく、自分の身体の動かしやすいパターンになっているとも言える。


ある意味では灯里の一番の得意技は『これ』だと言うことを、身近で見てきた颯士が一番分かっていた。


能力を使った加速からの右ハイキック。


どんなに速くても来ると分かっていればなんとか避けることができる。


そして、大きく空振りした身体はバランスもまた大きく崩していた。


『そうなる』ことを予想していた颯士は、残った軸足に渾身の力でローキックを叩き込む。


非力な颯士と言えど、バランスを崩した状態と腕よりも強い脚の力なら何とか灯里を転ばせることに成功する。


「吉村、もうやめるんだ。吉村らしくもない。」


颯士が声をかけるが、操られて理性を失っている灯里には届かない。


颯士へと右手をかざし、黒い鷲を射出する。


グライダーのように飛んでくる鷲に、颯士は手刀を叩き込み、鷲を落とす。


「この技もさ、一緒に考えて、猛特訓したよな。」


続けざまに2発の鷲を発射してくるが、それもまた手でキャッチして地面に無造作に放り投げる。


「効かないよ。俺が一番近くで一番良く見てきたんだから。」


一歩、颯士が灯里の方へと進む。



1つ、仮説を立ててみた。


吉村が操られているとして、どうやって操っているのか。


あの女の人はもう、ほとんど原型なくそこに倒れている。


恐らく遠隔操作の類いではないとは思う。


直接乗り移るような技があるか、魂に何らかの干渉をしているか。


直接乗っ取っているならそこに残骸のようなものがあるとはあまり考えられない。

(脱け殻になっている、みたいな可能性はあるが)


確か、魂で出来た身体のはずだから。


と、なると吉村の魂に何らかの干渉をした、と仮定しよう。


その場合、一旦限界まで魂を使いきらせてしまえば良いのではないか。


干渉しているものまですべて出しきってしまえば…



灯里との日々に加えて、椿との特訓で颯士の『見る力』は格段に上がっていた。


身体がそれについてくるかは別だが、それでも灯里の躊躇のない攻撃に対してはかなりの善戦が出来ている。


「(受けに徹するんだ!)」


神経を張り巡らせながらも灯里の方へと歩み寄る颯士。


それに対応するように灯里の攻撃が再開された。


灯里の放つ両手、両足すべてを駆使した乱打。


彩華との戦いの為に磨き上げた技だ。


手数が多く、しかも速いために本来ならば受けきるのは難しいが、椿との特訓で刀での打ち込みの速度に慣れていたのが効を成した。


打ち込まれる脚を手で受け、拳を払い、なるべくダメージを受けないように、長く攻防が続けられるように努める。


「(対細山用特訓がこんなところで役に立つとは…だけど…)」


この乱打は一撃一撃も重い。


能力でブーストをかけている分、常人のそれとは比較にならない。


防御に使う腕や脚に重く苦しいダメージが蓄積されていく。


「吉村っ!そろそろ疲れてきただろ?」


颯士が受けながら声をかけるが、灯里は反応が全くない。


「ハッ…ハッ…」


と、苦しそうに息切れをしている様子だけがみて取れた。


本来の体力を限界まで酷使させられているのだろう。


その様子とは裏腹に、乱打はやむ気配がない。


「どうした?非力な文化系すら倒せないのか?」


颯士は得意の挑発を繰り出した。


この状態でどこまで相手に届いているのかは分からないが、それでも少しでも能力を使わせようとする苦肉の策だった。


受けている手のひらや腕はパンパンに腫れ、ただの防御にも限界が近づいてきていた。


「(こうなったら…飛ぶなよ、意識)」


内心、気合いを入れ直した。


何発かは貰う覚悟を決めた颯士は、狙いを右足のみに絞った。


だが、こんな時に限って両手の連打と左のロー、ミドルの連続技と言った狙った場所からの攻撃はこない。


「ぐっ…」


かなりのダメージを食らって意識が飛びそうになった時に、ようやく右のローキックがくる。


下段の脚を捕るのは至難の技だが、それでも待っていた右が来たのだ。


椿と練習した斬撃のような手刀と、細山の得意な関節狙いを合わせた技を膝に叩き込む。


関節を外すまではいかないが、それでも体制が前のめりに崩れる。


咄嗟に無防備になった右腕を掴み、そのまま引っ張り転ばせる。



「もっと大技じゃないと、この程度の技じゃ倒れてやれないな!」


ここぞとばかりの挑発。


だが言葉とは裏腹に颯士は自分の中の恐怖を押さえつけることに必死だった。


もし大技がきたら…


恐らく、その大技は白龍撃。


手加減のない白龍撃をまともに喰らったら多分、死ぬ。


「(大丈夫、良く見て躱せば勝ちだ。何度も見てきただろう、誰よりも良く知っているだろう!)」


己を鼓舞するが、足の震えが止まらない。


足の先が妙に冷たく感じる。


「(落ち着け…ビビるな…良く見ろ…)」


「こいよ!どんな技も俺には効かないぞ!」


震える脚を両手で抑えた。


必要以上に大声が出る。


灯里もそれに応えるかのように、傷めた脚を抑えながら立ち上がる。


腰に手を添え、恐らくは白龍をしっかりイメージしているのであろう。


灯里の荒い息遣いだけが響く。


相当に消耗しているのだろう。


颯士にとっては、時間がとても長く感じた。


既に能力の使いすぎですぐに発動できないのかもしれない。


それとも、颯士の精神的なものなのか。


ただ、長く感じた静寂も終わりがくる。


「ふっ…」


息を吐くのと同時に黒い龍が発現する。


「(これを躱せば…)」


迫りくる黒龍は思いの外スピードが早かったがなんとか反応できそうなものだった。



「うぉぉぉぉぉ!!!!」


ギリギリ、横に躱した颯士だが、余りに巨大な黒龍の射出の反動で灯里自身が立っていられなくなる。


「吉村っ!!!」


灯里が倒れそうになるところに反射的に駆け出してしまったことと、倒れそうになったことで黒龍がうねってしまった偶然が不幸にも重なってしまった。


鞭のように黒龍が叩きつけられ、颯士は壁に叩きつけられてしまう。


「吉村…」



意識が朦朧とする。


吉村が力を使い果たして膝をつくのが見えた。


倒れる前に支えてあげないと。


人の心配ができるほど自分の状態もまともではなかったが、自分よりも吉村のことの方が気になった。


早く行ってあげないと。


早く、支えてあげないと…。

ここまで読んでくださってありがとうございます。


面白かったら「いいね」「ブックマーク」などしていただけたらありがたいです!


いよいよ次回、完結です。


最後までよろしくお願いします。

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