【魂に刻まれたもの】多くの人が必殺技を持たないけど必殺技を持つ人が必殺技を持つのには理由がある
必殺技…
日常を生きる上で『必ず殺す技』なんて使う場面などほぼあり得ない。
ただ、漫画やアニメに憧れて、颯士と過ごす時間を作る口実で、そんな理由で作った必殺技だった。
それが今、本当にこの技で殺そうとしている。
心に亡者が纏わりつき、地の底へと引きずり込もうとしているかのような気分だ。
だけど、これ以上この女に好き勝手させるわけにはいかない。
もしかしたら、私に能力が授かったのはこの日の為だったのかもしれない。
だから私が、
終わらせる。
幾度となくイメージしてきた白い龍。
明確に、集中して、そしていつものようにイメージする。
「白龍撃」
かざした手のひらから具現化された白龍が射出される。
大きくうねる白龍が女を飲み込み、身体を消滅させていく。
全てが終わる瞬間だった。
飲み込まれていく女からたった1本の青白い蔦が伸びてきて、私の胸を貫いた。
痛みはない。
だけど胸の中に闇が広がるのを感じた。
「まさか…その魂にも混ざっていたなんてね…」
かろうじて残った頭と左腕、それをわずかに残った胸部が繋いだ、ただそれだけの塊は、ドサッと地面に落ちた。
「あなたも…失くしなさい…」
そう言い残して女だったものは動くことをやめた。
私の中にある綺羅々の魂から膨らんだ何かが、私の魂を侵そうとしていた。
咄嗟に綺羅々の魂を胸から引き抜いたが、膨らんできた『何か』はお構いなしに広がっていった。
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たどり着いた時には、ちょうど白龍があの女性を飲み込んでいるところだった。
無惨な女性の姿に結果を確信する。
無事、吉村が勝ったようだ。
「全く、急いできた意味あまりなかったよ。」
安心した。
かつては椿と二人がかりで漸く追い返したレベルの相手に、灯里1人で勝てたんだ。
谷崎さんは…無能力者だから何も出来なかっただろうし(笑)
ようやく長い因縁が終わったのかと思うと、自然と歩みも早くなる。
「吉村!!」
声をかけても振り向かない。
さすがに激戦の後で疲れているのか。
背後までたどり着き今一度、声をかける。
「離れろ!!」
それが谷崎さんの声だと気付いたのは、吹っ飛ばされた後だった。
良く見慣れた少し太めの太もも。
そこを支点に繰り出される強力な上段後ろ回し蹴り。
頭よりも身体が勝手に動いていたのが幸いして、とっさに頭と脚の間に腕をねじ込んでいたのは運が良かったが…。
「な、吉村、どうしたんだよ?」
うつむき気味にしているせいか、表情も良く見えない。
だが、いつもの吉村ではないことはすぐに察することができた。
「谷崎さん、これは?」
一緒にいたはずの谷崎さんなら分かるかも、とは思ったが
「すまん、良く分からないんだ。ただ、ついさっきまでは普通…ではなかったけど問題はなかったように見えたが。」
谷崎さんも事態を飲み込めていない、と言ったところだろう。
だが今度は無遠慮に灯里はこちらへとゆっくりと歩いてくる。
「おい、吉む…」
フッ…と吉村が視界から消えた。
次の瞬間、今度は目の前に表れた吉村の中段回し蹴りが右腕にめり込んでいた。
「ぐっ…」
かなり重い。
だがこの一撃で終わるつもりはないようで、右腕を大きく振り上げている。
その振り上げた腕がこちらへと下ろされる前に横から手が伸びてくる。
「こいつは、操られてるみたいだな」
そのまま手首を掴み、攻撃を止めたのは谷崎さんだった。
「ちょっと痛いのは我慢しろよ」
手首をそのまま両手持ちに変え、捻って取り押さえようとする。
無理に逆らうと手首が折れる勢い、だが吉村はそのまま流れに逆らわず、身体ごと一回転する。
そのまま回転の勢いで谷崎さんの後頭部に踵を振り下ろした。
手首を持っていた左手を離し、咄嗟に踵をガードするが、そのまま押しきられて膝をつかされる。
「こいつはやべぇな…」
額からじっとりと流れる嫌な汗をぬぐいもせず、谷崎さんは続ける。
「悪いが無傷は諦めろよ」
そう言うと躊躇なく左の上段回し蹴りを放つ。
かなりの打点の高さ、頭を狙った一撃だったが…
吉村はそれすらも飛び越えてかわした。
そのまま空振りをした谷崎さんの胸元に飛び蹴りを食らわす。
踏みつけられるように谷崎さんが地面に押し付けられる。
「くそったれが!」
苦悶の表情を浮かべながらも、自分を地面へと押し付ける吉村の足を両手で掴み、吉村を逃げられなくする。
そこへ示し合わせたように鞭のようにしなった腕が吉村へと飛んでくる。
「細山さん!!」
飛び出した影へと呼び掛けるが、応えてもらえる間もなく攻防が激化する。
得意のしなる腕を難なくしゃがんで躱した吉村の首元へ、軌道を変化させた腕が向かうが一瞬速く吉村の左拳がアッパー気味にその腕の肘を砕く。
「ぐぉ…」
あの厄介な腕技をあっさりと攻略することの恐ろしさは想像に難くない。
だが意識が細山さんに向いたのを逃さなかった。
「こんにゃろ…ッ!」
谷崎さんが掴んだ脚をそのまま巻き込むように吉村を地面へ叩きつける。
そのまま逃がさないように上から覆い被さり腕を掴もうとするが、閃光のような速さで顎に蹴りの爪先が掠める。
意識が飛びかけた谷崎さんが再び膝をついたところを、すり抜けて今度は細山さんに飛びかかる。
吉村は右手を大きく振りかぶって、投球をするように黒い鷲を投げつけると、それを折れていない左手で払った細山さんのボディに飛び蹴りを放つ。
咄嗟に蹴りが当たる直前に、コンクリートをイメージしたような深緑の壁を発現させ蹴りをガードしたが、その壁すら踏み台にして宙返りをしながら細山さんの後頭部を蹴りつけた。
意識を失った細山さんが倒れ、吉村のターゲットがこちらへと変わったのを感じた。
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