【白紙に彩る世界】運命はどこかで繋がっている
私の魔力を吸い込んだ時空は、周りのものを吸い込み始めた。
暴走した時空の歪みは魔力が尽きるまで周りのもの全てを飲み込むのを止めない。
「彩華さん、このまま時の渦の中で一緒に果てましょう。」
彩華には聞こえていない。
だが、そう易々と一緒に心中するつもりはなさそうだ。
「誠一郎さんは、私のものなのよ!!!」
両腕を失ってなお、激しい執念。
獣のように谷崎の魂へと飛びつき、文字通り食らいついた。
谷崎だけは、この渦に巻き込ませるわけにはいかない。
私にかけられた服従の魔法の効果はまだ切れていないようだ。
ひれ伏したままの体制は未だに解くことができない。
服従の魔法を破るには…
「まったく、今夜は何度も滅びる覚悟をさせられる…」
思わずため息が出た。
服従の魔法を破った張本人がそこにいるではないか。
『魂だけで新しい自分を創る』
それは自分であり自分ではない何か。
服従の魔法は魂で作られた彩華には通じなかった。ならば私にも。
「できっこないと思っていたけど、やるしかないわね…」
頭の中でイメージする。魂が新たな自分を形創ることを。
「いけ…私!!」
白く輝く『私』が肉体から飛び出した。
そのまま、彩華が咥える谷崎の魂に掴みかかる。
この魂もいつまで持つか分からない。
『魂を彩る魔法』の効果は永続ではないのだ。
だからせめて、谷崎の魂だけは取り戻す。
必死の形相の彩華も、魂を譲るつもりはなさそうだった。
こちらも全力を出しているが、なかなか離そうとしない。
仕方ない、さらに魂を維持できる時間が短くなるが魂を消耗して魔法を発動する。
「食い千切れ!!八岐大蛇!!!」
両腕が4本ずつ、蛇の頭となり彩華の身体を食いちぎる。
1匹が喉元に食らいついた時、彩華の口から谷崎の魂が零れ落ちた。
咄嗟に拾おうとしたが、鋭い刃物へと変化した彩華の蹴りが左腕の蛇の首を切り落とす。
「くそっ!!!」
右足の踵で思いっきり谷崎の魂を蹴りつけた。
谷崎の身体に届いて…
「ぜい一郎ざごぁあああああ!!!」
もはや獣となった彩華が魂の方へ向かうのを残った右腕で抱きしめて止める。
「さようなら、ありがとう谷崎…」
時の渦は、私たちの魂の身体を引き裂いた。
身体の、魂のかけらは渦の中心へと飲み込まれて行き、やがて時空の渦は消滅した。
引き裂かれた魂は時空の狭間に飲み込まれ
或いは様々な時代へと飛ばされ
ごく僅かに、人の魂と混ざりあった。
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腕もなく、時の流れに多くを持っていかれ、それでも残った魂の体は頭から胸部の途中までだった。
ここがどこなのかも当時は分からなかった。
後で知ったことだが、それは元いた時代の80年ほど未来だったようだ。
当時はなんとも無様な姿だったが、それでも立て直せるところが残っていたのは運が、悪運が強かったのかもしれない。
体を編成し直すほどの魂の量も魔力もない。
だが、ほんの少し、体を触手のように変化させて伸ばすことはできた。
最初は、本当に屈辱だけど、たまたま近くにいた虫から始まった。
触手を伸ばして魂を吸いとる。
自分の魂に合わない魂を吸いとった時は酷い拒否反応が起こった。
下手なことをしたら逆に崩壊してしまう。
そのうち色がわかるようになった。
自分の魂の色は青白い。
青に近い色や寒色、そして暗い色。例えば紫や黒は相性が良かった。
そこそこ魂が回復してきたら、今度は魂を操る術を身につけた。
直接触ってやればいい。
得に近い色は相性が良い。少し自分の魂を混ぜて命令すると、まるで自分の魂のように変化させられることが分かった。
さらには相性の悪い魂も、さらに多量の自分の魂を混ぜることで変化させることができた。
ただしこちらは加工には気が遠くなるような時間がかかった。
だけどこの時、1つの道筋が見えた。
誠一郎さんの魂を一から復元することはできるのではないか。
皮肉なことに、誠一郎さんの魂は虹色。
誰にでも好かれる、どんな色も持てる誠一郎さんらしい色。
この色をすべて集めて加工するには一体どれほどの魂と時間が必要なのだろうか。
だけど不可能ではない、その事実があれば私には十分だった。
魂を集め、加工し、命を与える。
1人で集めるのは難しい。
手駒を増やそう。
手駒には力を与え、より忠実に効率よく…。
少しずつだが、組織も大きくなり色々な魂も集まってきた。
そんな矢先だった。
遠縁だが、同じ血族の女を見つけた。
その女は名前に同じ文字を持っていた。
その女の祖母が、かつて生き別れた私から一文字取って名付けたらしい。
どうでも良いことだった。
そのような感慨はとっくに失っていた。
だが驚くこともあった。
この女の魂には私の魂の一部が混ざっている。
時空に飲まれた欠片だろう。
無意識ながらに、魂の欠片に刻まれた魔法も発動していた。
ほんの欠片から与えられたものだからか、私や、あの魔女の使う魔法に比べたら自由度も低く不完全なものだったが、それでも並みの人間と比べると卓越した力となっていた。
この女の魂はこれまでにないほど私の魂と相性が良さそうだった。
都合良く交流のある手駒を手に入れ、その魂を手に入れようとした。
最後の最後で抵抗され、女の魂を得ることは出来なかったが、今度はその女の娘が私の魂の欠片を引き継いでいることが分かった。
成長しきって十分に混ざる頃に回収するつもりだったが、再び邪魔が入った。
その娘と共に立ちはだかってきた小娘。
この小娘から魂を奪った時には、ただならぬ因縁を感じた。
あの魔女、エミリアの魂が混ざっている。
あの魔女は魂を裂かれ、時を越えてもなお私の邪魔をすると言うのか。
そして
今、私を消そうとしている。
許せない…このままじゃ終われない…
刺し違えてでも、小娘もろともその魂を消してやる!!!
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