【交わる世界3】裏ではちょっと空気な人がいる中で
「魂を1つ奪ったからなんだっていうのよ」
集められた魂は基本的にどれも『強い力を持つ魂』と聞いている。
女からしたら、用途の違いや利便性の差はあれど、どの魂も大した違いはないのだろう。
だけど、私たちにとっては少し事情が違う。
「(これは、奪われた綺羅々の魂…。)」
グッ…
魂を握る手に力がこもる。
「無駄よ。他人の魂の加工は誰にでもできることじゃない。まして、その魂とあなたの魂は性質が全くの逆だもの。」
…確かに。
自分の魂から物質を作り出すようにイメージしても、あの女のように綺羅々の魂を利用することはできないようだ。
「どんなに強い魂でも、自分の魂の性質…分かりやすく言うと魂の色ね。それと近いものにしか簡単には干渉はできないの。」
実演するかのように、女は紫の魂を取り出し、力を込める。
みるみるうちに、紫色の魂は、刃の部分だけでも1m四方はありそうな斧へと変形した。
「…絶望したかしら。それじゃあ、そろそろ終わりにしましょうか。」
女が斧を大きく振り上げ、一息の元に振り下ろした。
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「神楽坂、起き上がれるか?」
何故かさっきまで激闘を繰り広げていたこの男が、仰向けに倒れこんだ自分の顔を覗き込んでいる。
心配してくれているのだろうか。
無表情だから正直分からないが、気を遣ってくれているような気がする。
「なんだよ…とどめでも刺すのなら早くしてくれ。」
ふてくされたような言い方をしてしまったが、こうなっているのもこの細山にやられたからだ。
「戦いは終わった。これ以上は無意味と考えている。それより…」
細山は、敵の本拠地の方を指さすと、言葉をつづけた。
「いいのか?仲間の加勢に行かなくて。」
お前がそれを言うのか。
「…邪魔するのがあんたの仕事だろ。」
皮肉たっぷりに返したつもりだが、何食わぬ顔…のように感じる。表情変わらないからわからんが。
「戦いは終わったと言っただろう。俺はお前に敗れた。だからこれ以上足止めする理由はない。」
「こんだけボコボコにしといて嫌味かよ…」
本当は、嫌味ではないことは分かっている。だがこちらも勝った気はしないので、こちらこそ嫌味の一つでも言いたくなる。
「…世話の焼ける。」
そう言うと細山は、いきなり手を掴んできた。
戦いの後の握手かよ、そんな柄じゃねーだろ。
なんて思っていると、細山が手に力を込めた。
電流?気合い?
よく分からないが、一瞬身体全体に何かが走った。
反射的に身体が起き上がり、無理矢理立たされた。
「な、なんだ今の。合気とかそんな技?」
「そんな大層なものではない。早く行くぞ。」
あまり会話を楽しむタイプの人間じゃないのは良く分かった。
技の正体は謎のままだが、もう邪魔するつもりはないらしい。
少し休んだお陰か、身体を動かすことは出来た。
役に立てるかは分からないが、1人でも戦力は多い方が良いだろう。
吉村、すぐ行くからな。
…ところで細山は何故、一緒に歩いているのだろう。
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女が斧を振り上げた瞬間、綺羅々の魂を思いっきり自分の胸へと押し込んだ。
一か八か、と言われればそうかもしれない。
だけど、何故かできるという確信があった。
振り下ろされた斧が私のいたところを通過する時、既に身体が勝手にバック宙で斧を躱していた。
私のような、私でないような奇妙な感覚に襲われる。
ただ、確実に今まで以上のエネルギーが体中に溢れるのを感じた。
「なんか、なんだか行けそうな気がする…」
「…にゃ。」
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