【交わる世界1】優劣は一度の勝負だけで決められるものではなく試行回数で割合的に決まるものだと思う
そう言えば、谷崎の下の名前、聞いてないな。
場にそぐわないような、そんな呑気な思いがぼんやり浮かんだ。
谷崎がこの女、『彩華』を追う理由も。
そうか、この2人は知り合いなのか。
因縁があったわけなんだ。
谷崎の下の名前って誠一郎って言うんだ。
それにしてもあの女の驚きよう、修羅場か何かかな?
実は2人は元カレ元カノの関係だったとか?
浮かんでは消える色々な疑問の答え合わせをそろそろしてほしいのだけど、谷崎は女を睨んだまま何も言わない。
女は、驚いた顔から元の妖艶な笑みへと表情を変え、谷崎にゆっくりと歩み寄っていた。
「この時代にいるはずは…だけど凄く、似ているわね。」
谷崎の顎へと、怪しげに指を伸ばす。
意にも介さず、いや、むしろ不自然なくらい無表情で、ようやく口を開く。
「俺は、谷崎誠一郎ではない。だが、意思を受け継いでいる。」
そう言い放つ谷崎だが、微動だにせず、女にされるがままだ。
無抵抗と踏んだ女は、スッ、と谷崎の胸に手を突っ込もうとする。
女は一瞬、驚きの顔を見せた、が、次の瞬間には既にその手を防御に回していた。
「相当なスピードで放ったつもりなんだけど。」
得意の、何度もいろんな敵にお見舞いしてきた上段回し蹴りを、女はしっかりと腕で受け止めていた。
「相変わらず、野蛮な子ね。」
こちらからの攻撃など意にも介していないと言ったところだ。
「そっちこそ、相変わらず男に節操ないね」
売り言葉に買い言葉、のつもりだったが、少しイラッとしたのが感じられる。
あの冷静な女が珍しく。
「それで、何の用事なの?もうあなたには飽きているのだけど。」
「こっちだってうんざりだよ。何の目的で魂なんか集めてるのよ。」
「あなたには関係ない話だわ。失せなさい。」
「関係大ありよ。友達の魂も奪われて、こっちは襲われたりもしてんだ。」
「それで、どうしたいの?」
「やっつけて、二度とくだらない真似はさせない。」
「そんなこと、できるのかし…ら!!」
女が片腕を突き出すと、そこから青白く光る蔦が襲い掛かってきた。
「白鷺撃!!」
襲い掛かってくる蔦に鷹をぶつけて相殺する。
「…鷺じゃないじゃない。」
「う、うるさい!」
痛いところを突かれたが、気にしている場合でもない。
能力を足に集中し、瞬間移動のように女の手前まで移動する。
相手が魂で出来た身体ならば、能力を使った攻撃なら肉体を『削る』ことができるはず。
「食らえ…ッ!!」
両手両足を能力のコーティングで固めた乱打。
少しずつだが、女の身体が摩耗していくのを感じる。
無呼吸と、頭の中の瞬間的なブーストのイメージが続く限りの猛攻に加えて、とどめに中段に飛び蹴りを食らわす。
女は倒れてこそいないが地面をこすりながら後ろへと吹っ飛ばされた。
「はぁっ、はぁっ…」
こちらもとめどない乱撃での消耗は大きいが、女の身体がところどころすり減り、削れ、腕や脚は外国の映画のチーズのようになっている。
「やるじゃない…うふふっ」
女はどこか余裕を感じさせる。
…ハッタリに決まっている。
前回戦った時は、ボロボロになった後は明らかにパワーダウンしていた。
身体そのものがすり減っているのだ、余裕などあるわけがない。
「…これはどうかしら?」
すり減った腕をこちらに突き出し、今度は青白く光る大蛇を飛ばしてくる。
『蒼蛇撃』
前回はこの技に苦戦を強いられたが、こちらも何度も同じ手を食らうほど馬鹿ではない。
「白龍撃っ!!」
こちらの手から発した白龍と大蛇がぶつかりあって消滅する。
消滅の瞬間、能力の性質上、蒸気のような形状となる。
一瞬、視界が完全に防がれたが、咄嗟に倒れこむように身を落とす。
予想通り。
スッ、と暗闇から姿を現した女の右手が宙を切り裂いていた。
横向きに倒れかけた身体を、左脚で支えながら、右脚にブーストをかけてそのまま回転、スピードの乗った蹴りを胸元へ叩きこむと今度は吹っ飛ばした拍子に膝をつかせることに成功した。
「よく、対策してきているじゃない。」
笑い顔は崩さず、しかし少し苦しそうに女は言った。
「思春期の女子高生は、成長が早いのよ」
こちらも汗を拭いながら、ニヤッと笑ってやった。
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