【男の意地2】10のうち9勝てないなら1で一点突破に賭けるしかない
三節棍…簡単に言うと3つ棒がついているヌンチャクみたいなものだ。
関節の動き、という点では確かに細山の技に近いかもしれない。
不敵な笑みを浮かべる椿だが、もし当たったら怪我をさせてしまうのではないか。
そんな心配をするが椿は、
「なぁに、むしろ怪我させられるものならさせてみて欲しいものだ。」
と笑いながら言い放つ。
ムッ、となりながらもそう言うことならと、三節棍を背に隠し、どちらの手で繰り出すかも分からないようにする。
じりじりと間を詰めていくが椿は微動だにせず待ち構えている。
「どうした?こないのか?」
促されて慌てたところもないわけではなかった、と思うが怪我をさせても仕方がない覚悟で、思いっきり右から三節棍を振り抜いた…!!
一瞬、三日月の閃光が走った。
振り抜くつもりだった三節棍、その先端の連結部が見事に断ち切られ、椿へと届いてはいなかった。
「『コレ』をその細山とやらに食らわせて驚かせてやる、ってのも面白そうじゃないか?」
椿は楽しそうに告げた。
(木刀で鉄の連結部を斬るのかよ…)
と、内心はドン引きしつつ。
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正直、半分は賭けだった。
前回同様、右手で攻撃をしようとするだろう、というヤマを張った。
それが細山にとって一番『やりやすい攻撃』だろうという予測と、裏をかいて左手や蹴り、他の攻撃パターンをさせないために少しでも熱くさせるのを狙った挑発の数々。
手の平は猫手を固く握り、手刀よりは固く、拳よりは鋭く
円月のように大きく、だが素早く加速させた一撃は、非力な腕力でもそれなりには痛かったはずだ。
また、攻撃体制に入っていたことから防御も間に合わなかったであろう。
右手じゃなければ、ヤマが当たっていなければ恐らく成功しなかっただろうし、2度同じことをするのも恐らくは無理だろう。
だが、成功してしまえば
「…見えているのか?」
と、警戒する細山の出来上がりである。
ニヤリ、と笑って見せ、
「ここは1人で十分だから、2人は先に行っててくれ!」
と、仲間を送り出すついでに余裕であることをアピールすることもできる。
「やるじゃねぇか。」
フッ、と笑って拳を突き出された谷崎の拳に、こちらもコンッと拳を当てて2人を見送る。
「颯士!気を付けてね!」
走り去る灯里の声援に、無言で頷くと、再び細山に向き直った。
「少し侮っていたようだな…」
今度はゆっくりではなく、素早く駆けながら右手を振りかぶってくる。
最初のダメージなど微塵にも気にしていない様子のそれは、スピードはこれまでの何倍も速い。
(だけど…)
スピードが乗った分、複雑な変化をする間もない右手は、もはや恰好の餌食だった。
今度は直接、細山の右手首を掴んでこちらへ引っ張る。
体制を崩してこちらに倒れかかってくる細山の顎に、今度はこちらの右手でカウンター気味に掌底を食らわせる。
「ぐっ…」
珍しく細山から漏れる苦悶の声。
続けて蹴りをお見舞いしてやろうと大振りのローキックを放つが、それは左脚で受け止められそのまま距離を取られる。
これはいける…!!
最初の奇襲、自分の得意なパターン、さらには新しいパターンまで成功している。
吉村と谷崎さん、2人がかりでやっと倒したという細山を1人で圧倒しているんだ。
「名は…何と言ったか。」
よくある、強者を自分の頭の中に刻み込むために名前聞くやつきた!!
あの手練れの細山が、俺を認めているんだ!
「神楽坂颯士だ。」
思わずにやけそうになるのを堪えながら返す。
しかとその胸に、脳に名前を刻むがよい。
「その名、覚えておこう。」
ジリッ…
一歩、細山が前に出る。
「今から倒される者としてな。」
そう言うや否や、三度細山が襲い掛かってきた。
こちらも咄嗟に身構えたところに、今度は左右両方の腕が伸びてくる。
クワガタのハサミのように迫ってくる両腕は、ほぼ真横からの攻撃のせいで掴んで引っ張るのには適さない。
咄嗟にしゃがみこんで両腕を避けるが、それを見越していたかのように今度は左膝が顔面目掛けて飛んでくる。
両手の平を重ねてガードするが、完全には防ぎ切れず、後方へと仰け反ってしまう。
こちらの体制が整わないうちに、追いかけるように細山の足に力がこもる。
そのまま、一瞬溜めた足で力強く足を踏み込むと、一気に2人の距離が縮まった。
(マズい…!)
そう思った時には細山の前蹴りがみぞおちにモロに入る。
「ガハッ…」
見えてはいたのに、崩された体制では対応することができなかった。
呼吸をするのもしんどい、なんて考えている間に、頭に強い衝撃が走った。
右の回し蹴りが叩きつけられた、と気づいたときには地面と天井がひっくり返っていた。
「魂までは取らん。そこで眠っておけ」
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