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【白紙の世界20】彩る世界の終わりと始まり

『本当の名前』で命令されると逆らえなくなる。だから絶対に隠し通さないといけない。


祖母の言葉だ。


だけど、これまでにそのような危機に陥ったことはなかったし、どうやって知ったのかも分からない。


だけど間違いなく、彩華は私の『本当の名前』を使って命令をしてきた。


とどめを刺すはずだった瞬間、地面へと私を叩きつけたのは、他の何物でもない、私自身の身体であった。


「魔女もちゃぁんとひれ伏すのねぇ」


ニヤリ、と言う表現がしっくりきそうな薄ら笑いを浮かべた彩華がこちらを見下ろしている。


完全な誤算だった。魔女の力さえ出すことが出来れば負ける要素などないはずであった。


あと一歩のところだったのに…


「さて、あなたを先にやっつけちゃいたいのは山々なのだけど…」


彩華の目線が、私から谷崎の魂へと移る。


「もうっ…我慢できないからッ!!」


谷崎の魂に飛び掛かった彩華は、すぐにそれを拾い上げると魂に魔力を込め始めた。


「(できる…はずがない!)」


『魂を彩る魔法』は自分の魂を形作る魔法。


いくら彩華が天才だとしても谷崎の魂を加工することはできないはず…できるはずはないんだ。


魂に魔力を込め続ける彩華を見ると案の定、魔力の光はしばらくするとすぐに色を失っていた。


「(『本当の名前』を知られている以上、不意打ちしかない。)」


服従の魔法の効果は永続的ではなく、比較的短い時間しか拘束ができない。


谷崎には悪いが、魂に夢中になっている間に作戦を考えさせて貰おう。


拘束が解けた瞬間にすぐに動き出せるように…。


それに、すでに人間ではなくなっているこの女を野放しにするわけにもいかない。


命の業を背負う覚悟は出来ているつもりだ。


恐らくチャンスは1回だけ、外したら次は二度と服従が解けないように警戒するはず。


一撃で吹き飛ばすような大技をイメージするしかない。跡形もなく吹き飛ばすような大技を。


「どうしてできないのよ!!」


ヒステリックに叫ぶ彩華の声が聞こえてくる。


当たり前だ。いくら魔法の才能があっても、知識なしで他人の魂に干渉などできるものか。


悪く言うと高を括っていたのだが、彩華の目に仄暗い光が再び宿った。


「これなら、どうかしら?」


彩華が手にしたのは、谷崎を治す時に持ってきておいた『魂を彩る魔法』の瓶であった。


中の液化した魔法を谷崎の魂へと注ぎ始める。


他人が干渉できるのかは分からない、分からないが少なくとも『魂を変形させることができる状態』にはなってしまった。


悠長に作戦を練っている場合ではない。万が一のことはあり得る。下手をすると谷崎の魂が加工されてしまう。


頭の中で一気にイメージを膨らませる。


一撃で消滅させられるような大技。


「『魔女に与える鉄槌』」


何とも皮肉な名前の呪文だ。


地を這うような白光の業火が彩華へと走る。


火あぶりなどと悠長な技ではない。触れたものを一瞬で蒸発させるような閃光である。


確証はない、が、眩いばかりの閃光が彩華に炸裂していたように見えた。


谷崎の魂は無事だろうか。


正直、イチかバチかだった。


地を這う性質の炎が真正面から当たれば、腕に持つ魂だけは残るのではないか、と運任せの賭け。


だけど、どうやらこの賭けには勝ったようだ。


閃光が収まり視覚が復活すると谷崎の魂が地を転がる姿が見えた。


だが問題は


腕だけが千切れた彩華の姿もまた見て取ることができたことだろう。


「届け!!!」


咄嗟に精製した長い針で谷崎の魂を刺して手繰り寄せるつもりだった。


「エミリア!ひれ伏しなさい!!」


無理矢理身体が傾く。


針は谷崎の魂を掠めたが、刺すことは叶わなかった。わずかに魂が欠けるのが見える。


「油断も隙もない。けれども、もう」


もう、油断はしないってことだろう。


酷い。


酷く憂鬱な気持ちが胸に広がる。


凄くイヤだけど、やはり責任は取らないといけないよね。


「彩華さん、おしまいよ。私もあなたも」


このままこの、化け物となった彩華を野放しにするわけないはいかない。


ひれ伏したままの体制で、目に宿る全ての魔力を開放する。


「そんな格好で何が出来るって言うの?」


ニヤニヤしながらこちらを見る彩華には構わず、ひれ伏したままの体制で叫んだ。


「時空よ、私の魔力を取り込め!!!」


解除せずにいた時魔法が魔女の強力な魔力と混ざり始める。


時魔法の暴走。別の時代か、異空間か、どこに行くかは分からないそれは、ブラックホールのように大きな歪みを作り出していた。


歪みは手近なものからどんどんと吸収していく。


吸い込まれそうになりながらも必死に抵抗する彩華、そして私自身も強力な引力を感じていた。





「姐さん、どうかしたんですか?珍しく考え込んだ顔をして。」


心配なのか、媚びてのことか、新島が彩華の顔を覗き込んだ。


「少し、昔のことを思い出していただけよ。」


ふん、と冷たい態度であしらうと彩華は続ける。


「それより、魂が足りないわ。もっと持ってきなさい。」


「へいへい、生きのよいやつ取ってきまさぁ」


そう言って去る新島は気にもかけず、彩華はただ一人呟いた。


「待っていてね、誠一郎さん」



ここまで読んでくださってありがとうございます。


面白かったら「いいね」「ブックマーク」などしていただけたらありがたいです!


今後ともよろしくお願いします!!

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