【白紙の世界18】同じ目的でも過程が一致するとは限らない
腕をなくした肩口は魔法で止血したとは言え、気を失いそうな激痛を発していた。
だが気を失っている場合ではない。
『時間を戻す魔法』
これで谷崎の身体を元に戻す。
だが制御が難しく、こんな行き当たりばったりで使うのはリスクが相当に高い。
時魔法の瓶を手に取りながらも、失敗した時のことが頭によぎる。
頭によぎる不安を、首を振って払拭しようとする。
魔法に大切なのは精神力と想像力。私ならできるはず。
悪い想像をするとそちらに引っ張られてしまう。
『時間を戻す魔法』の瓶の中身の液体はこぼれてしまって残り半分もない。
時魔法の残量と、谷崎が怪我を負ってからの時間を考えると1回が限界か。
まずは自分の目と腕の時を巻き戻して元に戻せば…
いや、魔女の力が復活したとしても、媒体なしの時魔法は難しい。
それでなくても危険が及ぶのだ。これ以上のリスクは避けたい。
それに、じっくり悩んでいる暇はないのだ。
無碍に時間が過ぎていくことで巻き戻す必要がある時間も増えていく。
『谷崎を治す』
これが最優先事項だ。
無くなった片目と、流しすぎた血のせいで視界も暗く狭い。
重傷と言える体をなんとか引きずって谷崎の元へ行く。
早くしないと…
・
・
・
誠一郎さんの身体からはどんどんと血が流れていく。
即死かもしれない、もしかしたらまだ生きているのかもしれない。
あの女から得た魔法の力でなんとかできないのかしら。
想像したものを創造する力。
魂でものを作る力。
これで誠一郎さんの肉体を作る?
どうやって?
人の身体の細かい作りなんて分からない。
そう…
肉体を修理しようとするから難しいのよ。
私のように誠一郎さんを魂だけの身体に作り替えてあげれば良いわ。
あの女にも気を引かれない、私だけの誠一郎さんを。
自分のものではない、他人の魂も加工できないのかしら…
誠一郎さんの魂をなんとか取り出して…
・
・
・
放心したのか、泣くことすら止めてしまった彩華さんはずっとブツブツと独り言を呟いている。
だが関わっている暇はない。無視して谷崎を治さないと。
『時を戻す魔法』の瓶を傾けて液化した魔法を谷崎にかける。
同時に、その液体に魔力を注入する。
残り少ない魔力だったが、時魔法の液体と混ざり合い、小さな銀河が作り出された。
あとは…魔法そのものの制御だ。
これが非常に難しい。出力を抑えないと暴走して最悪の場合は時空の狭間に飲み込まれてしまう。
かと言って、戻す時間が短すぎると谷崎がダメージを受ける前まで戻すことができない。
朦朧とする意識の中、痛みすら感じなくなってきたがこれだけはやり遂げなければいけない。
残った片方の腕に神経を集中させる。
時魔法の力は強大だ。もはや私が与えた以上の魔力も吸われていくのを感じる。
私自身の魔力の残量が少なかったのが幸いした。これ以上は出涸らしだ。
必要以上の魔力を吸われて暴走される心配もない。
制御された魔力によって、映画のフィルムを逆に回すかのように谷崎の身体が戻っていく。
ここまでは順調だ。
ついでに、と言っては何だが私の傷も元に戻り始めている。
運が良ければ腕と目も治るかもしれない。
そんな楽観的な気持ちを持ってしまったからかもしれない。
気が緩んでしまったからなのか。
谷崎の命だけで良かったのに、多くを望んでしまったからなのか。
結果だけ先に言うと、失敗したと言えるだろう。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
面白かったら「いいね」「ブックマーク」などしていただけたらありがたいです!
今後ともよろしくお願いします!!





