【白紙の世界17】別名:しまった、初登場時と名前が違った!の巻
谷崎はいつも優しかったが、その優しさの中には合理性もあった。
本人が狙っていたかどうか、恐らくは無自覚にだろうが、優しくされた人は谷崎のことを気に入り、一緒に仕事をしたくなり、谷崎に協力をしてくれていた。
求めていたわけではないであろう見返りと、それを納得できるだけの優しさを振りまいていたのだろう。
だけど、こんな優しさは嬉しくもなければ合理性もない。
ただただ、私を庇って谷崎の背中から脇腹まで、彩華の放った大剣が貫通していた。
もし魔女の力が使えれば傷も癒せただろう。
だが、その力も今や目を潰されて発動できない。
何か、どうにか手は…
凶行に及んだ彩華本人は酷く取り乱していた。
「誠一郎さん!!誠一郎さん!!!」
駆け寄ってくる姿はいつもの彩華そのものであった。
谷崎以外はどうでも良いといった彩華の精神が自然と拘束していた魔法から私を開放させた。
「なんとか、動けそう…」
彩華はもはやこちらを見てもいない。
谷崎の横で両手で顔を覆い涙を流している。
「誠一郎さん、私…そんな…」
泣きじゃくる彩華は無視して、なんとか魔法を収納していた棚へと近づく。
棚も倒れ、いくつかの魔法の瓶は棚から落ちて転がっているものもある。
「目が半分見えないって不便だわね…」
目だけでなく腕も半分か、なんて自虐しながら、使えそうな魔法を漁る。
魔女化できなければ生命魔法も使えない。
だけど、魔法使いはいつも色々な魔法を研究し、工夫し、新たな魔法を作り出してきた。
まだ谷崎は死んではいない。
貫かれた体をなんとか修復できれば…
使えそうな魔法は…
『時間を戻す魔法』と…『魂を彩る魔法』か…
『時を戻す魔法』…時魔法は非常に危険だ。時間を戻す砂時計も、腕が未熟で1秒しか戻せない、というわけではない。
実際はその逆で、『危険な時魔法だから暴発しないように1秒くらいの効果しか発揮しないように抑え込んでいた』のである。
できればこちらの使用は避けたい。パワーを発揮した時魔法を制御することはベテランの魔女でも難しい。
下手をすると過去か未来か、異空間か、どこかも分からないような場所に巻き込まれて永遠に帰ってこれなくなってしまう。
『魂を彩る魔法』はどうだろう。
新たに皮膚や筋肉を具現化して傷を止めるか?
しかし医療の知識のないものにこれを実行するのはかなりの賭けだ。
最悪、彩華のように魂を人間の形に取り出す、なんて強行策もあるのかもしれないが、恐らくは無理だと思う。
あれは彩華が天才であったことと、自分の魂で自分を作ったからできたこともあるのだろう。
自分で自分を作るのならば、ほとんど差分なくイメージできるだろうが、他人を作り出すとなると、主観や願望が入り混じってしまう。
有り体に言うと、良くて『よく似た誰か』になると言ったところだろう。
となるとやはり時を戻す魔法か。
何かが頬を伝う感触がしたが、それが汗なのか血なのかはわからなかった。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
面白かったら「いいね」「ブックマーク」などしていただけたらありがたいです!
今後ともよろしくお願いします!!





