【白紙の世界16】魂を加工したやつが魂を加工したから魂だけがあって魂がねたましいたましいに
魔女の力を司る左目。ご先祖様から受け継いできた力。
その力を潰されてしまったことを理解するには少し時間がかかってしまった。
そして油断していた。あの拘束を解けるほどの力が彩華にあったとは。
「これでもう、魔女の力は使えないのかしら?」
しっとりとした様子で、静かに近づいてくる。
「そういえば彩華さん、何故あなたが2人になったのか詳しく聞いてなかったわね…」
左目を抑えながらなんとか痛みに耐える。作戦を考えるために時間を稼がないと。
「言ったでしょう?私自身を『創った』って。」
もう、強力な魔法を使う力はない。杖を拾うのも恐らくは絶望的…。
もっと時間を稼がないと。
そんなこちらの思惑を知ってか知らないでか、得意そうに彩華は話を続ける。
「この魔法、『魂を加工してものを作り出す』のでしょう?」
にゅるにゅると手のひらから蔦を生やして見せてくる。
「だから、『魂全部使って』『新しい自分』を作り出してみたの。」
…すべて合点がいった。やはり彩華は天才なのかもしれない。
本来、『魂を彩る魔法』は全ての魂を使い切ることはできない。
全部使い切る前に意識を失ってしまうし、そもそも魂を全て使い切ったら生きていることすらできなくなるからだ。
だが、『自分自身』を作ってしまえばどうだろう。
自分の魂は、自分自身でしか加工できない。
しかし、新たに作った『自分』なら、古い自分の中にある魂を加工させることもできるし、全て新しい体に取り込むこともできる。
恐らくは、殺したと思っていた時には、既に肉体は魂の抜け殻になっていたと考えるのが妥当だろう。
『服従の魔法』が通じなかったのは、新しくできた魂だけの『彩華さん』は、『本来の彩華さんではない別のもの』だからと言うことだろう。
そして、魂だけの体なら…
「魂だけの体になったら、持っている力がすべて出せるみたいで…」
彩華の顔が狂気の笑顔へと変わる。
「凄く、開放感があるの!!!」
彩華の両手から無数の蔦が伸びてくる。
凄まじい量の蔦、だけどワンパターン…!!量が多くても避けるくらいなら…
右側から伸びてくる大量の蔦を左へ避ける。避けたつもりだった。
「相田さんっ!!!」
谷崎の声が聞こえたが、意味を理解した時には遅かった。
見えない左目、左半身に感じる衝撃。
そして左肩に遅れて感じる激痛。
あるべきはずの左腕を確認しようとしたが、存在を感じられなかった。
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谷崎が私の前に立ち庇おうとするが、普通の人間にどうこうできるものではない。
まして、谷崎を傷つけさせるわけにはいかない。
さらに伸びてくる蔦。
なんとか激痛に耐えながら、右手で谷崎を押しのける。
「あんたが庇わなくても、誠一郎さんには当てないわよ!!!」
何が怒りの琴線に触れるか分からない。恐ろしいな、ヒステリックは。
そんなことを呑気に考えている余裕もない。
こちらも焼け石に水のように、風の魔法を放つ。
初級の魔法。ダメージを与えられるほどのものでもないしワインを浮かせるくらいがせいぜいの魔法。
放った風の魔法は、彩華にかすりもせず、代わりにこちらは彩華の放つ蔦に抵抗もできないまま吹っ飛ばされる。
「同じ魔法ばかりも芸がないわね」
彩華がスッと手を振ると青白い光の針が両太ももと、残った右腕の二の腕に突き刺さる。
「ぐっ…」
痛みに耐えた、が、突き刺さった針がぐにゃりと変形する。
「なっ!?」
針は変形して蛇へと姿を変える。そのまま全身をぐるりと縛りつけてくる。
「縛られるのはお好きかしら?」
クスクスと笑いながら彩華は煽ってくる。
「さっきのお返し、よ♪」
得意げに語っている彩華の姿は、肉体がある時とほとんど同じだが、その表情は悪魔にしか見えなかった。
「情けはかけるもんじゃないわね…」
彩華に言ったのか、自分に言い聞かせたのか、自分自身でも分からない。
「その通りね!」
こちらの言葉に反応し、彩華の触手の1つが大きな剣へと変わる。
「もういい加減、死んでもらうわね!!」
急速に襲い掛かってくる大剣に、いよいよ終わりを覚悟した。
大剣が肉を貫き、骨をへし折る音が研究室に響いた。
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自分が死ぬよりも、辛い結末が目の前に広がっていた。
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