【白紙の世界14】何を言っても言い訳にしかならない場合はどうすれば良いのだろう
『そうしないと殺されていた。』
こんな言い訳が通じるわけもないのは重々承知していたし、するつもりもなかった。
『殺したくなかった』
なんて言葉に何の意味も持たない。
だって実際に『死んでいる』のだから。
谷崎は状況が理解できていない。
ただ、彩華と私が争って、彩華が死んでしまったことは理解できていたようだ。
いや、こちらは無傷だ、一方的に殺したと思われているかもしれない。
「どうして…」
その先は何だろう。
どうして彩華がここに?
どうして争った?
どうして…殺した?
言い訳はする気はないが、状況を知って欲しかった。
何を喋ればいいか分からないけど、何か喋らないと。
「あのね、谷崎…その…何から話せばいいか分からないけど…」
谷崎はこちらの言葉が耳に入っていないのか、彩華の横で膝をつき、ただ茫然と佇んでいる。
「私、彩華さんに恨まれていたみたいで、それで…」
「いや、言い訳をするつもりはないのだけどその、争いになっちゃって」
「こんなことになるつもりはなかったのだけど、本当に、なんて言ったらいいか」
「谷崎…」
「ごめん」
謝ってしまうことが逆に谷崎を傷つけることは想像に難くなかった。
謝るということは認めてしまうことだから。
彩華の死、そして私が殺してしまったことを。
けれど、沈黙に耐えられなかった。謝らずにはいられなかった。
何か言って欲しい。喋って欲しい。たとえそれが罵倒だとしても。
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沈黙の数分間。1時間にも10時間にも感じる長い時。
私は一つの決心をしていた。
「ねぇ、谷崎。そのままでいいから聞いて欲しい。」
相変わらず谷崎は微動だにしないが構わず続ける。
「短い間だけど谷崎と一緒に居られて、新しい世界が知れて」
「…」
「今までにないくらい毎日がめまぐるしく動いて、大変だったけど。」
「ううん、大変と思ったことはなかった。毎日充実していて、疲れさえも心地よくて」
「私もこんな陽が当たる世界が訪れるなんて、とても幸せだった。」
「彩華さんは…正直最初からイヤなことを言ってきたりして、好きじゃなかったけれど…」
「けれど、そんな彩華さんも谷崎の世界にはとても大事な存在で…」
「私は、谷崎にはとても感謝している、だから…」
「彩華さんを生き返らせるね」
あと1つだけ禁を破ることになるけど。
『生命の譲渡』
死んだ人に自分の命を分け与える魔法。
責任を取るつもりではない。これで恩を着せるつもりでもない。
ただ、谷崎の悲しむ姿は見たくなかった。
今一度、力を開放して魔女の姿に戻る。
そのまま彩華さんの元に歩み寄り、手をかざす。
変貌したこちらの姿を見た谷崎が驚いた顔をしていたが、構わず続けた。
かざした手から生命の光が放出される。
彩華の体を光が包み込む。
正直しんどい。生命を放出するだけでもこんなにキツいのに、生命が終わるのはどれだけキツいんだろう。
成り行きとはいえ、他人にそれを強いてしまった。
やっぱり、責任を取る意味もあるのかもね。
「ごめんね、彩華さん」
「謝る必要はないわよ」
突然、背後から首を強い力で掴まれた。
「あなたのすべてを私が貰うから。」
彩華の亡骸はそこにある。
じゃあこれは一体…
首を掴む手を振りほどいて振り向いたところには、もう1人の彩華がいた。
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