【白紙の世界12】こんなのどうやって倒すんだよ(55話ぶり2回目)
女から伸びた青白い触手は、私に絡みついて女から離れることを許さなかった。
ズルズルと女の方に引き寄せられる。
「ほらほら、逃げてみなさいよ」
暗い笑みを浮かべながら女は言う。
先ほどの攻撃でこちらは結構、魂の力を消費してしまった。
頭はクラクラしていて、脳みそが働くことを拒否し始めている。
無駄なく確実に決めたいが、適切なイメージが思い浮かばない。
何か…
「まぁ、逃がさないんだけどね!!」
女の声に呼応するかのように、触手からトゲが生え、私の体に食い込む。
「んぐっ…」
こらえようにも勝手に声が漏れてしまう。
痛みでイメージを組む余裕もなくなってしまった。
体中のあちこちから血が滴る。
「じゃあ、お返しね!」
よっこいしょ、と言わんばかりのお手軽さで、そのまま壁に叩きつけられる。
『ゴンッ!!』
背中から壁に叩きつけられた。
食い込むトゲ、体中に響き渡る重い衝撃。
心が折れるには十分だった。
どうしてここまで…
こちらが完全に動けないにも関わらず、触手…と言うよりはむしろバラの蔦が締め上げてくる。
『ギリギリギリギリ…』
締め上げながら持ち上げられる。
このまま、また叩きつけられるのだろうか。
もう、何もできないのに…
声が漏れることすらできなくなったことを察したのか、女の顔から笑みが消え、つまらなそうな顔になった。
「そんなキズモノの体じゃあ、誠一郎さんも見向きもしないわよね」
女は、『ふぅ…』とため息をつくと、蔦の拘束を緩めた。
もしかしてここで終わってくれるのか?
いくら何でも殺人で逮捕されるのはハイリスクなはず。
できればもうやめてほしい…。
謝って済むなら謝るから…。
「ほどほどに気も済んだことだし、このくらいで終わってあげようかしら。」
よかった…やっと終わる…。
もう贅沢しなくても良いから、一生日陰暮らしで良いから、命が助かって良かった。
大丈夫、魔法の研究でもほそぼそとして生きていければ満足だから…。
瞬間、一度は消えた女の笑顔が復活した。
「あなたの大事なものを奪ってからね。」
蔦が光を出しながらみるみる変形していく。
なんだ?内臓でも取り出そうというのか?殺さないんじゃあなかったのか?
動かなくなったはずの体がガクガクと震えだす。
一度安堵していた分、絶望に底がない。
変形した蔦の先は、木の根のようになった。
根付くように私の体に這いまわったそれは、急激に光り始めた。
この光は、
魔力の光!!
「あなたの魔法の力、全部私のものにしてあげるわ!」
私の体の中から、確かに魔力が無理矢理引き出される感覚が起こる。
「やめ…!それだけは!!」
クラクラしていた頭も、息をする力もなかったはずの体が、懇願の声を上げる。
魔法だけは、私のすべてなのに!
「正直なところね、誠一郎さんは貴方に惹かれていたわ」
女はこちらの言葉など無視して話始める。
「お願い…やめて…」
「そりゃあ、こんな素敵な魔法の力なら惹かれても仕方ないものね」
「お願い…もう…」
「だけど、誠一郎さんが惹かれたのは、あなたの『魔法の力』だけ」
「おねが…」
「この力が私のものになったら、誠一郎さんは私だけを見てくれるわ!!」
勝ち誇ったように女は笑う。
谷崎…谷崎は魔法の力だけを見ていた、か。
確かにそうだろうな。最初から期待はしていなかった。
女として見て貰うには、あまりにも私はちんちくりんだし、胸もないし、ソバカスも消えないし、オシャレでもなければ、容姿も中途半端…。
あれ、私って女として見て貰いたかったんだっけ…。
「殺さないであげるから、誰にも愛されない人生で寂しく生きなさい!!」
根っこが魔力を吸い上げるペースが早くなる。
すでに半分ほど、魔力は吸われてしまった。
このまま、魔法も、谷崎も、何も手元には残らない…
そんな人生、生きてるって言えるのかな。
このまま、全て何もなくなるくらいなら、
なくなるくらいなら…
禁を破ろう。
「『血の楔を解き放て』」
…
「何よ、急に大きな声出しちゃって…何も起こらないじゃない。」
少し、声に驚いてビクッとする女の姿が面白かった。
だが、驚くのはこれからだ。
白銀の左目から、黄金色の魔力があふれ出す。
先祖より受け継がれし禁じられた力。
その強大な力ゆえに恐れ、狩られた、真の魔女の力。
左目に封じていた力があふれ出し、全身を包み込む。
全身の傷は癒え、髪は銀髪へと変色する。
白銀だった左目は、魔力を開放し右目と同じブラウンへと変わる。
体中に貼りついていた木の根は一瞬で蒸発した。
「もう戻れないよ、『彩華さん』」
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