【白紙の世界9】そろそろ繋がってきそうな回ですね
谷崎は私に優しくしてくれるし、表向きは良いビジネスパートナーのようでもある。
それでも、あの日以来、意識的に距離を置かれているようにも感じる。
あの鬼ババに気を遣っているのだろうか。
それくらいあの鬼ババを大事に思っているのだろうか。
そりゃあ、ただの仕事だけの間柄の私と恋人ならば、恋人を大事にするのは当然のことだろう。
けれど、あの鬼ババのどこが良いか分からない。
ただのヒステリックなババアとしか思えない。
谷崎と性格が合っているとはとても感じられなかった。
商品開発の合間に研究していた魔法がもうすぐ完成する。
この魔法が完成したら、谷崎の気持ちを知ることができる。
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『日々を彩る魔法で』
このプロジェクトもいよいよクライマックスが近い。
谷崎重工のバックアップにより、通常ではありえないほど質の高い魔法雑貨を多く作ることができた。
そして、プロジェクトの目玉である『悪魔も恋する魔法のコロン』
正直言ってこれは良くできた。
簡単な話、ちょっとした惚れ薬なのである。
ただし、本気の惚れ薬では悪用されると世の中をめちゃくちゃにしてしまう恐れがある。
大げさな名前とは相反してこの魔法は『ちょっと周りの人の気を引く』『もともと自分のことを気にしていた人がもっと気になってしまう』くらいに効果は抑えてある。
例えば『そろそろ付き合って5年も経つのに彼がなかなかプロポーズしてくれないのぉ~ん』なんて脳みそがはちみつのように甘ったるそうなことを言っているような女子。
そんな女子がこれを自身に使うことで、マンネリしていた彼の気持ちを再燃、プロポーズまで秒読み!
…このように、ちょっとした恋の後押し程度には十分な効果が期待できるのだ。
これを今日は実際に使用するところを関連会社へお披露目する発表会がある。
正直、アイデア自体はすべて谷崎のものだ。
私は魔法は使えてもこのように人々のニーズに合致しそうなものが何なのかは分からないし、恋する気持ちや悩みなんてもってのほかだ。
私一人ではとてもたどり着けなかった。
谷崎には感謝している。
私の魔法に日の目を見せてくれたことを。
私は恋とか似合わないし、これから谷崎とどうこうなろうなんて言う気持ちもない。
このプロジェクトが終わったら、会社との契約も一旦終了する。
そうしたら今までのように当たり前に会うこともなくなるだろう。
だから、最後に私のことをどう思っているのか知りたい。
どうしてこんなに私に良くしてくれたのか知りたい。
単に魔法が珍しかっただけなのか。それとも、少しは私自身を気にしてくれていたのか。
発表会が終わったら谷崎を研究室に誘おうと思う。
そして…
一緒に行う最後の魔法で、谷崎の気持ちを知りたい。
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「…以上が『日々を彩る魔法で』プロジェクトの要、『悪魔も恋する魔法のコロン』でした。」
焦りながらもなんとか一通りのプレゼンを終えることができた。
関連会社のお偉いさん達の反応も上々だ。
実際に私に気を引かれて
「いやー、まさに魔法!お嬢さんが気になって仕方がなくなったよ!」
と、半分冗談、半分本気のようなことを言ってくる人もいたくらいだ。
だけど、このプロジェクトの成功で私の目的はやっと半分。
ある意味では発表会よりも緊張する。
「あの…今夜、研究室にこれませんか?最後にとっておきの魔法を見せたくて」
谷崎は、いつもの素敵な笑顔を向けて
「これから、ですか?」
と訊ねてくる。
表面的には笑顔だが、きっと内面ではあの鬼ババに気を遣ってOKしづらいんだろうな…
そう思っていると、谷崎は腕時計を見て時間を確認してから言った。
「21時…いや、21時半頃なら伺えますよ。ちょっとこれから、挨拶や後始末があるのですぐには向かえませんが…」
半分くらいの確率で、断られると思っていた。
だけれども、単に本当に忙しいだけで、来てくれるらしい。
遅くなろうとも、それはとても嬉しかった。
「じゃあ、魔法の準備をして待っていますね」
期待半分、恐怖半分。
人の心を知るための魔法。見たいけど、見たくない。
だけど、谷崎は来てくれる。
それだけでも私にはとても嬉しかった。
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