【白紙の世界8】アブラムシってGのことです
あの魔法雑貨屋なんてうさん臭い店に言ったのが間違いの始まりだった。
誠一郎さんは素敵な人だけど、どうにも子供っぽい一面がって困る。
魔法なんて子供が喜びそうなものを見せたら興味を持つに決まっている。
もっと強く止めるべきだった。
あの田舎くさい女は、確かに何か不思議な力を使っていた。
ただの手品かとも思ったが、少なくとも見えない力でワインを巻き上げていた。
ちょっと脅かしてやればびびっていなくなると思っていたのに、忌々しい忌々しい忌々しい…
あの田舎女のせいで誠一郎さんと過ごす時間が少なくなった。
あの田舎女のせいで誠一郎さんは魔法に夢中になった。
あの田舎女のせいで…
私を、見てくれなくなった。
許せない、許さない。
脅しても引き下がらないのなら、
もう、
殺すしかない。
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さすがに殺人はご法度。
今の時代、敵討でも犯罪となってしまう。
私が捕まってしまったら、誠一郎さんと一緒にいるどころではなくなってしまう。
…事故死なら?
もし事故死ならば、何も問題ないのではないか。
例えば魔法が暴発して事故が起こった、とかならば。
死ななかったとしても、例えばあの女の顔が焼けただれでもしたら誠一郎さんは気持ち悪くて近寄りたくもなくなるだろう。
何か、何かあの女を事故に巻き込めるような魔法はないだろうか。
焼死でも溺死でも爆死でもなんでもいい、とにかくあの女を始末できれば…
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あの女の研究室に忍び込むことはそんなに難しい話ではなかった。
警備員も私が誰なのかは十分に理解していて、『視察のため』とか適当なことを言っておけば簡単に合鍵を渡してきた。
それにしても図々しい、会社に研究室まで用意してもらって。何様のつもりなんだか。
研究室には瓶に何かしらの液体が詰められたものがいくつも並べられている。
そしてその1つ1つにご丁寧に何の魔法の道具なのかラベルが貼ってある。
不用心ね。
バカさ加減に思わず笑いが出てしまいそう。
どれどれ・・・
『頭の中を念写する魔法』
『思い描いたものを粘土で表現する魔法』
『開発中 触るな』
この辺りは事故に見せかけるにはあまり使えなそうだ。
『エネルギーが循環する魔法』
『危険!時流魔法』
ときながれ…じりゅう?時の流れの魔法?
そういえば、初めてあの女の店に行った時に1秒だけ時が戻せる魔法なんてのがあったな。
ゴミみたいな魔法だけれども、危険と言うなら何か事故に使えそうな気がするな。
暴走したら過去や未来に飛ばされてしまう、とかかしら。
こちらは…あの女の私物のようね。
本当に不用心。ほとんど研究室に寝泊まりしているのか、大事そうなものがたくさん、古臭い鞄に詰め込んである。
『我が家に代々伝わる魔法基礎知識』
なんだか間抜けなタイトルが、あの女らしい。
わざわざ裏に名前まで書いてある。子供の所有物みたい。
『Emi l ie』
拙い字だが英語で書いてある。
「えみ…りあ?」
あいつの名前は『相田 恵美』だったはず。
偽名?なぜ?
…まぁ、けど今はそんなことはどうでも良いわ。
危険物もあるのならば多少の使い方は知っておかないとね。
わざわざ分かりやすく解説書まで置いておくなんて、親切なバカ女ね。
『液体化した魔法は、専用の瓶に入っている間だけ液状を維持できます。瓶から出すと魔法が発動します。』
案外簡単そうだけれども、ぶっつけ本番だとうまく発動できないかもしれない。
あの女を事故に巻き込むためにも、何か試してみようかしら。
このあたりは効果が分かりやすくてよいかもね。
『消えない炎の魔法』
『溶けない氷の魔法』
炎が消えないのは、今は困るわね。
火事になって終わっちゃうし、私が犯人ってすぐに疑われちゃう。
溶けない氷の方は…
何か試しに凍らしてみようかしら。
…田舎娘にお似合いの生き物がいるじゃない。
たまたま部屋の隅にいた『アブラムシ』
目ざわりだから始末しちゃいましょうか。
『アブラムシ』にめがけて瓶から直接、液体をかけてみる。
避けようとしたみたいだけど、ちょっと広い範囲にかけたのが良かったみたい。
ピキピキッ…
無事に凍る『アブラムシ』に、あの女を重ねると、思わず笑みがこぼれちゃった。
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