【白紙の世界7】人は何故、各々に好みが違うのだろうか
谷崎が彩華と呼ばれた鬼ババをあやし、なだめ終えた後はお偉いさんへの謝罪行脚だった。
このあたりは見事と言わざるを得ない。
私だったらこんな会社との取引なんて二度としたくないと思うところだが、巧みな話術か人柄か、とにかく最後にはお偉いさん方も
「色男も大変だと思うが頑張りたまえ」
ガッハッハ。と笑って許してくれていた。
谷崎は人の心に入り込むのが本当にうまい。
顔…も確かに良いと思う。そのうえ仕事もできるし金持ちと来たものだ。
その辺の女はもとより、男すらも認め、惚れ込むだろう。
なんというか、谷崎は人の心が見えているのかもしれない。
だから、人の心が欲するものが分かり、その通りにプロデュースして成功しているのだろう。
魔法使いである私よりも、ある意味よっぽど魔法のような技術だ。
人の心を知る魔法…。
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単純な興味もあった。谷崎はあの鬼ババ、彩華とかいう女を愛しているのだろうか。
嫉妬とかではない。はたから見るとただのヒステリックな女であり、谷崎に釣り合うようには見えないのだ。
もちろん、家柄や政略結婚のような付き合いもあるのだろう。
だが、谷崎の本音が知りたい。
どんな神経していればあんな女と付き合えるというのだ。
嫉妬などではないが、人の心を谷崎のように知る魔法があればよいと思った。
しかし、心とは何なのだろうな。
例えば、感情が頭の中で文字・言葉で思い浮かぶこともあれば、単純に『嫌な気分』『うれしい気分』と抽象的に感じることもある。
感情とは色のようなもので、例えば暗い気持ちだと黒や紺、明るい気持ちだと橙や黄で表される。
理論上、魔法でこの色を見ることはご先祖様の偉大な研究の結果で既に可能となっている。
『感情の色が見える眼鏡』
祖母の遺品だ。
だが、これは実はあまり使えない力なのである。
ひそかにこの眼鏡で谷崎を観察したことがある。
だが、感じの良い偉いおじさんに会った時も、鬼ババに会った時もどちらも「うれしい=黄」の感情としてしか見れなかった。
これでは
『鬼ババを愛している+偉いおじさんの友好度が高い』
のパターンなのか
『どちらも単に親しいだけ』
のパターンなのかも判別ができないのである。
別に嫉妬などの感情ではないのだが、あんな鬼ババを愛することができるのか知りたいだけなので、谷崎が鬼ババを愛しているかどうか知る手段としてはイマイチなのだ。
それからと言うもの、どうやって正確な感情を知るか、という方向の研究に没頭することが多くなった。
『なんとなく』の感情だけ分かっても仕方がない。
だがそもそも、感情というものは、どう見ても『なんとなく』でしか見れないのだ。
なんとなく嬉しい気持ち。
なんとなく悲しい気持ち。
牛肉を食べたって、頭の中に『美味しいー!』という文字が映されたりは、普通はしない。
じゃあ、もっと内面奥深く。
例えば、魂の形を知ることができたら…?
何かに対して強い感情を持った時、魂は彩られ、変形する。
その魂を見ることができるのならば。
形作られた魂を実際に具現化することができるならば。
これは凄い大発見になると思うし、評価されることも間違いないだろう。
使い道は…谷崎がまた、うまくプロデュースしてくれるから大丈夫だよね。
きっとこの研究を見たらいつものように『凄い!天才だ!』って褒めてくれるはず。
それに、もう一つ、少しだけ興味あることがある。
谷崎は私を見て、どんな風に魂を彩るのだろうか。
…私のことをどう思っているのだろう。
別に恋愛的な興味ではない、が、気になった。
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