【白紙の世界6】食べ物や飲み物を攻撃の手段に使ってはいけません
そこからはめまぐるしい日々であった。
そして、充実した日々でもあった。
谷崎の要望で会社の方にも呼ばれて新商品の紹介、プレゼンなどをさせられることも増えた。
人前で話すことは苦手だが、自分の魔法を認めて貰えること、そして谷崎がフォローしてくれたお陰でうまくアピールすることができたと思う。
また、新商品の開発には会社側が全面的に協力をしてくれた。
費用を気にせずに色々な魔法の開発ができた。
結果として、ここ5,6年分と同等の新たな魔法技術が1か月ほどで生み出すことにも成功した。
人生、どこでどのような方向に転がるか分からない。
一生、日陰暮らしも覚悟していたし、一族の運命でもあると思っていたが、こうなるとご先祖様にも誇らしく思う。
自分で言うのもなんだが、私は一躍有名人となったと思う。
私の人生、順風満帆!!
と言いたいところだったが、
これを面白くないと思う人も少なからずいた。
私が商品を生み出し、谷崎がプロデュースする。
谷崎と私が名コンビと言われるようになってきた頃。
会社主催のパーティが催され、そこでどこぞのお偉いさん方に顔を覚えて貰うという手筈であった。
慣れないイブニングドレスを身に纏い、踵の高い靴を履き、ダンスホールでお目通しだ。
はじめまして、ごきげんよう。
そんな挨拶を交わし、スカートの端をちょこんと摘まみ上げていたところで怒号に近い声が聞こえてきた。
「この田舎女!!!」
反射的に振り向くと、目の前には女…
ではなく、牛肉の盛られたお皿が視界を覆っていた。
ゴツン…
鈍い音が私のおでこのあたりで痛みと共に響く。
ソースか何かだろうか。おでこのあたりから何かが流れてきて右目に痛みを与える。
くっそ、誰だ。
目の前には、慌ててハンカチをもって私のおでこを拭おうとする谷崎と、谷崎の肩の奥に見える鬼、いや、鬼ババが映った。
周りのお偉いさん達は動揺してまったく動けないでいる中、鬼ババはヒステリックに金切り声を上げてきた。
「なんであんたが誠一郎さんの隣にいるのよ!」
続けてワイングラスを投げつけてくるが、こちらは大きく外れて後ろの壁に当たって割れる。
こちらもやられっぱなしでいるほどお人よしではない。
「風の精霊よ、かの者に裁きを与えん…」
テーブルの上に置かれていたグラスに注がれたワインを何杯分か、つむじ風が巻き込み、そのまま女の顔面へとぶち当たる。
「アベッ…」
ワインの直撃を食らった女は無様な鳴き声を出してのけぞった。全身ワインまみれだ。ざまぁみろ。
「相田さん!やりすぎです!」
谷崎が慌ててこちらを止めにくる。
やりすぎ?こちらは皿までぶつけられてるんだ。落ちた牛肉の恨みだってある。
続けて魔法の詠唱を始めようとするのを谷崎が必死に止めてくる。
「誠一郎さん!そのメスガキから離れて!!」
今にも飛び掛かってきそうな女を、谷崎が一喝する。
「彩華さん、キミもいい加減にしないか!どうしたというんだ!!」
彩華と呼ばれた鬼ババ、よく見たら前に谷崎と一緒に店にきた女じゃないか。
そういえばあの時はカップルかと思ったが、付き合っているのか?
だとしても、仕事での付き合いに私情を持ち込んでヒステリックにわめきたてるなんてとんだ地雷女だ。
「だって、誠一郎さん、その女とばっかり…」
今度は泣き落としか。どうにも気に食わない女だ。
男にすがるだけしか能がないような、自分を高めることを怠った女は。
しかし谷崎は、私の方から離れて、鬼ババの方に駆け寄っていく。
「大丈夫だから、落ち着いて。」
女の肩に手など置いている。
私はただのビジネスパートナーであり、谷崎がどのような女性関係を持っていようとどうでも良い。
どうでも良いが、この場合、こちらに構うのを優先するのがスジではないのか。
こちらは被害者なのだから。
それに、私のことはどうでも良いのだろうか。
私のことは、どのように思っているのだろうか。
考えても終わりのない思考の始まりだった。
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