五話
バイト先では、世間話ができるくらいの仲の人ができました。
その前はどんな仕事をしていたのかと聞かれたことがあるのですが、答えることができません。僕は、これが初めてなんて、言えませんでした。
バイトの休みは、趣味に明け暮れます、というわけにもいきませんでした。
二十代後半、疲れがたまっているのか、家で動かない日が多くなってきました。
両親は何もいいませんが、僕はこのままではいけないと思っていました。
自分の趣味すら、疎かになっていたのです。
小説の執筆が、僕の、残された誇りのようなものでした。
こんなこともできるのだと、いつか自慢するために書いていました。本当は、学生の間にデビューするのを目指していたのです。
しかし、僕は、漫画や小説を読むことで時間を使い果たし、まともな執筆は一度もやってきませんでした。
ニート生活の五年間も、あれだけの時間を持て余して、ようやく一冊分書き終えたくらいです。
何かを作るということは、専門的な知識や技術が必要になってきます。僕は、この壁に何度も屈してきました。諦めて数日やめていたときもあります。
継続していくにつれて、現実が見えてきたのです。
これは、僕には困難なことだ、と。
元々、要領が良い方ではありません。
学力も偏っていて、特に記憶力は最悪でした。
つまり、僕に知識らしい知識は、乏しかったのです。
せいぜい漫画や小説で得た程度。
書けば書くほど、自分の人生の穴を見せつけられているようで、吐き気がするときもありました。
小説家の世界に憧れて、人生の一番の大事な時期を捧げたにも関わらず、僕は、知識の壁に何度も屈しました。
勉強しようと本もいくつか買いました。
けれど、買うばかり。
開いたことのない本も未だにあります。
読んでも内容が頭にはいってきません。
書いてあることを理解できても、まったく覚えきれませんでした。
つい数分前のやる気はあっさり霧散して、僕は漫画を読んで、休日を終えていました。一行も執筆できなったのを悔しく思い、やはり次の休みも同じ過ちを繰り返すのです。
愚かです。
人より賢いとは言えない僕が、勉強を怠けては、どうして人になれましょうか。
まるで自分が出来損ないのようで、人ですらないように思えて、とても情けなく思えました。
ある作家の、フレーズが浮かびました。
昔勉強のつもりで読んで、まったくつまらなかったのですが、たった一文だけを覚えていたのです。なぜだったか、今になってわかるような気がしました。
僕は、人間の、出来損ないです。失格です。
続きます。