三話
バイトをはじめてみました。
好きなことをやってばかりの僕でしたから、学歴はあまり使えたものではありません。僕の限界は、おそらくはフリーター止まりでしょう。
社会に一度も出たことがなかったので、そこから始めるのも、僕としては頑張ったほうです。
母親は喜んでいました。父親も、誇らしくしていました。
僕は、心の底で謝っていました。
本当は、普通の会社の社員で勤めて、凄くなくともせめて近所に話せるような息子でいて欲しかったのは、もう、わかっていましたから。
学歴の必要としない仕事は、単純作業が主になっています。
いわゆる、肉体労働です。
これまで身体を動かしたことのない僕は、最初は半日で倒れそうになりました。とてもつらかったです。やめようとも思いました。
けれど、一ヶ月続けて、初めての給料が入ったとき、なぜだが、何かに認められたような気がしたのです。
休日。
僕は久しぶりの買い物に出かけました。車の運転も五年ぶりだったので、おっかなびっくりでした。怖かったです。
自分のお金というものを、初めて使ってみました。嬉しかった。
今まで後ろめたくて外も歩けなかったのですが、自分で働いて、それで得たお金で買い物しているだけなのに、僕は、社会の一員になれた気がしていました。
これがまやかしだと、思っていませんでした。
でも、すぐに気づくのです。
僕がようやくやれていたことを、みんなは五年以上前にしていたのだ、と。
彼らより出遅れた僕が、彼らと同じ位置に立てるはずがなかったのです。社会の一員? 馬鹿げた話です。そんなものはまやかしです。
ようやく自分で、自分のお金を手にして、外にまで出られても、僕は彼らの遙か後方を歩いていたのでした。
続きます。