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王都:氾濫②でした!

暗雲・・・そして氾濫


次話投稿は一週間以内です!

「・・・以上が報告となります」

「・・・わかった」


 室内に二つの人の声が響く。

 一方は丁寧に言葉を紡ぎ、長い報告を一度も詰まること無くすらすらと読み上げる。

 もう一方はその報告にしっかりと耳を傾け、何かを必死に考え込んでいる様子だが、結果は思わしくないのか落胆の表情が伺える。


 薄い紙が何重も折り重なってできた紙の束と、終始睨み合いを続けるその男の名前は、『クリフ・ラウル・ルアネィド』・・・家名がレェベンである。

 彼は、今回の帝都遠征から外され、幸か不幸か王都守衛隊長に任命された。


 王都守衛の任についてから三日、彼は騎士としての職務である「ダンジョン探索」を行っていた。

 多く集まった騎士達を第四小隊まで分けて、ダンジョン探索へと向かった。

 力量もしっかりと考えられ、彼がいる第一は勿論の事、第二・第三・第四も腕の立つ騎士は大勢いた筈なのだ。


 しかし、第二・第三小隊は戻ってくることはなかった。

 帰参予定の時間を大幅に過ぎても、誰一人として生還し得なかったのだ。


「最悪の事態を鑑みて、救援を要請するはずの騎士さえ帰ってこない。これは何らかの罠に引っ掛かって全滅したのでしょう」

「・・・一つの小隊で、もっと深層に行っているのなら理解もできる。だけど、先行していたのは僕達第一小隊で、階層は上層と中層の間、一個小隊を全滅させるに至るトラップなんて考えられない」

「・・・確かに」


 彼の頭の中にはあらゆる可能性がひっきりなしに出ているが、そのどれもがしっくり来ない。


 希少種が出現したとして、騎士が一人や二人やられることがあっても全滅なんてあり得ない。

 モンスターハウスに入ったとしても、あの階層の魔物を騎士達が防ぎ切れない筈がない。

 腕っぷしのある盗賊に不意打ち・・・騎士に勇んで戦う盗賊など間違いなくいない。

 魔法を扱う魔物に襲われたとしても、「スクロール:マジックレジスト」がある中で騎士が負けるとは思えない。魔法を扱う魔物が大量に・・・それこそあり得ない。


「ダメだ。考えていてもわからない」

「どうされますか? 我々で調査を進めましょうか?」

「いや、ギルドにも助力を請おう。ダンジョンに精通する冒険者なら、何か掴めるかもしれない。無論、僕達も現在王都にいる騎士を集めて調査に出るよ」


 ここで報告を待っているよりも、そちらの方が効率も良い。

 危険ではあるが、腕の立つ騎士を集める事で危険を抑えることも出来るだろう。


 王都からも支援物資が届き、スクロールやポーションには事欠かない。

 ギルドもダンジョンで異変が起きているとなれば、王都からの依頼であっても腰を上げざるを得ないだろう。


「さて、僕らも行くしかないだろう」


 僕は王都から支給された鎧を装着し、剣を腰の剣帯に差し、気を引き締める。


 僕らの目的は、ダンジョンでの第二・第三小隊の捜索、それと同時に階層の調査も含む。

 何が起きて騎士達が帰ってこなかったのか・・・そして、最悪の場合の調査は「何が騎士達を殺めたのか」だ。


 もし、大勢の騎士を殺める程の力を持った魔物がいるのなら、それは大問題だ。何らかの要因でダンジョンの外に出てしまったら、多くの人の命が犠牲になることは間違いない。


 それがダンジョンの中に居座っていたとしても問題だ。

 そのダンジョンは使い物になら無くなるだけでなく、魔物同士の殺し合いが始まれば、それがもっと力をつけてしまう事になりかねない。


 騎士達を戻れなくした要因について調査し、報告を繰り返す。そして、僕達だけでも対処可能だと判断できれば、速やかに排除しなければならない。


 もし対処しきれない場合は、王都在中の騎士総出で当たらなくてならない。ギルドにも緊急依頼や指名依頼を申し込む必要があるだろう。


 報告を聞き終えた僕は、ダンジョン捜索へ乗り込む騎士達の元へと急ぐ。

 騎士達とどの様に探索をするかを話し合い、持ち込むアイテムや装備の点検を入念に行って、ダンジョンへと挑むことになる。


 そして、共にダンジョンへと挑む騎士達と、交流をはかる必要もある。

 今回の捜索はレェベンだけでなく、『ゲドモンズ騎士爵』、『ヴォルドス騎士爵』の方からも騎士が送られている。


 そうでもしないと、未知の脅威に立ち向かうのは危険と判断した・・・のだけれど。


 各騎士爵に伝えていた待合所へと足を運ぶと、そこには多くの騎士が待ち構えていた。

 予想以上の騎士の多さに面食らっていると、その多くの騎士の胸元にはヴォルドス騎士爵の紋章が象られている。


 そして


「何故ヴォルドス騎士爵家長、アタライ様までいらっしゃるのでしょうか?」

「・・・やはり、レェベン家の者に『様』をつけられると気色悪いな。アタライでよい」

「・・・アタライ様、ここは他の騎士の方々の面前でもあります。その様なことは出来ません」

「ふん。そんな事で気が揺らぐとは、娘の方がよっぽど肝が座っていると見える」


 そこには大きな体格に見合った鎧を装備し、大きなブロードソードを腰に携えた騎士の姿があった。髪は白く、顔には一本の傷跡が走った初老の男。

 王国騎士の頂点である騎士長に、膝を着かせたと言われる生粋の武人だ。


 部下である騎士の信頼も厚く、戦場では『暴れ熊』との異名までつけられ恐れられている。


 そんな騎士は当然の如く、帝都遠征に呼ばれている筈なのだが、今自分の目の前にいる。

 ニヤリと不適な笑みを浮かべたアタライ様は、僕の考えが読めているようだ。


「騎士の勘と言う奴だ」


 とだけ告げて、ブロードソードの柄に手を這わし、目を瞑った。


 ダンジョン捜索に向かう僕達からすれば、これ以上にない助っ人であるのだが、どうも腑に落ちない。


 熟練の騎士の勘は、バカに出来ないものでかなり当たることが多い。王国騎士長もその類いの『勘』を持ち合わせていて、何度も王国の窮地を救ってきたらしい。


 とは言ったものの、騎士の誉れである遠征を蹴ってまで勘に頼るものなのか?

 それも、今回の遠征は唯のものではなく、帝国七爪が絡み、王国騎士長が出る大規模な遠征だ。


 そんな強者が集まる遠征を、武人のアタライ様が断るとは考え難い。

 何か情報を握っているとは思うのだが、アタライ様がしゃべるとは思えない。

 ここは、素直に承知しておく必要があるだろう。


「わかりました。御協力感謝致します」

「言われずともだ。それで、どうするつもりなのだ?」


「はい。まずは第二、第三小隊が探索していたと思われる階層の手前、十六階層付近での捜索・調査を開始します。十七、八階層は十六階層での捜索と調査が無事に終了次第向かいます」


 いきなり騎士達の行方がわからなくなった階層に向かうのは危険であると判断し、まずは手前の階層から探索する。


 不足の事態に備えて、十全に準備を済ませてからのダンジョン捜索へと移行する旨を伝える。

 アタライ様も既に準備は終わっているらしく、手練れの騎士数名には、瀕死のダメージを受ける攻撃を一度だけ防ぐ『身代わりの腕輪』まで装備している・・・流石に金貨数十枚のそれは用意してきていない。

 ・・・やはり怪しい。






「・・・それでは、ダンジョン捜索へと向かいます。全員気を引き締めて捜索に及んでください」


 そう告げてダンジョンへと足を進める。


 総勢三十名の騎士達が列をなしてダンジョンへと挑む。

 周りにいた冒険者はいつもの事かと、すぐに興味を失って目線を逸らす。しかし、勘の良い冒険者は、この異様な光景に何かを勘づいていた。


 剣の柄と胸元に象られた紋章は、それぞれの家の紋章である。

 普通であればダンジョンに探索に出る場合は、違う騎士爵の騎士達と共に入ることなどない。指揮が取りずらく非常に効率が悪いからだ。


 しかし、今回は力量に確かなものであり、どの騎士爵も王都守衛隊長である僕に指揮を委ねている。

 副隊長は無論アタライ様で、指揮が乱れることはまずないだろう。


 全員体をフルプレートの鎧で覆い、兜を被っている。そのおかげか、顔までは冒険者にばれておらず大事には至っていない。


 ・・・本来であるならば豊穣のダンジョンを封鎖し、冒険者達の出入りを禁止した方良い。

 しかし・・・アタライ様が僕達に伝えた一言で中止となった。


『スラムが動いている可能性がある』


 確証がないとはいえ、その情報を齎したのはアタライ様であり、充分信頼できる・・・どこから仕入れた情報かは疑問だけど。

 急遽ダンジョン封鎖を取り下げ、僕達も静かに動くことに決めた。


(はぁ・・・まさか、こんなことになるなんてね)


 そんな不純な事を考えながらも、油断なく辺りを警戒する。


 再び訪れたダンジョンの異様さに息を飲みつつ足を進めると、間もなくしてボス部屋へと到着する。運良く冒険者の姿はなく、待つ必要もなさそうだ。

 ボス部屋と通路を隔てる扉を躊躇なく開き、扉の中へと足を進める。


 ハイコボルドとコボルド五匹が出現する。

 コボルドは非常に頭が回り、戦いに関してはかなり面倒な魔物だ。それがボス部屋とのなればステータスも上がり、より面倒なものへと様変わりする。


 ハイコボルドはそのコボルドよりも全体的にステータスが底上げされ、より頭が回るようになり狡猾さが増す。

 何より武器を携えており、一撃貰えば致命傷になりかねない。


 しかし、今ここにいる騎士達は熟練の者達ばかりだ。

 難なくとまではいかないが、コボルド一匹につき四人の騎士で対処すれば、負傷は最小限に食い止めることができる。

 ハイコボルドは僕とアタライ様を含めた十人で掛かれば、余裕をもって倒すことができるだろう。


 自分に向かってくるハイコボルドは、手に持った棍棒を振り上げ僕へと殴りかかってくる。それを難なく捌いて一刀を入れるが硬い毛によって弾かれ、掠り傷しかつけることができない。

 もう一度と力を込めて斬り掛かろうとすると、後ろから巨大な影がハイコボルトの眼前へと躍り出る。


 ハイコボルドは目を見開き慌てて棍棒を振り回すが、その騎士は・・・アタライ様はその棍棒を掴み取り、魔物の目を覗き込み告げる。


「ふん。そんな物でこの俺が下せるものか」


 アタライ様は驚愕するハイコボルドを蹴り上げ、空中へと身を躍らせたそれに斬り掛かる。

 重さを感じさせず、瞬時に振り抜かれたブロードソードから、空気を切り裂く音が周囲に響き、ハイコボルドの硬い毛を両断し、断末魔をあげる暇さえなくハイコボルドを絶命させる。

 それを見ていた騎士達は、その人間離れした剣技に目を見張る。


 大きなブロードソードを豪速で振るっているというのに、全く身体の軸はぶれておらず、ハイコボルドをまるで藁を両断するかの様に切り裂く。僕でさえ、目一杯力を込めて何とか手傷を負わせる程度しかできないというのに・・・。


 ボス部屋をあっという間に制圧し、無様に屍を晒してドロップアイテムへと変化する。

 剣を鞘へと戻し、誰にも負傷がないかを確認する。熟練の騎士達には掠り傷こそあれど、負傷と言える怪我を負っていなかった。


 ボスが残したドロップアイテムのみを回収して進む。雑魚が残すドロップアイテムを回収していてはきりがないので、そのままにしておく。


 十回層のボス部屋を突破した後は特に問題なく、十六階層に辿り着いた。


 明朝に出立したお陰で冒険者の姿は少なく、シンと静まり返ったダンジョンは不気味さを増す。罠を警戒しながら慎重に歩みを進め、ギルドから渡された十六階層の地図に従って歩く。


 ダンジョンはかなり広い。

 階層を跨ぐにつれて、だんだん広くなっていくダンジョンは、十六階層にもなると複雑に道が絡み合い、似たような通路が幾つも存在する。


 幸い二十四階層までは地図が出来上がっており、この階層は隠し部屋や隠し通路を除いては調べ尽くされている。


 十六階層ではブルーゴブリンやクライフライ、リザード等の魔物が出現する。

 どれも取るに足らない相手ではあるが、クライフライの状態異常『怯み』を齎す音波攻撃には注意する必要がある


 十六階層ではこれといった成果はなかった。

 騎士達が通ったと思われる経路を辿り、その後も周辺の捜索を当たったが手掛かり一つない。


 二小隊が消えたと言うのに、何一つも痕跡がないと言うのも、やはり不気味だ。


「・・・これは十七階層に降りた方がいいですね」

「士気も落ちておらん。行くなら今だろうな」


 ここまで休みなしで踏破している。並みの騎士なら疲れて、動き・集中力が鈍り、士気なども低下してしまう。

 しかし、ここにいる騎士達は呼吸を乱す事なく、付いてこれている。


 それでも、少量の休憩を取ってから出発する。

 程近い場所にある下へと続く階段を見つけ、ゆっくりと下っていく。


 十七階層へと辿り着いた。

 ここからは一時も気を緩める暇はない。恐らく第二・第三小隊が消えた階層はここか、もう一つ下の階層だ。


 騎士の小隊一つを滅ぼしてしまう罠・魔物がいるとして、それに隙を晒そうものなら僕達でも無事ではすまないだろう。


 十七階層を探索して一の刻を過ぎた。

 どこから吹いているのか、ひんやりとした風が通路の奥から流れ込んでくる。

 先程から小規模な魔物の群れが襲い掛かっては来るが、それ以外にこれといった問題はない。


 流石に騎士達にも少し疲労が見え始め、休憩を取ることにした。


 見張りには僕とアタライ様、そして他二名の騎士が担当することになった。


「今のところはなにもありませんね」

「不気味なくらいにな。・・・お前はどう思う」

「・・・恐らく全滅でしょうね。しかし、この階層に我々の様な準備を施した騎士を殺れる魔物など考えれません」

「つまりは人の仕業だと考えているのか?」

「・・・そうですね」


 ここまで、色々と可能性を考えてきたが、考え付くものはそれしかなかった。


 これも現実性は低いけど、確かにあるのだ。騎士二十名を倒せる者・・・『B・Aランク級』の人間だ。それでも資材が豊富に整った騎士を倒せるかは微妙なところだ。


 魔物の線は限りなく低く、この階層の罠で全滅などありえない。一つだけ考えられる罠は『転移』だが、それもこの階層では滅多に出ることはなく、飛ばされてもせいぜいこのフロアのどこかだ。脱出しようとする筈であり、足跡や休憩場所等の痕跡、ともすれば鎧がたてる音などで僕らが気づく筈だ。


 それがなく、全滅したのなら・・・英雄(Aランク)の領域にまで足を踏み込んだ盗賊としか考えられないだろう。


「そう考えるのが妥当だな」


 アタライ様はそう告げると、そろそろ休憩を終わるぞ、と身を翻し騎士達の元へと歩きだした。


「それでは、十八階層に入る。皆気を引き締めていくように」


 十八階層へと続く階段を下り、十七階層と変わらぬ通路へと出る。

 回りを見渡してみても、別に代わり映えのないダンジョンが広がっている。


 しかし


「・・・静か過ぎる」


 アタライ様が告げる。

 そう。静か過ぎるのだ。


 魔物も人も・・・一切の気配が伺えない。

 普段なら何かしらの気配があってもおかしくないし、漂う空気はこんなにも重々しくない筈だ。


 後ろに続く騎士達もその雰囲気に気づいたようで、中には剣の柄に手を掛けている者までいる。

 ダンジョンの空気が重く、冷たさを増して全身を襲う。体感したことのない寒気を受け、全身が強張る。


 細長い通路に響く自分の足音がやけに大きく感じられ、頬を伝う一滴の冷や汗が自分の意識を覚醒させる。

 アタライ様は堂々とした態度でずっと歩いているが、その顔には険しさが宿り、組んでいた手を解いて臨戦態勢へと移行している。


 思い過ごしであってほしい。

 そう考えたのも束の間、十字に割れた通路が姿を現した。


 そして


「・・・これは」


 そこには赤い通路が広がっていた。

 一変した通路は、いっそ滑稽なまでにその赤を強調させている。鮮やかで、そこだけがバラが散りばめられたかの様に赤い。


 そんなダンジョンの神秘も、通路の地面を見やれば全てが台無しとなる。


 どす黒い赤が散りばめられたグニャグニャに折れ曲がった銀色の鎧に剣、鼻孔を刺激する臓腑の香りが騎士達の脳内に焼き付けられ。

 吐き気が込み上げ、胃の中の物を全て出してしまいそうになる。


「・・・やはり、あれが言っていたことは本当だったか」


 アタライ様が何かを呟くが、予想以上の凄惨な光景によって、僕の耳には内容が全く入ってこなかった。


 これは人の成せる(わざ)じゃない。

 間違いなく強大な魔物に襲われたのだ。これは一刻も早くこのダンジョンを脱出し、上の者達に告げる必要がある。


「全員転進。音を立てずに速やかにここから脱出する。遺品を拾うことも許さない。一刻も早くここから脱出し、騎士だけじゃなく冒険者にも助力を乞う」


 静音の雫を足元にたらし、全員急いで来た道を戻る。

 しかし、僕達はもう遅かったのだ。


 つま先から脳天へと寒気が一気に駆け登る。人としての本能が雄叫びをあげ、その場所から直ぐにでも走り出して逃げ出そうとする。

 それは僕にだけでなく、この場にいる全員も感じ取ったらしい。


 血で染め上げられた通路へと目を向ける。


 そして、現れたのだ。


「・・・全騎士に告ぐ。スクロールの準備、全力で」


 僕は頭の中を真っ白に染め上げながらも叫ぶ。


「逃げろ!!!!!」


 騎士たちが一斉に全力で走り始める。重い鎧を意に返すことなく、凄まじい速さで来た道を戻っていく。


 AAAAAAAAAAAAGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!


 そこにいたのは一つ目の怪物『サイクロプス』が三匹、そして『レッドオーガ』十匹、大量の魔物が通路を進んでいたのだ。


 この人数で勝てるわけがない。B+ランクの魔物『サイクロプス』・・・俊敏さ、頑丈さ、凶悪な攻撃力は黒曜石をも破壊する。それが三匹・・・全員で全力で掛かって犠牲者を出しながらも漸く倒せる相手だろう。

 しかし、それに加えてサイクロプスよりは攻撃力が格段に低いが俊敏さが高いB-ランクの魔物『レッドオーガ』が十匹・・・この時点で僕たちだけじゃ勝てるわけがない。


 そして、各階層の魔物が大量に通路に犇めいているのだ。


 第二・第三小隊に属していた騎士達は間違いなくこいつらにやられているのだ。

 先行していた僕達が合わなかったのは・・・まさに幸運だろう。


 騎士達が立てる鎧の音の中に、魔物が地面を蹴る音が後ろから波の様に響いてくる。

 追って来ている・・・幸い、最も僕達と近い足音は、軽い足音ばかりであり小物であるだろう。


 それでも、戦ってる暇など無い。

 逃げる時間をどうにかして練り出さなくてはならないのだ。

 雑魚を倒せたとして、その間にサイクロプスやレッドオーガに接近され、乱戦にでもなったら・・・間違いなく僕たちの命はそこで潰える事となる。


「どうしてこんな階層に・・・!!」

「・・・氾濫だな」


 氾濫・・・ダンジョンの中に大量の魔物が溜まると、ダンジョンはそれを外に出そうとする・・・それが『氾濫』だ。

 しかし、今まで一度たりとも豊穣のダンジョンで氾濫など起こった事がない。どうして急に氾濫なんて・・・。


 そんな事を考えていると、スクロール『疾駆の守護』が全員に施されたようで、突然体が軽くなる。

 体が軽くなった事で早くなり、追い掛けてくる魔物とどんどん距離をあけていく。


 すると、前方から走る音に気づいたのか、ブルーゴブリン達が現れる。

 ここで時間を掛けてしまっては、後ろから追い掛けてくる魔物が後続の騎士達に追いついてしまう。


 ここはスキルを使うしかない。


「スキr」


「スキル:炎破斬」


 その瞬間、前方が赤一色へと染め上げられ、轟々と燃え盛る火炎の波が走り寄って来ていたゴブリン達を包み込んだ。

 悲鳴を上げる暇さえ与えられずゴブリン達は灰と化した。


 チリチリと剣の表面を這う炎を横目に、アタライ様は走り出した。


「感謝します」

「今は一刻も早くこの階層を脱出するぞ」


 後方から迫る魔物達の足音の中に、先程とは違う重く低い音が混じっているのに気づく。恐らくサイクロプスやレッドオーガの物であるだろう。


 そしてまた走り出す・・・いや、走り出そうとしたその時


 OOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOooooooooooooooooonnnnnnnnnnnnnn!!!


 耳をつんざき、大地を揺るがす咆哮がダンジョン中へ鳴り響く。

 何事かと後ろへと振り返る。


 追ってきていた魔物達の足音がなくなる。


 そこには


「嘘だろ?」

「まさか・・・ここまで出てくるか」


 追って来ていたであろう魔物達を踏み潰し、何匹かを巨大な牙が生えそろう口の中へと誘い、魔物達を咀嚼する巨大な魔物・・・いや


 地龍アースドラゴンがそこに姿を現した。

王都の運命はどうなるのか・・・騎士達は氾濫を起こしたダンジョンにどう挑むのか・・・。


何か変なところ、見にくい、誤字だ!などがあればどしどし教えて頂けると嬉しいです。

(言い換えでこういうのがありますよなどが合ったら教えてください。例:取得→習得、思いやる→慮る、聞こえる→耳に届くなど)


感想や活動報告の方にコメント頂けると私の気力になりますので気軽にどうぞ!!


※活動報告がどうやったら見れるのかわからなかったと読者様から聞き及びました。

方法は一番上にある?「作者:砂漠谷」の名前を押していただくと、私は左上に出てきました。


わからないことがございましたら、どんな些細なことでも構いませんので質問送ってください!!

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