表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/271

王都:氾濫①でした!

さぁ、やって参りました。終章間近です。

今回後書きに裏話を「小話」にして収録しています。

次話投稿は一週間以内です!

 コツコツと、硬質な音が廊下に鳴り響く。

 音の出所はどこかと意識してみるが、それは当然自分の足と床が奏でる衝突音以外ない。


 だというのに、どこだろうな(など)と現実逃避して、上を見上げてみれば、眩しさに目をやられてしまう。この屋敷の中では、夜が訪れることはなく、昼夜問わず魔力光が燦々と降り注いでいる。

 良いことではあるのだろうけれど、今の自分の気分には、もう少し照明を薄暗くして欲しいと感じざるを得ない。


 屋敷の中は塵一つ落ちておらず、何人ものメイド達が常にせっせと働いている。

 そして僕の姿を認めると、仕事の手を止めて頭を下げる。


 いつもの様に片手を軽くあげると、メイド達は直ぐ様自分の仕事に取り掛かった。


「はぁ・・・」


 誰にも聞こえない様にそっと溜め息を吐く。いつもなら、この後に控えている訓練の為の準備を進めている筈なのだが、今だけはやはりやる気が起こらない。


「ルアネィド様、レェベンの次男たるもの、そのような気弱な行動はお控えください」


 うっ、と自然に呻き声が漏れる。

 後ろをそろーっと見てみると、髪を肩口で切り揃え、端正な顔立ちに、華奢な体つきで小柄なメイドがついてきている。


 自分の失態を、まさか見られているとは思っていなかった。

 メイドというものはかなり他の貴族と繋がっている場合がある。特にレェベンでは経験豊富なメイド達・・・つまり、どこかの貴族家で働いていた熟練の者達が来ることが多い。


 見た目や教養から取られたメイド達も、揃って貴族家から排出された者達ばかりなのだ。

 そんな中で、気弱な態度を取っていたり、問題のある行動をしてしまえば、そのメイド達経由で他の貴族家に弱味を握られてしまう。


 まぁ、彼女(・・)に関しては別ではあるけど。


 見なかったふりをしようかと、明後日の方角を見ていると、ジトッとした目を向けられて、もう一度口を開く。


「ルアネィド様、レェベンの次男たるもの、先程の様な行動はお控えください」

「・・・二回言わなくても聞こえてるよ」

「申し訳ございません」


 僕は後ろを歩くメイドに視線を向ける。

 不機嫌そうな平坦な目は生まれつきで、物怖じせずに僕に意義を申し立てることができるのは、彼女の生まれが故だろう。


 ある貴族の次女としてこの世に生を受け、見た目も悪くないことから、貴族の女性として(まっと)うな人生を歩む筈だった彼女。

 しかし、彼女の家は没落した。


 父親の不正が公爵に露見し、王に伝わってしまった。

 小さな不正であれば見咎めなしであったろうが、何分広く動きすぎたようだ。


 無論、父親は死罪、長男・次男は奴隷に堕とされ、長女・次女はメイドとしての生活を営んでいる。


 次女は教養もあり、肝が座っている事から『兄』に気に入られ、何故か僕の専属メイドとしてここにいるわけだ。


「何を気落ちしておられるかは存じませんが、ここは屋敷の中です。周囲の目を気にしなければなりません」

「はぁ、わかった・・・ありがとう『オーデル』」


 専属メイド・・・オーデルは、それを聞き届けると、僕の顔から視線を逸らして、歩き続ける。


 あまり深い詮索をしてこない、これが彼女のいいところでもある。他のメイドであるならば、どうにかして弱味を握ろうと動くだろう。


 僕が気落ち空いている理由は遠征だ・・・毎年、王都の騎士達は帝都へと長距離遠征を行う。

 実力のある騎士が選ばれ、帝都の兵士達との合同演習を行うのだ。


 自分はそれに5年続けて選ばれていたのだが、今回はある理由から選ばれなかった。


 遠征は、毎年書状にて通達されるのだが、今回は王都守衛の隊長に就くようにと書かれていたのだ。

 正直に言おう・・・荷が重すぎる。


 王都守衛の隊長は、決まって『王国騎士長直轄』の騎士が努めていた・・・しかし、それが自分に回ってきてしまったのだ。


 なんでも、今回の遠征は『帝国七爪』も参加するらしく、かなり力を入れているらしい。王国騎士長のみならず、直轄の騎士達も全員駆り出されるそうだ。


 ・・・そして


「今回の守衛が達成された後には、騎士長直轄騎士の仲間入り・・・か」


 王都の守衛隊長を努め、遠征が終わるまで大きな問題無く有能な実績を認めさせることができれば、王都の最高位の騎士・・・騎士長直轄の騎士に入ることができる。


 それが、今朝いきなり通達され、隊長に着くのは明日の任命式を終えてからだ。

 王都全域の守衛及び、治安維持、今回遠征に選ばれなかった下級騎士や、王都の一般の兵士達を束ねての行動だ。


 能力的には然程(さほど)問題はないとは思うが、やはりプレッシャーというものが乗し伸し掛かってくる。

 特に守衛隊長は、王からの直々の推薦だ・・・。


 気を抜くわけにもいかず、鍛練にも気合いを入れねばならない。

 遠征が終わるまでは気が休まる日はないだろう。


「守衛隊長に任命されるなんてね・・・兄さんが気を回してくれたのかな?」

「あの方がそのようなことをなさるとは思えません。純粋にルアネィド様の実力かと思われます」

「僕にそんな力があるとは思えないけれどね」

「経験、実績、能力は『レェベン』のみならず、他の騎士爵の騎士と比べても、頭一つ抜きん出ています」


 そうかなぁ、等とオーデルに呟くと、また「ルアネィド様、またそんな弱気な・・・」とお小言が始まる。


 確かに他の騎士と比べて、大規模演習などの経験も多く、ダンジョンでの鍛練により能力の面では問題ない。実績ではダンジョン中層域でのボス討伐に貢献したこともある。


 それだけを鑑みれば、自分という騎士は守衛隊長に向いているとも言える。

 唯、時期が厄介なのだ。


「まさか、あの時と同じ月の日とはね」

「・・・」


 その言葉には、さすがのオーデルも何も言い出せずにいた。

 サテラが飛び出した日・・・王都全域を巻き込んだ暴動、スラムが決起した日が明日であるのだ。


 あんな事が早々起こるわけがないとはわかっている。

 だがしかし、あの日の出来事は少なからず、僕の心に棘として残っている。王家に仕え、栄えあるレェベンの騎士として暴動の鎮圧へと向かった僕に、『騎士』が何たるかを示したあの暴動。


 あの暴動は、暴動を起こした者のみならず、女子供・老人に至るまで多数の犠牲者を出した。

 それをスラムの者であるからと切り捨てる騎士には、さすがの僕も憤りを感じた・・・それでもレェベンを背負う者として反発は許されなかった。

 ・・・正直に言えば、あの日サテラが家を飛び出した事を、少し羨ましいと思ってしまった。


「あの日は偶然遠征の出発が遅れていたし、守衛隊長も騎士長直轄の騎士だったから事なきをえたけどね」

「ルアネィド様も立派な騎士でございます。きっとお役目を成し遂げれるはずです」

「そう言って貰えると嬉しいよ」


 そんなことを話していると、そとへと繋がる扉の前に辿り着く。

 ここまで来ると、頭の中にモヤモヤと浮かんでいた悩みは薄れていく。ここから先は鍛練の場であり、レェベンの騎士達が多く集まる訓練場となっている。


 気持ちを切り替える。


 騎士としての自分・・・心に折れぬ一本の剣を据え、僕は扉を開いた。


「それじゃ行ってくる」

「行ってらっしゃいませ」


 大きな扉をゆっくりと開け、館の中の光とはまた別の光に身を包まれる。

 外の明るさに・・・陽の明るさに照らし出された僕は、いつも通り鍛錬上へと向かう。


 しかし、一歩を踏み出したあと、クルッと後ろを振り返る。


「そういえば、髪切ったんだね。いつもより綺麗だったから目を合わしづらかったよ」


 そう言って、僕はいつもよりも意地悪く微笑を讚え、オーデルを数秒の間見つめ、また後ろへと振り返り鍛錬上へと歩みを進めた。

 残念ながらオーデルからは何も言われなかった。



 -------------------------------------------------・・・



 通路をゆっくりと歩む。

 辺りには照明の類が何一つもないというのに、この洞窟の様な通路は一定の範囲であるならばしっかりと見渡すことが出来るくらいには明るさがある。


 そしてその光と相まって、己の身に装着された鎧が鈍色に光り輝いている。

 カチャカチャと鎧が擦れる音が立ち、鉄の具足が立てる高質な足音が、通路の奥にまで響いていく。


 そして


 HIGYAAAAAAAAAAAA!!!!!


 醜い魔物の叫び声がこだまする。

 銀閃が通路のそこかしこで煌き、その度に魔物の叫び声が立ち上がる。緑色の血液が床や壁にぶち撒けられるが、己の剣に曇りや澱みは一切見受けられない。


「隊列を乱すな! 敵は取るに足らない相手ではある・・・しかし、油断だけはするな!!」


 青い体表のゴブリンが数十匹という単位で押し寄せてくる。

 その内の何匹かが僕の方へと押し寄せる・・・中心に光り輝く王都の紋章をあしらえた剣を抜き放ち、ゴブリンへと向ける。


 棍棒を振り回しながら接近するゴブリンに、一刀を加える。

 その後も次々と迫り来るゴブリン達を切り伏せていく、ゴブリンはただ棍棒を振り回すだけ・・・それに剣を合わせ弾き返し、そのまま上段から振り下ろせばそれで終わり。


 そして、剣を振り切り隙を晒した僕に、またゴブリンが迫ってくるが、それは他の騎士によって切り伏せられる事となる。


 そうこうしている内に、ゴブリンの数は見る見るうちに減少していく。

 ゴブリン達は数が減っても躊躇する事なく、こちらへと向かってくる。しかし、それは日々の厳しい鍛錬に耐え抜き、完璧な連携を保った騎士にゴブリンが敵う訳がない。


 そして、後にはゴブリンが落としたアイテムだけが残る。


「やはり、こんな雑魚相手では我々の鍛錬にもなりませんね」

「言ったはずだよ。油断は禁物・・・ここはダンジョンだからね。魔物自体は弱いけど、ここには常識なんてものは通用しない。一瞬で大勢の命がなくなる罠、ボス部屋まで一直線の罠、急に現れる希少種の魔物なんてものもいるんだよ」


 己の剣にゴブリンの血液が付着していないかを確認し、鞘へと戻す。


 現在、僕が率いている第一小隊と、第二、第三、第四小隊と別れてダンジョンへと潜っている。

 王都から騎士達が遠征へと発ってから、二日・・・当初の懸念も別段問題なく、王都守衛隊長の任はこなせている。

 そして、ダンジョンへはその仕事としてきているのだ。


 基本的に騎士の仕事は王都を守る事以外にはない。

 騎士爵の家に付き、日々鍛錬をこなして、来るべき時に備えて置くのが仕事だ。

 検問や街の治安の維持などは、騎士ではなく兵士がやるのが常だ。特例において、兵士では片付ける事のできない問題などが発生した場合は、騎士が出ることになる。


 しかし、王都ではダンジョンが多く、鍛錬の場などにも使われることが多い。

 そして何よりも、王都と戦争を起こす国など、無いと言ってもいい。


 それによって、騎士を唯鍛錬させるだけではなく、ダンジョンから物を集めるという仕事が追加された。

 当初はダンジョンで拾ったものは、その騎士の物であったが今では『王都からの任』であれば、国のものになる。

 単なる鍛錬の為のダンジョン探索であれば、倒した魔物のアイテムは自分の物としていい。


 今回は『王都からの任』である為に、僕らの拾得物は全て王都の物となる。

 それでも、僕達騎士が手を抜くわけはないけどね。


 そして、守衛隊長の仕事はそれの統括、そして街の情報の管理である。

 統括に関してはいつもの鍛錬の様に、下の者達を率いて行けばいいんだけど、情報の管理には細心の注意を図るようにしている。


 今のところは特にこれといって情報はない。

 スラムも今の所は大人しくしていて、目立った情報などはない。

 街中で喧嘩があった、こういう噂が流れていると言ったものはあるが、どれも眉唾なものばかりだ。


 中には、スラムに三色のフードを被って、暴れ回る謎の人物が居る。

 なんて噂もあったが、調べてみたのだが目撃者は一人もおらず、噂が一週間前に途絶えていることから、誰かが面白半分に流したデマだろうと判断した。


 ゴブリンが落としたドロップアイテムを、後衛に控えている経験が浅い騎士達に持たせている。


 丁度今の戦いで、定められた物資の回収は済んだ。

 いつもなら、後五階層程下に行って鍛錬をするところではあるが、熟練の騎士が少ないことから一度ダンジョンをでることにする。


 今現在僕と行動している騎士の数は二十人程で、その内の半数が経験の浅い騎士だ。帝都への遠征によってダンジョン探索の騎士が少なくなった事をきっかけに、初めてダンジョンへ潜る騎士もいる。


 やはり、経験の浅い騎士達の顔には、少しだけ疲労が伺える。

 このままダンジョンを探索して、もし万が一の事があれば取り返しの付かない事になるかも知れない。


「今日はここで引き返す!! 各自陣形を維持しつつ転進、ここからは魔物が強くなることはないけど、決して油断だけはするな!!」


 僕は後ろにいる騎士達にそう叫ぶ。

 騎士達は直ぐ様転進し、陣形を整える。例え経験の浅い騎士といえど、しっかりと訓練されているお陰で、混乱することなく事を運ぶ。


 進んできた道を戻っているので罠の類はない。とは言っても少し時間が経つと、罠は復活する事もあるから、油断はできない。

 騎士達は慎重にゆっくりと歩を進める。


 道中何度か魔物の襲撃を受けるものの、騎士達は難なく対処していく。

 現れた魔物が少ない場合は、経験の浅い騎士達を前衛に出して戦わせていく。こうして魔物との実戦を交える事でどんどん強くなっていく。


 そうして、歩みを進めている最中、妙な足音が聞こえ立ち止まる。

 それに合わせて後ろを付いてきた騎士達も足を止め、腰に携えた剣に手を掛ける。


 僕は懐から小さな小瓶を取り出して、中に入っていた液体を地面へと振り掛ける。

 そして、後ろにいる騎士達へゆっくりと後退する様に、合図を送った。


 後退する騎士達の足音は不自然に消える。

 鎧を身に纏った騎士達の鉄の軋む音も、吸って吐く呼吸の音さえもが小さく微かなものとなり、目の前の空間に溶けていく。


 僕が地面に振りかけた液体は『静音の雫』と呼ばれる物で、自分のパーティーが立てる音を減少させるアイテムだ。

 そして、通路の影に全員身を隠し、音のする方向へ僕は視線を向ける。


 ズシ・・・ズシ・・・


 どんどん音が近づいていき、そしてその音の主が姿を見せる。

 大きな巨体を左右に揺らし、ノッシノッシと歩く姿は滑稽ではあるが、その体を見た僕は顔を歪める。


 体長は三メートルを優に越え、赤色の体表を携えたその姿は恐怖を感じさせる。

 醜悪なゴブリンの顔を更に醜悪にさせた様な顔に、額からは捻じ曲がった角を一本生やしている。

 手には何も持っていないが、その手は僕の顔をひと握りで潰せそうなまでに大きく太い。


「オーガか・・・」


 ダンジョンでもかなり上位にいる魔物だ。

 動き事態は鈍いが、攻撃力や体力が異常に高く、一撃でも攻撃を貰えば絶命は免れない。


 普段はもう少し低層にいるはずなのだが、偶に上層へ登ってくる魔物もいる。本当にダンジョンとは油断ならない。


 なんにせよ、経験の浅い騎士達では太刀打ちできない・・・ここは僕と熟練の騎士であれを倒すしかない。


「後衛を努める騎士は、スクロールの用意とポーションの準備、僕と前衛の者でオーガを倒す」


 鞘から銀色に輝く剣を抜き放ち、オーガが隙を見せるその瞬間まで、息を殺して機を狙う。


 すると、オーガは僕達に背を向けて通路の奥へと歩き始める。

 その瞬間、騎士達に合図をだし、一気に通路の影から飛び出す。


 剣を構えて、前のめりになりながら一気に駆け抜け、オーガの足元へと接近する。

 流石にそこまで接近すればオーガも僕達の存在に気づき、直ぐ様反転しようと身を翻すが、動きの遅いオーガは反転しきる前に僕達はオーガに肉薄する。


 剣を一閃させる。

 不意打ちからの渾身の一撃がオーガの足を切り裂く。

 両断とまではいかなかったが、満足に立てなくなるまでには足に深手を負わせることに成功した。


 僕が後ろへと飛び退き、オーガがバランスを崩した瞬間、後続の騎士達が次々とオーガを斬りつける。

 瞬く間にボロボロになったオーガは、血走った眼を更に血走らせ、


 GOOOOOOOOOAAAAAAAAAAAAA!!!!!


 オーガの叫び声が通路中にこだまし、それに何人かの騎士の動きが止まる。

 大型の魔物特有の「咆哮(ハウル)」が僕達を襲った。弱者がまともにそれを食らえば、一撃で命を刈り取られる事もある。

 命を奪い取られる事はなくとも、動きを止めることくらいなら出来てしまう。


 そして、オーガは体制を立て直そうとするが、咆哮(ハウル)を防いだ僕はそれを許さない。再度剣を構え直し、オーガの眼前へと躍り出た。


 剣を握る手に力を込め、精神を集中させる。

 剣が己の一部となる感覚を呼び覚ます。身体を巡る赤い奔流に意識を集中させ、一気にそれを解放させる。


 剣から赤い奔流が立ち登り、回りの景色が歪む。

 時が止まる。


「スキル:裂体斬」


 剣を横凪ぎに一閃させる。

 何かが剣に接触する感覚、しかし抵抗を感じたのも一瞬で、剣は容易く振り抜かれる。

 しかし、オーガの体力はそれだけで尽きるとは思えない。


「スキル:十字斬」


 スキルを重複させ、高速の二連撃がオーガを襲う。

 オーガは銀閃が煌めいた直後、横一文字に切り裂かれ、次いで縦一文字に切り裂かれた。

 絶命の叫び声を上げる暇もなく、オーガは倒れ伏す。


 完全に絶命したオーガは灰となり、捻じ曲がった角を落とす。


 それと同時に、僕の身体にも一気に負担が掛かる。

 汗が滝のように流れ始め、まともに立っていられなくなる。ふらついたところを後ろにいた騎士に支えられ、ゆっくりと腰を下ろした。


「怪我はないですか?」

「うん、問題ないよ。僕は兄さんの様にスキルを何度も扱えないからね・・・少し無理してしまった」


 倒せる自信はあったけど、もし外していたらと思うとゾッとする。


 僕はもう大丈夫だと、仲間の騎士達に告げてオーガの落としたドロップアイテムを拾う。

 思わぬ収穫に少しばかり喜んだが、今日の拾得物は王都に献上することを思い出して苦笑を漏らす。


「しかし、こんなところにオーガだなんて不自然ですね?」

「・・・そうだね。確かにオーガがこんなところにいるのはおかしい。普通下層の魔物が上がってくるとしても、せいぜい三階層程度。オーガの生息域は七階層下だからね・・・」


 魔物は上層に上がってくる場合がある。

 とは言っても、少し下の階層と言うくらいで、オーガがこの階層に登ってこれるとは到底思えない。


 恐らく自力ではないだろうと思いながらも、やはり例外というものがある。


 まずは、下層にいた冒険者がオーガに見つかり、冒険者が逃げた事によって着いてきてしまった可能性・・・しかし、一階層程度ならまだしも、七階層も登ってこれるとは思えない。


 冒険者が流した血液を辿ってきた可能性・・・これは匂いに敏感な魔物ならわかるけど、オーガはそんなに嗅覚が優れていない。それにオーガはあまり目も良くないため、血を目で見て辿る事もできない。


 となれば、残すところは一つ。

 希少種についてきた可能性が一番高い。希少種は配下の魔物を引き連れる事が多く、オーガを引き連れてくる事は充分にあり得る。

 何故一匹でいたのかと考えれば、頭の悪いオーガの事だ。途中で見失ったか、冒険者を追い回している内にはぐれてしまったかだろう。


 これは、ギルドと騎士達に通達しておかなくてはならない。

 もし希少種が討伐されていなかったら、ここはかなり危険な場所だ。

 もし、中途半端な冒険者なんかが遭遇すれば、間違いなく命はない。


 それを報告することで未然に防ぐ事ができ、更には騎士達の巡回を多くする事で早期に討伐できる可能性があるからだ。


 オーガを討伐した後、オーガのいた付近を少し散策して希少種がいないことを確認し、僕達は帰路についた。


 いつも通りの鍛練帰り・・・の筈なのだが、僕は一瞬背筋を走る嫌な気配を感じる。


 歩みを止めてバッと後ろを振り替えるが、何もない。


「どうかされましたか?」

「・・・いや、気のせいだったみたいだね」


 思い過ごしかと、また歩みを進める。

 そして・・・






 僕達がダンジョンを抜けた後、第四小隊は予定通り帰ってきた。

 しかし、共にダンジョン探索に入った第二・第三小隊がいつまで待っても帰ってくる事はなかった。


「そういえば、髪切ったんだね。いつもより綺麗だったから目を合わしづらかったよ」


 私は去っていくルアネィド様の姿を見送り、そっと扉を閉める。


 そして、いつもの様に甘く紡がれる言葉に、私は溜め息を吐く。

 鼻から流れ出る暖かく、赤い水を拭き取った後、私はいつもの様に意識を失って倒れるのだった。


 かっこよすぎるのです。

 ルアネィド様は・・・。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ