表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/271

王都:サテラの兄でした!

サテラの次兄登場です。

次話投稿は一週間以内です!

 ふと目を覚ますと、灯りに照らされて輝いている、長い金色の髪が私のお腹を覆っている。

 そこから少し視線を外し、右へとずらす、顔に髪が掛かってもわかる端正な顔立ちの美女が現れる。


 どうして自分は寝ているのだろうと首を傾げ、そういえばと思い至る。

 訓練生として来ていたレェベン家の者と一戦交えたのだ。


 最初は、自分に完全に有利な運びであったが、終盤に訓練生が暴挙に出て、ピンチに陥ったのだ。

 刃のついた実践の剣を突き付けられ、(あまつさ)えスキルまで使われたのだ。


 かなり力を入れた戦闘であった為、身体の節々が痛み、頭痛が走り、倦怠が襲う・・・という事は無かった。


 不思議と身体の痛みはなく、普段通り動かしても全く問題ない。倦怠感も無く、それどころか普段より元気な気さえする。


 自分が寝ているベッドに突っ伏して眠る美女の頭を撫でる。


「ありがとうミリエラ」


 多分ずっと私に治癒魔法を掛けてくれていたのだろう。

 彼女の身体から漏れ出る僅かな魔力が弱々しい、余程無理をしてまで私を看病してくれたのだろう。


 ミリエラを撫でていると、部屋の隅からも寝息が聞こえる。

 そちらに視線を向けてみると、ハルウ達が静かに眠っていた。


 窓の外は白んでいて、自分がかなり眠っていた事を知らせている。

 まぁ、ここ最近はあまりゆっくりとした睡眠を取れておらず、丁度いいかな、と考えて苦笑する。


 ミリエラを起こさないようにゆっくりと身を起こすと、ハルウが起き上がる。


「起こしちゃった?」

「いや、警戒して寝ていたからな。気配がすれば起きる」


 そう言って、ハルウは魔物の姿となり、前足を前に出し、腰を上に持ち上げて、グーッと大きく伸びをする。

 その後は盛大な欠伸を溢し、手や足をペロペロと舐め始める。朝の日課だそうだ。


 ナーヴィやモミジちゃんは起きず、当然ミリエラも起きない。

 やっぱり、昨日は慣れない事をして一気に疲れが出たのだろう。

 さすがのハルウも少々眠そうだ。

 人間の姿へと戻ったハルウは、首をポキポキと鳴らし、また一つ盛大な欠伸をする。


「心配かけたわね。ごめんなさい」

「そこで寝ているエルフに言ってやれ」


 ミリエラは一番心配してくれていたらしい。

 魔力欠乏で倒れていた私を、体力の持つ限りずっと看病してくれていたらしく、自身も魔力欠乏一歩手前まで来ていたらしい。


 モミジちゃんがそれを止めたらしいが、(かたく)なに私の側から離れようとしなかったらしい。

 最後は侍女が持ってきた、睡眠の薬が入った紅茶を飲んで眠りについたらしい。


 欠伸が収まったハルウは、でどうするんだ?、と言いたげな顔を向け、じっとこちらを見据える。


「取り敢えず、アタライの所へ向かいましょう」


 ハルウは一度頷くと、私の後をついてくる。

 報復がないかを警戒しているらしいが、さすがにあの訓練生もそこまではしないだろう・・・しないはずだ。


 しかし、ハルウが命じられたのは私とミリエラの護衛。

 なんでも、護らなかったら厳しい罰が下されるのだとか。あのハルウ達にも厳しいと言わせる罰があるとは・・・ユガにはかなり(したた)かな部分もあるらしい。


 部屋を出ると、前には侍女がいた。

 昨日見た侍女とは違い、恰幅の良い中年のおばさんである。

 侍女は慇懃(いんぎん)に挨拶し、こちらもそれに習って返す。


「アタライ様の所まで行きたいのですが、案内をお願いしても大丈夫でしょうか?」

「えぇ、承知致しました。ではこちらへ」


 侍女はそう言うと作業の手を止め、歩き始める。


 それについていくと、昨日訪れた部屋へとついた。

 侍女は部屋の扉を三度ノックし、中にいるであろう主人と言葉を交わす。


「なんだ?」

「サテラ様がお目覚めになられました。アタライ様にお目通り願いたいと申し出になられましたので、お連れしたのですが」

「わかった。通せ」


 侍女はアタライから確認を取り、ゆっくりと扉を開ける。

 そこには、昨日と同じ様にアタライが椅子に腰掛けていた。


「あぁ、ハルウ殿も是非こちらに来てくれないか?」


 いつも通りハルウは部屋に入らず、扉の横へ立とうとしていたが、アタライに呼ばれ驚いた表情を見せる。


 どうあいたものかと、私の方に一度視線を送るが、ここでアタライの提案を私が却下できる筈もなく、頷いて了承する。


 サテラは椅子に腰掛け、ハルウは私の右後ろに立つ。

 アタライが椅子を勧めたが、それだけは頑なに首を縦に振らなかった。


「昨日は、その、申し訳ございません」


 落ち着いたところで、私はそう切り出した。

 訓練の最中にハルウ達が乱入し、訓練を台無しにしてしまった挙げ句、訓練生に手を挙げてしまった。

 私も激情に駆られるがままに、リーダーであろう訓練生を完膚なきまでに叩きのめしてしまったのだ。


 ヴォルド家騎士爵からすれば重大な損害である。

 レェベン騎士爵から不評を買い、他の貴族からも何らかの付け入る隙を与えてしまうかもしれないのだ。


 しかし、アタライはきょとんとした顔を浮かべ、はてなんの事やら、等と惚け始めたのだ。


「え?あ、私達が訓練生に過剰なまでに叩きのめしてしまって・・・」

「訓練生に訓練を施したのだ。何か間違っているか?」

「え、あ、え?」

「お前達は臨時の教官。訓練生に教えるのはなんの問題もない。よくやってくれた・・・おぉ、そうだったな報酬を渡さねば」

「え、え!?」


 あまりの状況に理解が追い付かない。

 アタライは本当に何を言っているのだ、とでも言いたげな顔を浮かべている。

 普通ならば、重大な損害を与えた事を叱責し、その代わりとなるものを要求するはず。


 しかし、アタライは私達叱責するどころか誉め、挙げ句の果てには報酬をやろうと言い張る。

 冗談か何かかと思ったが、机の下から袋を取り出すと、机の上に置く。

 机に置くと、袋からジャラッとコインの擦れる音が響き、その中身が貨幣であることを示す。


 頭の中を思考の波がぐるぐると渦巻いていると、膝の辺りを何かがツンツンとつつき、ハッと意識を取り戻す。

 そして膝を見てみると、そこにしなやかな尻尾、伸びた先にはハルウがいた。


 見た目はいつもと変わらないが、一瞬だけこちらと目が合った。


 ・・・もしかして。


「揉み消そうとしてません?」

「・・・はて、なんの事やら」


 一拍の後、アタライは白々しくそう告げる。


 つまりは、今回の騒動を無かった事にして、訓練であったと言い張るつもりであるらしい。

 臨時教官を呼んで、訓練生に訓練を施した、と。


 訓練であるならば、ハルウ達が仕出かした事も、私が仕出かしたことも帳消しになるはずだ。


「いやぁ、まさかうちの兵士に、騎士として優秀な友人がいて、その友人が偶々王都に来ており、部下と訓練生に教練を施すとは。いやはや運がいい」

「・・・はぁ。そうですね」


 私は呆れて溜め息をついたが、トンッと一度机が小突かれる。

 それに、次はなんだとアタライの方を見ると、今までの冗談めかした雰囲気は一変、深刻そうな面持ちで考え込んでいる。


 アタライはこちらへと向き直ると、ポツリと告げる。


「一人言を言おう」

「は?」

「レェベンの次男がここを訪れる」


 その言葉に、身体がピクッと跳ねる。


「恐らく数刻もすれば、ここに来るだろう。準備を進めねば、あぁ、訓練生の一人が優秀な教官がいるとレェベンに伝え、それを聞いて一目見たいと次男が言ったそうな。早く伝えねばなるまい・・・しかし、今日が期限故に、教官殿はここをもう離れてるかもしれんな。それに、書類の処理が優先、これが終わるまで教官殿が居てくれるとよいな」


 アタライはそう一人言を告げた後、机へと向かって薄い紙にゆっくりと文字を書き始めた。

 なるほど・・・見逃してくれようとしているのか。


 しかし、建前があるとはいえ、先の事態で少なからずレェベンに不評を与えており、今回も私を逃してレェベンの意向に逆らえば・・・間違いなくヴォルドス騎士爵に何らかの圧力が掛かる。


「それはできな」

「教官殿達には後でお礼も言わねば、我が騎士達も感謝しておったとな」


 その言葉に目を丸くする。

 アタライのその発言から取れるのは、ヴォルドスの騎士達も公認で、私を逃がそうとしてくれている、という事だ。


 ハルウに目を向ければ、好きにしろとでも言いたげな顔で、そっぽを向いてしまう。


 正直まだレェベンの者に会いたくない。

 それもアタライがこちらへやって来ると言ったのは「次兄」あの時にいた人だ。

 私に剣技を教えてくれた兄でもある。


 何も言わずに飛び出し、騎士としての責務を投げ出した私に、兄はどのような目を向けるのだろう。


「・・・ふぅ」


 大きく息を吐き出す。


 一度は逃げ出したけれど、もう逃げない。

 この二年、信念の下に動いて来たのだ。


 恐れることはない。

 自分の見てきたものを、感じたものを、己の信念を曲げない事を伝えればいいのだから。


「待っています」


 そう言って椅子を立ち、アタライに一礼して踵を返し、部屋の出口へと進む。それにハルウも続く。

 背中に視線を感じながら、部屋を後にした。


「人という者は『怖れ』に敏感だ。それを克服するのは熟練の者でも難しいというのにな。強くなったな」


 そうアタライは一人、自室で呟いた。






 レェベン家の次男、名前は「クリフ・ラウル・ルアネィド:レェベン」という。

 王国騎士の中でも有数の実力者であり、王国騎士長の近衛程ではないにしろ、トップクラスの剣の腕前を有している。


 それとなく、周囲の者に聞いた所、小隊の隊長になっているらしい。


 昔私と訓練していた頃は、長男とは違い、温厚で優しい性格であった。

 他の騎士に信頼され、腕前も一流、無論家柄も騎士爵のなかでは最高位のレェベンであり、非の打ち所がない人物である。


 しかし、その兄も根底にあるのは、『国を護る騎士』、悪く言い換えれば『国にとって重要なモノを護る騎士』・・・つまりは、重要ではないモノは切り捨てるということだ。


 立派な兄ではあったが、憧憬の(きし)ではなかった。


 クリフ・ラウル・ルアネィド、ここに来るのが『ルアド』兄様でまだよかった。

 長男が来てしまうと思うと、顔から血の気が引く。


 幸い長男の兄は来ていないようだが、それでも気を抜くことはできない。


 私は扉の前で、いったいどれ程立ち尽くしているだろう。

 傍に控えている侍女には非常に申し訳ないが、自分の覚悟が決まるまで今暫く待って貰おう。


 中からはアタライと、懐かしい兄の声が聞こえてくる。

 いつまでもこうしていられないと、頭ではわかっているのだが、一歩が踏み出せない。


 兄が来たと報せを受けたのはついさっきであり、馬を颯爽と駆ってアタライの屋敷へとやって来たそうだ。


 できれば道中で魔物にでも襲われて引き返さないか、なんて事も考えていたのだが、あの兄であるならば魔物を切り捨てて何事も無かった様に来るだろう。


 そんな無意味なことを考えていると、、廊下の角からナーヴィがノッシノッシとこちらへと歩いてくる。


 先程から廊下の影から、一人と三びきがチラチラ見えていたのはわかっていたのだけど、努めて無視していた。

 だというのに、いったいなんのようだろう?


 そう首を傾げていると


「なぁ、あれはなんだ?」

「え?」


 ナーヴィに指で刺された方を向いた瞬間、私の股下を何かが通り過ぎる。

 驚いた時にはもう遅い。


 コンコンコン。


 股の下から飛び出したモミジちゃんによって、扉がノックされてしまっていた。

 顔から一気に血の気が引き、顔面が蒼白となる。


 キッとナーヴィとモミジを睨むと、一瞬で廊下の影に飛び込んでいってしまう。


「誰だ?」


 しかし、今更怒ることもできない。

 今のノックは仲間がしたもので間違いです、など言えるはずもなく、ここは覚悟を決めるしかない。


 後でお仕置きしてやる。と心に決めながら、意を決して告げる。


「訓練生臨時教官・・・サテラです」


 自分は思っていたよりへたれらしい。フルネームと家名を告げるのをためらってしまった。


「入れ」


 一度深呼吸をつき、失礼致します、と扉を開ける。


 数刻前にやってきた時と、なんら変わりない部屋の中に、懐かしい人の姿がある。


 こちらへと振り向き、一瞬驚いた顔で私を出迎えたが、直ぐに騎士然とした凛々しい顔つきへと戻る。


 群青色の髪に、大きな瞳、顔つきは凛々しく目鼻立ちがはっきりとしている。見た目は細く見えるが、目を凝らせば充分すぎるほどの筋肉がついている事がわかる。

 鎧の下に着るダブレットを着て、簡易な服装(ダブレット)ではあるが貴族を前にしても恥ずかしくない品質の物を着用している。


「こちらが今回臨時教官として、我が騎士達とレェベン家訓練生に教練を施した・・・まぁ言わんでもわかるな?」

「えぇ。まさか待っていてくれるとは思ってもいませんでしたが・・・」


 そう言ってルアド兄様はニコッと微笑み、私の顔をしっかりと覗き込み観察している。


 アタライに促されて、椅子に腰掛けると、早速兄様が口を開く。


「元気だったかい?」

「・・・はい」


 兄様はどう切り出せばいいのかと、悩んだような顔をして、私の顔をジッと見つめている。

 やがて、苦笑を漏らし、目を逸らしながら私に話し掛け始める。


「あぁ、えっと、元気だったのはよかった・・・出ていったって聞いた時は驚いたよ」

「・・・」

「理由は知ってるよ。スラム制圧の時の事だろう?」

「えぇ」

「一言くらい相談して欲しかったな?」


 兄様はそう言って、私の顔色を伺う。

 兄様は私が憧れていたものが、どういうモノであったのかを知っている。

 だから、あのスラムでの出来事が私にとって耐えがたいことであったのも知っているはずだ。


 兄様は騎士だ。

 国を中心に、国にとって大事なモノを護る騎士なのだ。


 そんな兄様と、当時の私がわかりあえる筈もない。

 対等な話し合いもできずに、一人癇癪を起こして飛び出して行っていただろう。


「あの時は冷静でありませんでしたし、あの時の私が考え方の違う兄様の言葉を理解できるとは思わなかったからです」

「あぁ、そっか」


 そう言って、兄様は悲しげな顔をして、俯いてしまう。

 だけどそれも一瞬、顔をあげた『兄』は騎士の顔をしていた。


 鋭い目で私を見つめ、冷たく細く鋭い気が叩きつけられる。

 一気に空気は張り詰め、身体が地面に引っ張られるよ様に重くなる。


「で、何を見てきたんだい?」


 その言葉に、額から汗が一滴流れ落つ、頬を伝って床へと落ちる。

 ここで答えられなければ私の二年は無駄になる。兄様だけじゃない、アタライにまで私が何も学ばなかったと証明してしまう。


 でも、私は見てきたんだ。

 現実と理想を、そして見つけたんだ。私の答えを。


「騎士としてありたい自分を見据え、信念を心に刻みました」


 二人は次に紡がれる私の言葉へと耳を傾ける。


「民を救う。それを覆す事は有り得ません。二年前の事も・・・逃げ出した事以外は、間違っていなかったと断言できます」

「サテラの言う信念とはなんだい?」


 兄様からそう告げられる。

 兄様の鋭い眼光は一切揺るがず、私の眼へと向けられる。

 何者をも見逃さない、そんな兄様の目からは、私の心に少しでも迷いがあればそれを抉り取ろうという気が込められている。

 震える手を固く握り締め、己の覚悟を兄様にぶつける。


「目の前で苦しんでいる人を助ける。ただそれだけです」

「・・・間違いだとは言わない。だけどそれをすると、守れるはずだったモノまで守れなくなるよ?」


 予想していた。

 あれもこれもと欲張って全てを手に入れようとすれば、何も得られずに全てを失ってしまう。物語の中の英雄の様に全てを救い、守り通す事なんて出来やしない。。


 騎士として生きてきた兄様の考えは理にかなっていて正しい。

 守るモノの取捨選択を迫られた時・・・あの時、貴族とスラムの人、騎士ならどちらを守るかなんてわかりきっている。

 そして、頭の中で理解できることが私は堪らなく悔しかったんだ。


 スゥッと息を吸い込む。

 そして告げる。


「守る」


 言葉に僅かに覇気を乗せて兄様に言い放つ。

 私の思いを届ける為に。


「例え不可能な状況でも、私は全てを守ってみせます」

「欲張って全てを救おうなんて、子供の戯言でしかないよ。君は誰も救えなくなるよ」

「そうですね・・・そう言われても仕方がないかもしれません。でも、それが悔しくて私は家を出たんです。この二年、私は騎士を捨てて冒険者として生活しました。騎士のように高潔でなければ、生き方なんてものもない。初めは惨めだなんて事も考えました。でも・・・」


 目を見開き告げる。


「そんな冒険者生活の中で得た心得を貫き通してみせます! 無様に這いつくばろうが、泥を啜ろうが、四肢をなくそうが・・・己の信念(いのち)を掛けて『救』ってみせる!!」


 冒険者の根底に有るものは、泥臭くても全力で生き抜いてみせる事。

 どんなに無様でも最後に生きて笑うことができれば勝ち。

 そんな信念を胸に、夢を抱いて冒険しているのだ。



 うん。正直に言ってしまうと、子供なのだ。

 子供が英雄に憧れているのを、少し泥臭くした感じ・・・それでも、全力で信念を貫き通す冒険者に心を打たれたのだ。

 そして、その夢が叶った時、冒険者は笑えるのだ。


「・・・ふふふ、子供だね」

「自分でもそう思います」


 きっぱりと告げる。

 事実なのだから。


「でも、そんな生易しいものじゃないよ。そんな信念なんかで人は守れない。それくらいはわかっていると思ったけど?」

「目の前で死んでいった冒険者を見たことがあります。守れなくて、歯痒くて、でも冒険者達は平気な顔なんです・・・。私が甘いのは知っています。信念なんかで人は守れない、信念なんかで全てを救えるわけがない。だから・・・」


 フゥと息を吐き出す。


「この剣が折れぬ限り、私の命が尽きぬ限り、己の身と信念を持って騎士道を全うしてみせます」


 兄様は沈黙する。

 険しい顔を浮かべたまま、目を閉じてハァと息を吐く。

 兄様の目の前にいる私は、高潔であり、王国を常に考え、守護する騎士なんかじゃない。

 冒険者の荒っぽさに染め上げられ、俗世に飲まれた泥臭い騎士なのだ。


 すると、険しい顔が鳴りを潜め、その顔には微笑が浮かぶ。


「ふふふ・・・あはははは!!やっぱり昔から変わらないんだね。一回決めたら曲げないし、頑固だし。でも、それがサテラの良い所なのかな?」

「な!? 昔と今を一緒に!!」

「違いはあるかな?」

「ヴッ・・・」


 私は顔を真っ赤にして兄様に反論しようとしたが、どこが変わったと言われれば、変わった場所が見当たらない。

 いいじゃない・・・一人くらい変なのがいたって。

 もはやグゥの音も出ずに縮こまっていると、兄様が立ち上がってこちらへと歩みを進める。


 頭に手を置いて、優しく撫でる。


「今のままでいいよ。サテラは」

「うぅ」

「でも、昔みたいに甘やかしはしない。ちゃんと家に戻って兄さんと父上に謝るんだよ。僕が言っておくから」

「それは・・・承知しています」


 兄様は私に笑いかけると視線を外し、アタライと一言二言交わし、頭に乗せていた手を退ける。

 見上げるとそこには騎士としての兄様でなく、優しい兄様が伺えた。


「それでは、これで。アタライ様、今日は失礼致しました」


 そう告げると、兄様はアタライ様に一礼して部屋を出ようとする。

 すると、こちらへ振り返り、満面の笑みで告げる。


「訓練生の件、貸しにしておくよ」


 兄様は意地の悪い笑みを浮かべてそう告げると、部屋を出て行った。


 そして、私は思い出した。

 兄様に借しを作って、いい事は一度もなかった事を。

次回は主人公回にする予定です。

スラムの影で暗躍する主人公をお楽しみに!!


何か変なところ、見にくい、誤字だ!などがあればどしどし教えて頂けると嬉しいです。

(言い換えでこういうのがありますよなどが合ったら教えてください。例:取得→習得、思いやる→慮る、聞こえる→耳に届くなど)


感想や活動報告の方にコメント頂けると私の気力になりますので気軽にどうぞ!!


※活動報告がどうやったら見れるのかわからなかったと読者様から聞き及びました。

方法は一番上にある?「作者:砂漠谷」の名前を押していただくと、私は左上に出てきました。


わからないことがございましたら、どんな些細なことでも構いませんので質問送ってください!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ