王都:豊穣のダンジョンでした!
『祝:一周年です!!』
一昨日この作品は一周年を迎えました!!
今後とも頑張っていまいりますので、宜しくお願い致します!!
評価の方も是非宜しくお願い致します!!
次話投稿は一週間以内です!!
栄える街にダンジョン有り、夢はいつしか現実となる。
冒険者は夢を求めて剣を携え、商人は冒険者と夢を求めて算盤を弾き、都は夢を与える礎となる。
ダンジョンの周囲には自然と人が集まる。それを思い立ったのはいったい誰だったのか・・・。
気づけば街は都となり、都はいつしか国となった。
周辺の街も、ダンジョンを囲うようにして次々と大きな国へと変貌していった。
ダンジョン・・・それは、夢と希望を与える迷宮。
夢と希望を追い求める代償の大きさに気づかず、無謀と言わんばかりの大望を胸に抱いて、人々はダンジョンを追い求める。
夢を掴み取る姿を幻視し、自らに酔いしれ散っていく冒険者達。そんな事は露知らず、ダンジョンは大きな口を広げて次の探求者を待ち続けるのだ。
夢という希望を餌に、命という餌を求めて。
今日酒場で飲みあった友が、次の日にはダンジョンに飲まれる事なんて日常茶飯事の事・・・悲しみもせず、死者に憐れむこともせず、冒険者達は揃ってこういうのだ。
そうか。まぁ、いつものことだろう、と。
そしてまた、一つの夢を携えたダンジョン「豊穣」が王都へと姿を現したのだ。
さて、現在王都では陽が昇って少しした頃だ。
私達は用意を整え、不気味に佇み私達を見下ろす様にして存在する巨大な穴・・・ダンジョンへとやって来ている。
・・・何故、こんな朝早くからダンジョンへ来ているのか。
まぁ、結論から言ってしまえば、結局ユガは帰ってこなかったのである。
夜になってもなんの音沙汰もなく、姿も見せず書き置きすら残さず、ぱったりと消息を絶ってしまった。
しかし、衛兵達に聞いて回ったのだが、街中で妙な騒ぎも起きていなければ、スラムの方も比較的落ち着いているそうだ。
つまり、いざこざや揉め事に巻き込まれた可能性は非常に低い
そうなると、もはや答えは一つ・・・ダンジョンに潜ったとしか考えられないのだ。
迷っている・・・事はないとは思うのだが、ダンジョンは迷宮なのだ。万が一にも迷っている可能性がある。
だから、私達はユガ捜索隊として、今日ダンジョンに挑むのだ。
・・・で、朝早くから来ている理由は
「腕が鳴るな」
「パパッと片付けよう」
「お、お姉さんに任せて!!」
「き、緊張するなぁ」
この四人・・・特に三人である。
端から自重する気はないらしく、存分に暴れ用としているのが見て取れる。
いくらダンジョンと言えど、人の目というものはあるのだ。
ましてや噂好きの冒険者たちにこの三人の姿を目撃されでもしたら、凄腕の冒険者がいると噂されるのであればまだしも、ダンジョンをとんでもない魔物が徘徊している、等と噂が立てば私は次から申し訳なくてダンジョンに潜れる気がしない。
冒険者といえば、ダンジョンに挑むのは大体が日中、昼ごろである。
冒険者の大半は夜に酒を煽るほど飲み、朝は殆ど寝ている連中が多い。
朝方にダンジョンに潜っている冒険者といえば、前日から潜っている者であったり、期限が迫っている依頼があったりする者達が殆どだ。
このダンジョンに潜る時間というのも、しっかりとした理由がある。
私達の様なダンジョンについての知識や経験が浅い冒険者は殆どが昼に潜ることになる。
なぜなら、先程も言ったように、冒険者が多いからである。
冒険者が多いということは、それだけ危険が減ることに直結しているのだ。
ダンジョンでは魔物が死滅することはない。冒険者達はそれを「湧く」と言っている。とは言っても、数が一定であるわけはなく、一説によればある一定時間毎に現れているのでないかと言われている。
でだ、冒険者が多いという事は魔物が倒される事も多く、囲まれたり集団で襲われたりする事が非常に少なくなる。
また、もしもの事があったとしても、周りに多くの冒険者がいるなら、助かる可能性があるからというのもある。
それを知らずに、朝や夜にダンジョンに潜っていった者は、高確率で危険な事態に遭遇するだろう。
私達が今潜ろうとしている時間は朝。
朝はというと、深夜に掛けて「湧く」魔物が多く、魔物に遭遇しやすく、また数も多いというリスクが伴う。
しかし、魔物が「落とす」アイテムや、希に出現する宝箱等を手に入れるにはもってこいの時間帯だ。
・・・正直リスクの方が高い。
そして夜・・・昼に倒されたおかげで魔物は少なく、冒険者たちも少ないおかげでアイテムも独り占めでき、また危険も少ないように見える。
しかし、夜というのは陽に当たることがない日陰者達の活動時間でもあるのだ。
魔物の脅威が去ったかと思えば、次に渦巻くのは人間の悪意である。
魔物よりも厄介で、「初心者狩り」「組織狩り」・・・などなど、一番危険な時間である。
力量だけで言えば、このメンバーは破格の強さを持っている。Bランクの冒険者を片手間に倒せる様なコクヨウ達の上・・・それもユガの一の配下達なのだ・・・湧いてくる魔物については大丈夫だろう。
なら人目がないという事が一番の目的、そうなれば朝しかないだろう。
一度深呼吸して肺の中の空気を入れ替える。
新鮮な空気の中に、ダンジョンが放つ異様な空気の味が肺に残る。
「それじゃ行くよ。ダンジョンの中では絶対に気を抜かないでね」
「わかっている」
「・・・うー、緊張する」
ハルウ達はいつもと同じ様子で、本当にわかっているのか心配になる・・・。
まぁ、この中で唯一心配なのがミリエラなのだ。相当な精霊魔法を行使できるが、荒事にはあまり慣れてないし。
今日はあまり深い所に潜るつもりはなく、安全だとは思うのだけど、油断しないようにしっかりと気を張っていこう。
歩みを進める。
昼なら衛兵が立ち、混雑しているダンジョンの入口は今は人が殆どいない。数人入る姿を確認したが、別段変わったところはない。
ダンジョンの中へと入る。
一瞬目の前が暗くなり、次の瞬間には暗い洞窟が姿を現す。
どうやら、無事に入れたらしい。
ダンジョンの入口を潜ると、そこは一本の通路になっている。
少し進めばどんどん道が枝分かれしていき、地図がなければ迷うことは間違いない。
ダンジョンの地図の作成は冒険者ギルドが優先的に請け負っている。
王都では騎士団との連携もされており、地図の作成は他の街や都市のダンジョンよりも遥かに早い。
これにより、冒険者達は比較的安全に潜ることができ、また王都には冒険者が仕入れてくるアイテムで潤う・・・どちらも利を得る関係となっている。
バッグから地図を取り出し、自分たちが向かう場所に目処を立てる。
「ここから先に進むと十字路があるから、私達は左に進む。手掛かりもないし、取り敢えず・・・だけど」
「了解」
言った通り、進んだ先に十字路が見えてくる。
そして左に進むと空気が一変する・・・どうやら「安全地帯」を超えたようだ。
ダンジョンでは、入り口付近や十階層ボス部屋の手前には「安全地帯」というものが設けられている。その場所では魔物が湧いてこず、また侵入もしてこない。
その場所を一歩でも抜けると、そこから先は魔物が跋扈する魔窟へと変貌する。
「・・・来るぞ」
「ッ!?」
慌てて腰に下げた剣を引き抜く。鈍色に輝く刀身が露になり、通路の先へと鋒を突きつけ、そこから現れるであろう魔物を待つ。
すると、通路の先からズルリと青い何かが姿を現す。
「・・・ユガ君、じゃ、ないよね?」
「違う。漂う魔力の質が、低俗な魔物のそれとなんら変わりがない」
「なら、私g」
剣を構えようとした直後、一陣の風が頬を撫でる。
それに気を取られ、一瞬視線を外した直後、目の前にいたはずのスライムが消えてなくなっている。
呆気にとられてポカーンと口を開けていると、今までスライムがいた場所にナーヴィがいた。
何事もなかったように佇んでいるのだが、明らかに何かしたのは見て取れる。
「えっと・・・」
「ナーヴィがやったな・・・相変わらず早い」
どうも、ナーヴィがスライムを倒したらしいのだが、私には何も見えなかった。
私がおかしいのかと、ミリエラの方を見てみれば、ミリエラも口を開けてポカーンとした様子で呆気に取られている。
やっぱり規格外らしい・・・朝でよかった。
これが昼間なら、間違いなく見られて、噂に上っていた所だろう。
「・・・アルジも昔はああだったのか?」
「そんなわけ無いわ。きっとアルジは昔から無敵だったはず!」
「・・・それもそうか」
そんなハルウ達の会話を努めて無視して、今しがたスライムが居た場所へと視線を向ける。
やはり、ナーヴィの足元には青くて丸い球の様な物が転がっていた。
それをヒョイと摘んで、バッグの中に入れる。
「サテラ、今の何?」
「スライムの核ね。これを20個集めて、冒険者に行くとお金が貰えるのよ。傷薬の材料ね」
「ポーションの?」
「いいえ、ポーションとは違うわ。ただの傷薬になるだけよ。ポーションはもっと高位の魔物が落とす材料が必要ね」
スライムの核は低ランク冒険者には、基本的な資金集めの為のドロップアイテムだ。
スライムは動きも遅く、例え攻撃を受けたとしてもあまり痛くはない。故に、低ランク冒険者達の資金源であり、低階層では一番倒しやすい魔物なのである。
ドロップアイテムであるこの核は、20個集めるとギルドではいつでも買取してくれる。
あまりいい稼ぎ方とは言えないが、駆け出しには丁度良い代物だろう。
・・・そういえば、スライムって弱いんだったな。
うちの食い道楽スライム?は化物じみた強さがあるというのに。
そうこうして、歩いていると何度かスライムと出くわし、その都度ハルウ達が瞬殺するという結果を見届ける事となった・・・自分がヒモになった気分だ。
やはり朝なだけあって遭遇率がやや高い。
そしてそのどれもがドロップアイテムを残し、もうバッグには10個のスライムの核が収まっている。
普通ドロップアイテムというものはこうもポンポンと出ない。
ではなぜ出るのかといえば、ここが豊穣のダンジョンであるからだ。
豊穣のダンジョン・・・それは、突如として現れ唐突に消えるダンジョンである。
豊穣のダンジョンで得られるアイテムは、他のダンジョンと比べて多く、ダンジョンの恩恵・・・宝箱の数なども非常に多いのだ。
質は普通のダンジョンと比べて落ちると言われているが、それを凌駕する実入りのいいダンジョンなのである。
ドロップアイテムはじゃんじゃん出てくるし、冒険者ギルドの調査によればレア魔物の存在も複数確認されるケースもある。
宝箱からは魔剣と言われる類の物が出ることも多く、冒険者からしてみれば垂涎のダンジョンであるのだ。
しかし、このダンジョンは唐突に消えることもあるのだ。
その合図は、魔物が一切出てこなくなり、宝箱も一切なくなってしまうと言うものである。
その前兆が現れれば、冒険者達は直ぐ様ダンジョンを抜け出てくる。
昔、初めて豊穣のダンジョンが確認された頃、前兆を知らなかった冒険者と騎士は何事かとダンジョンの中で調査していたらしい。
すると、三日程していきなり豊穣のダンジョンが崩れ落ちたのだ。
・・・察しのいい者ならわかるだろうが、その時中にいた者達は戻って来ていない。
今となっては周知の事実ではあるが、当時は大変なことになったとギルドに置かれている書物に書いてあった。
なんの前触れもなく崩れる事はないし、今では冒険者達の夢と希望を一身に集めるダンジョンと化している。
・・・因みに、ダンジョンには難易度と呼ばれる階級もあるのだ。
今回現れた豊穣のダンジョンはDランク、一般の冒険者でも何とか戦っていけるものだ。
低層で狩りをする分ではどこのダンジョンも変わらない。
しかし、深層に行けば行く程、魔物の手強さや罠の脅威度が跳ね上がる。
深層は兵士や騎士、高ランク冒険者によって探索と駆除がされているが、その中でも帰ってこない者は多い。
「だというのに・・・このスピードはほんとに異常だ」
魔物の屍が築き上げられ、即座にドロップアイテムと化す。
バッグは即座にドロップアイテムでいっぱいになり、売却額が低い物から順に捨てていく始末。
今や豊穣のダンジョン九階層、一度も攻撃を受けず、歩みを止める事も、緩める事も決してない。
無造作に手を振るい、脚を振り抜き、跳躍して踏み潰し・・・一連の作業には全く澱みがない。
そんな無造作に戦闘をしているというのに、列の乱れや不意の襲撃に完璧に対応している。
戦闘中における警戒も完璧、移動中における警戒も完璧、極めつけは・・・
「罠があるね」
「ここだな」
盗賊のジョブを獲得していないにも関わらず、罠の類をパッパと発見し、解除していく。
盗賊泣かせの所業に、本人達はさも当然であると言いたげな顔で、何事もなかった様に、また歩み始める。
異常な事態であるのはまず間違いない。
でも、段々とそれに慣れてきてしまっている自分が居る。
普通であれば、常に魔物の脅威に警戒しながら歩みを進め、罠の発見や取り外しに時間をかけ、精神が疲弊し、並みの冒険者であればニ階層付近で脱落するというのに・・・ハルウ達は初めてのダンジョンで事も無げにダンジョンを我が物顔で歩いているのだ。
「ハルウ君達は凄いね。何でこんなことわかっちゃうの?」
「昔から森には人間が仕掛けた罠があったから慣れた、魔物への対処も同様だな」
「私達は群れにして一、ユキはいないけれど、この程度なら余裕よ」
「まぁ、ユキがいない分、やりにくいがな」
もはや一流冒険者の言そのものである。
そんなこんなで、下へと続く階段を発見する。
この下はいよいよこのダンジョンの節目・・・階層ボスである。
階層ボスは、一~九階層に出現下的とは比べ物にならない魔物が出現する。
冒険者の間ではここが初心者と熟練者の分け目、とも呼ばれている場所だ。
下手をすればBランクですら足元を掬われかねず、また階層ボスが出現すると、退路も絶たれ、先に進むことも後に引くことも出来なくなってしまうという。
傷薬などは入念に準備をしてきているし、いざとなれば前回の報酬で買ったポーションがある。
それでも・・・階層ボスとなれば、心許ない。
ここは一度引き返して、もう一度入念に作戦を・・・。
「ここは一旦」
「えっと・・・もう行っちゃった」
・・・ダメだ。もう手に負えない
頭を抱えてその場にしゃがみ込む。
下に行けば、退路は岩壁で塞がれ、進む場所も勿論岩壁で防がれる。
もし、力量で及ばなければ・・・そのまま階層ボスに嬲り殺しに合うだけである。
・・・でも、もう迷っている暇はない。
このまま、ハルウ達が進めば10階層への道は塞がり、私とハルウ達が離れ離れになる・・・それだけは絶対に阻止しなければならない。
「・・・行くわよ」
「えっと、大丈夫なのかな?」
「もう、知らないわよ」
ユガは一体どうやってあの問題児達を躾していたのか・・・帰ってきたら縄で縛って聞いてみよう。
下へと続く階段に足を乗せる。
今までとは違う空気の流れが、身体に纏わり付き背筋を震わせる。
ダンジョンの特性である魔力光に照らし出された洞窟の表面は、まるで私達を奥へ奥へと誘う様に・・・そして、嘲笑うかの様に口を広げている。
もし勝てなかったら・・・そんな思いが脳裏を過る。
どうすればいい?
どうすればこの事態を収拾できる?
「あぁ、もう!!こんな事なら、ユリィタさんに何かアドバイスを貰っておくんだったわ」
「一流の元冒険者さんなんだよね?」
そんな事を言っても、今更もう遅い。
虚しく洞窟内を反響し、虚空に溶けるようにして消えていくだけだ。
やがて、階段が途切れる。
そこを抜けると広い部屋・・・通称、ボス部屋が姿を現す。
ハルウ達は部屋の中央に立っており、奥にポッカリと空いた穴を凝視している。
何かいるのかと視線を送れば、何やらドスドスと地面を踏みしめる音が聞こえる。
明らかに今までの魔物とは格が違うその気配に身を震わせ、穴の奥から視線を外さないように凝視する。
そして現れたのは・・・。
「ハイコボルド・・・」
赤い瞳をギラギラと輝かせ、長い槍を携えたハイコボルドが姿を現したのだ。
ハイコボルドは、ステータスから見ても非常に強い。冒険者の依頼ではCランクに相当される魔物である。
・・・そして、やはりそれの配下もいるわけだ。
ハイコボルドに付き従うように5体のコボルドが出現する。
コボルド種は素早いスピードと持ち前の武器を扱い攻撃を仕掛けてくる。
非常に厄介な相手であり、ハイコボルドになると武器の扱いまでもが上達しているのだから、低ランク冒険者では手も足も出ないのは明らかだ。
そんなハイコボルドがいきなり、こちらへと突進を仕掛ける。
スピードはやはり早い・・・今から回避すれば何とかって?あれ?
ハルウ達はハイコボルドの進路から退こうとしない。
反応が遅れたかと冷や汗が背筋を伝う・・・しかし、そんな考えも杞憂に終わったのだ。
「ふん」
ナーヴィが振り抜いた拳は、ハイコボルドの持つ長槍を易々と破壊し、ハイコボルドの体毛を鷲掴みにして突進の勢いそのままに投げ飛ばす。
投げ飛ばされたハイコボルドはモミジちゃんの眼前へと迫り、直撃するかと思われたその瞬間、ハイコボルドの頭部と四肢が捩じ切れる。
ドシャッという音と共に、ハイコボルドの亡骸がダンジョンへと消えていく。
呆気に取られる暇もなく、ハルウが動く。
地面にあった拳大の石を蹴り飛ばし、コボルドの頭に直撃させ絶命させる。
ダンジョンの魔物は恐れを知らない・・・引くことを知らず唯目の前に立つ獲物を屠るために進む。
コボルドはハルウに接近しようと、歩を進め用とした瞬間・・・。
ゴウッッッ!!
耳を劈く轟音が鳴り響く。
その音が部屋中に響き渡ったと同時・・・コボルドが洞窟の床へと倒れ伏し消え失せる。
「ふん。咆哮如きで死ぬようならまだまだ青いな」
「大したことないなぁ」
「興ざめだな・・・これじゃあ、アルジはどれだけ下に行っているかわからないぞ」
私は現実から目を背け、乾いた笑みをその顔に浮かべた。
非常識にも程がある。階層ボスをいとも簡単に・・・それも赤子の手を捻るように倒し尽くしてしまったからだ。
・・・いや、まぁそれもそうか。
ハイコボルドって、コクヨウやキクちゃんの下位種だもんね。
「・・・常識なんて通用しないんだ。魔族って」
「あの、サテラ、それは偏見じゃない・・・かな?」
ハルウ達は何事もなかった様に下の階層へと下って行き、私とミリエラもそれに続いて下っていく。
私のカバンに入っている準備では、十階層より先を進むには心許ない。
しかし、今の光景を見せられた後では、このまま行けるだろうと思えてしまう。
ハルウ達であれなら、ユガは一体何処まで潜っているのだろう。
大きな溜め息を吐いて、再び歩みを進めたのだが、考え事をしていたせいで前を見ていなかった。
「ふえ!?」
前を歩いていたハルウ達が止まっていたのに気づかずぶつかってしまったのだ。
間抜けな声を漏らして、鼻をさすりながら何かあったの、と目で訴える。
「この先に何かが大勢いる」
「多分人間だと思う」
「何かと戦ってるみたいだな」
前を見ただけでは何も見えないが、自分の耳には微かにではあるが剣戟の音が洞窟内に反響しているのを捉えた。
互いに目配せしあい、慎重に歩みを進める。
ハルウ達は何時もと同じ様に歩いているが、その実足音やら気配なんかが薄れているのが分かる。
私とミリエラも可能な限り足音を忍ばせ、通路の奥へと進んでいく。
次第に剣戟の音は大きくなり、ある曲がり角へと到着する。
ハルウ達は曲がり角から、剣戟のする方向へと目を凝らしている。
私もそれに続いて曲がり角から半分だけ顔を出し、剣戟のする方へと視線を送る。
「ッッッ!?」
その先にいたのは、今一番会いたくない相手であった。
動揺が全身を駆け巡り、冷や汗が一気に溢れ出す。
その先に合ったものを認めたくないという思いが頭の中を駆け回る。
手が震え、足が竦み、正常な判断ができなくなる。
そう、曲がり角の先にいたのは
「・・・ふむ、あれが『騎士』か」
胸のあたりに王都の紋章を刻み込んだ白い鎧に身を包み、白銀の刃の根元に悠然と輝く騎士爵の紋章、一糸乱れぬ隊列を形成し、十一階層の魔物の群れと戦闘を行っていたのは
紛れもなく、王都の騎士達だった。
この作品も連載し始めてはや一周年が経過しました。
これも一重に、皆様の応援があってこそです。これからも楽しく頑張って執筆させて頂きますので、今後共生暖かい目で、作者の奮闘を見てあげてください。
これからも気を抜かず頑張っていきますので、是非皆様応援の方宜しくお願い致します!!