表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/271

開拓:傭兵団と道すがらでした!

今回は10000文字超えです。見応え抜群ですよ!

誤字脱字がありましたら報告お願い致します!!

次話投稿は一週間以内です!

 賑わいを見せる雑踏を、体を横にしながらすり抜けていく。時折肩がぶつかってジロリとこちらを見てくる筋肉オヤジが怖い。

 勿論睨み返すことなどできず、生来の気の弱さが滲み出している。こういう所はthe日本人なんだよなぁ。


 ブラブラと街の中を歩み続け、屋台から漂う腹の虫を呼び覚ます匂いにフラリ、吟遊詩人が詠う英雄譚にフラリ、裏路地の店で客引きしているバインバインの美女にフラ・・・痛い。


「主君」

「ユガ君」

「ふぉめんにゃひゃい」


 両の頬を抓られ引っ張られる。

 キクとミリエラに両手を挟まれる幸福感を今更実感する。

 右を見れば、スレンダーな身体、肩口より少し下まで伸びたセミロングの髪、ジト目をして頬を膨らませながらこっちの頬を引っ張るキク。

 左を見れば、豊かに実った豊穣の象徴が二つ、俺の腕に当たってムニィと形を変える。長い金色の髪に青い瞳、流し目で眉根を寄せてこちらを見やるミリエラ。


 街の中を歩く美女二人に、通行人の視線は釘付けとなり、ミリエラにデレデレする者、キクにデレデレするロリコン、俺に嫉妬や殺意の感情を波々と注いでくる者。

 因みに一番人気は俺に向けてくる殺意であり、次いでミリエラである。まぁあの豊かな・・・キク、それ以上引っ張ったら千切れる。


 かれこれ二時間以上も歩き続けている俺達は、途中露店で食べ物を物色したり、女の子連中は服やら貴金属を見ては瞳を輝かせている。

 ミリエラとキクはすっかり仲良しになったようで、二人でキャッキャッとはしゃいでいる。


「ん・・・キク、見つけた」

「どこでございますか?」

「そこの住居の奥の部屋に不自然な壁があって、それの奥にあるぞ」

に伝えます」


 で・・・俺達はデートをしているわけではない。

 デートをしている風に装っているわけで、真なる意味は。


『黒翼』のアジトを見つけ出し、人員や武器を暴くために歩き回っているわけだ。

 地上から、広大な地下空間の道や黒翼の人員の数等を探っている。どうやって地上から探りを入れているのか・・・。


 周囲掌握ハイパーサーチである。

 これは地上だけではなく地下まで届くらしい。ギルドの中で試しに使ってみると、地中に何らかの道があることがわかったのだ。

 ギルド長に地下道でもあるのかと聞くと、そんなものはないって言う。

 傍に控えていたユリィタさんも、過去文献を引っ張り出して、そういった地下道に対する記述があるかを調べてくれたけどなかった。


 そして、偶々(たまたま)その地下道に人が通ったわけだ。

 それも周囲掌握ハイパーサーチに引っ掛かり、その人について、ギルド長に報告すると、ゲデインという『黒翼』に所属する、真っ黒に近いグレーな冒険者であり・・・あのミリエラを口説いてきた大男の仲間であったそうだ。


 で、だ。

 俺達はデートをしている両手に花カップルを扮して常時、周囲掌握ハイパーサーチを発動させながら歩いているわけだ。


 そんなことしないでも一人でいいんじゃないかって思う者もいるだろう。

 断言しよう。「いいじゃないか!異世界で楽しんだって!!デートしたって!!!」


 私欲に塗れた理由を振り乱しながら、街を闊歩して、見つけたアジトの入口は4つ。

 そこから出入りしている冒険者のリサーチも欠かさず行い、逃走経路や秘密の通路といった所も暴いていく。酷い所には罠なんてある始末だからな・・・扉の横にある、木箱の後ろにあるスイッチを押さないと、頭上から槍なんて笑えねぇ。


 さて、粗方探し終わったわけだけど、まさか貴族街にもあったとは驚きだな。

 今見つけたのは普通の平民街な訳だけど、平民街に三つ、貴族街に一つだった。


 そして、貴族街にあったアジトの入口。そこの住居の所有者が『デイドリッヒ』なる人物で・・・あの理不尽な制裁を俺達に課している黒翼の頭らしい。

 何でもこのデイドリッヒ、この街のあらゆる所で顔を利かしているらしい。場所代と称して金をせしめたり、払えなければ社会的に・・・或いは物理的に消す。


 かなり悪辣な奴らしい。

 そのくせ頭は切れるし、狡猾で中々尻尾を掴めない・・・うーん、掴ませないらしい。一度ギルドの職員が嗅ぎまわって尻尾を掴んだらしいのだが・・・行方不明になったらしい。十中八九消されただろう。


 黒翼に所属している団員の中でも要注意人物は三人、「ゲデイン」「グリスト」「ブラッハ」である。

 特にブラッハという男はBランクの中でもかなり上位に位置していたらしく、冒険者を追放される前は、かなり名が通っていた程の猛者らしい。


 で、見つけたわけだ。

 最悪のタイミングでね。

 ある部屋から探知さされたのは二人・・・部屋の中に重なる様にして情報が頭に入ってきたもんで、解析してみると・・・。

 上になっているのは「ブラッハ」で、下になっているのは女であった。


 そして、ブラッハの称号が発動していたわけでして・・・「性欲豚」

 もうお分かりだよね。おっぱじめていたわけだ。

 幸いといっちゃなんだけど、スープ屋の親父の嫁や娘ではなかった。


 それにゲンナリとしながら、キクをモフモフして気分を和らげたのがつい30分前だ。


 キクはアジトの出入り口の発見をに伝えに行ったわけだけど・・・はぁ、まさかあんな事になるとは思ってもみなかった。


 溜息を吐き、肩を落としていた矢先に、賑わう雑踏の中頭一つ抜けでた男が目に入る。

 切れ長の目に短い紺色の髪、大きな身体に伸びる腕には、歴戦を感じさせる傷が多々刻まれている。男は何かを探しているかの様に辺りを見回し、やがて俺と目が合う。


 男が歩き始めると自然と道は開き、その破壊力のある筋肉が何者も寄せ付けず、先程俺を睨んできた通行人もすごすごと道を明け渡していた。


「主人!キクから話は聞いた!!今日行くんだろう!!!」


 探し人・・・うん。案の定俺だよ


「おう、アジトの中も、人員も、隠し玉も何もかもを把握した、それもこれも皆お前達のおかげなんだよなぁ・・・腑に落ちないけど」

「アルジ、テキワ、コンヤゼンインアツマル」


 目の前に立っている男の名は・・・「フゲン」だ。

 そして、聞き慣れない掠れた声がフゲンの肩口から聞こえる。


 不言の肩口から現れたのは小さな虫・・・『蜘蛛』が姿を現したのだ。先の言葉はこの蜘蛛から発されており、赤い複眼はじっとこちらを見つめている。

 大きさは小指の爪程、それでもしっかりと意思や理性があるようで、自分より上のものには敬意を払う辺りかなり賢い・・・が


「お前!!いつの間に!!!」

「モトノスガタナラ、シンデイタゾ、フヌケ!!」

「クソ蜘蛛がぁぁぁ!!!」


 フゲンの肩に乗っていた小さな蜘蛛はピョンと飛び跳ね、俺の頭の上に乗る。

 うん・・・この蜘蛛はフゲンとは仲がすこぶる悪い。ともするとコクヨウ達より悪いかも知れない。


「「「主人!」」」

「「「主君!!」」」


 未だ、俺の肩に乗る蜘蛛とフゲンが言い争っている中、後ろから聴こえてくる声に振り向く。

 そこにいたのはは、ショウゲツ、ヨウキ、シロタエ、コクヨウ、ルリ、ソウカイと見慣れた俺の配下達が勢ぞろいしていた


 ここにいないはずの配下達が何故ここにいるのか、そしてこの蜘蛛は一体何なのか・・・それはつい5日前にさかのぼる。



 -------------------------------------------------・・・



「久しぶりに帰って来たような気がする」


 そこは豊かな緑を蓄え、生命の息吹が溢れ出す森が広がっている。

 森から抜き抜けてくる風の音は青空へと響き渡り、清涼な空気が肺いっぱいに広がる。

 一応は自分の故郷に当たる場所であるので帰って来たとつい口走ったが、スライムとして生まれ落ちた事を思い出して苦笑を零す。


 草原と森との境界線は果てしなく続き、大森林の呼び名に相応しく、一度風が吹けば森に芽吹く木々達が一斉に合唱を始める。

 それに合わせて獣や魔物の声なんかも響き、ユガ大森林は一つのコンサートホールへと変貌する。


 しかし、そんな神秘的であり清涼感あふれる外観と比べ、一歩足を踏み入ればそこは魔境へと様相を変貌させる。

 他者の侵入を拒む森林は、陽の光を遮り、死へといざなう闇を周囲へと振り撒く。


 生きとし生ける物への恵みを齎す森は、されど生者の命を奪う。

 魔物の徘徊する森に響く不気味な鳴き声、時折傍に何者かが忍び寄る足音、飢えた魔物達の数多の視線が自分達を射抜くのだ。


 空虚な草原を駆け抜けた風は森の中へと侵入を試みるが、奥深くへと進むことはできず、途中で空へと姿を消していく。


 全てのモノに安寧を届ける草原・・・選ばれしモノに圧倒的な生を、弱者に死を届ける森。二つの境界線に少年達一行は立ち尽くしている。


 自分の後ろに続く馬車は五台、ウェルシュバイン家から借りてきた馬車の列は、草原から森へと続く道の傍らに駐留している。


 その内の一台のドアが開けられ、キクが中からゆっくりとした足取りで現れる。その顔は不満そのもので、眉根を寄せてこちらへと走り寄ってくる。まぁ、それも仕方ないか。


 キクが降りた馬車から、ピョンッと飛び降りる影がもう一つ。

 中から現れたのは長い髪を両方で結び、ラフなワンピースを来た人族の女性・・・ウェルシュバイン・アンネ・ドゥレイク様だった。


 まぁ、この馬車の数を見てもらえばわかるだろうが、ウェルシュバイン家の所有物の馬車である。


 ギルドが手配した馬車がウェルシュバイン家の物であり・・・偶然たまたま思いがけず巧まずして、俺が馬車を欲している事に領主様が気づいたそうだ・・・嘘つけ。

 で、馬車をタダで貸す代わりに、娘を連れていって欲しいと無言の圧力をもらったわけだ。


 で・・・。何故こうなったのか。


 ギルド長に俺が提案したのは、俺と配下達の傭兵団を雇わないかという提案だった。

 ここに来る前でにも言われていたが、深刻だったのは戦力不足であったからだ。街の衛兵だけでは、冒険者として第一線で戦い続けてきた黒翼の戦力を抑え切れない。


 そして厄介な事に、今現在カナンにはBランク以上の冒険者が全くいないのだ。

 実は王都の方で、最近『豊穣のダンジョン』と言われる物が発見され、近々そのダンジョンが解放されるらしく、高ランクの冒険者達は王都へと向かって行ってしまったそうだ。


『豊穣のダンジョン』は普通のダンジョンとは違い、貴重なアイテムが採取できるダンジョンだそうだ。レアな鉱物、レアな薬草、レアなドロップアイテム・・・そういった物が数多く存在するらしい。

 その豊穣のダンジョンはある一定の期間が経てば消滅してしまうそうで、冒険者達はこぞって王都へと向かって行ってしまったらしい。


 そうなると、いよいよを持って王都の兵士に救援を・・・となった訳だが、俺の配下ならいけるんじゃないか?と考えた。


 そこらへんの信用ならない冒険者よりも、そこいらの魔物や冒険者ならひと捻りしてしまえそうなくらい強くて、尚且つ俺の事を主人、主君、アルジと慕ってくれる配下達の方がいいな・・・と。


 そして、ギルド長とユリィタさんにこの森の事を話し、結果的に俺の正体も話すことになった。ミリエラやサテラの事はなんとか隠し通したが、なんとなーく事情を察してくれてはいるようで、余計な詮索はしてこなかった。


 それで、ギルド長さんの認可を得た上で、この森まで戻ってきて今に至るわけだ。


 恐らく多分大方きっと十中八九絶対百パーセント、俺達の事を付けていたであろうウェルシュバイン家の従者が馬車を勧めてきたり、ウェルシュバイン家のご息女がついてきたり、ウェルシュバイン家から性懲りもなくまた護衛依頼|(名目上だが)を出したりと色々な事故はあったが、今の所は順調だ。


「ここがユガ君の言っていた縄張り・・・ユガ大森林なのよね?」

「ユガ大森林。王国を丸々飲み込んでしまえる大きさに、魔物の強さは東西南北に区画してF~B、稀にA級の魔物の出現情報あり。ダンジョンの様にアイテムドロップは少なく、規則性がないために敵の奇襲が常に予想される。魔族領とも近く、好んで入る冒険者はいませんね。いるとすれば、後暗い物を引き摺った人だけでしょう」


 アンネさんの声に、もう一つの馬車から姿を現したのは、ギルド製の制服を身に纏い、ギルドの腕章を下げ、胸元にはギルド公認のメダル・・・それもギルドの幹部を指し示す紋章が刻み込まれた特別製を付けた、メガネを掛け、黒く長い髪を下ろしている女性・・・「ユリィタ」さんであった。


 俺のサポート役としてギルドから派遣されたのがこの人だ。

 ギルドの中でも一番の信頼が有り、実績もある。ギルド職員統括の位置にある彼女の仕事は、情報の精査と統制、あとはギルド長サンタナさんのおもりである。


 因みに・・・元はAランクの冒険者だそうで、二つ名は「万策剣士ブレイン・トルーパー」と呼ばれていたそうだ。

 備えあれば憂いなしと言うが、それを突き詰めた戦いをするのがユリィタさんの戦闘スタイルだ。


 今は現役から退いて、「書類捌きの鬼」「効率の化身」「ギルド長の給士」と影で囁かられている。本人は気にしていないそうだが、ニッコリと微笑むその笑顔の奥に暗い一面を垣間見たことは墓場まで持っていこうと思う。


 そしてユリィタさん馬車から、もう一人危なげに降りて来たのは、二つの凶器を胸に引っ提げ、陽の光を反射させる程に輝かしい金髪を風に靡かせたエルフ・・・ミリエラだった。


 サテラはカナンにて留守番をしていて、物資の準備を進めている。街の衛兵と共に黒翼に不穏な動きがないかを探っている。


 ユキは・・・この通り、久々に俺を乗せて思いっきり走れたことに満足している。未だに俺に乗って欲しそうに顔を赤らめて、体をモジモジ、尻尾をフリフリしているが、努めて無視している。

 雪の様に白く、きめ細やかな肌に流麗な顔立ちを持った人型の姿から、フワフワとした白い毛並みの凛々しい狼の姿へと身を変えている。


「ここの森にユガ君の配下がいるんだよね?・・・迷ったりしないよね?」

「それに関しては大丈夫。キクとユキは鼻が利くし、何だか知らないけど俺もなんとなく配下達の位置が分かるし」

「魔族ってそんなものなの?不思議だねぇ、人間とはやっぱり違うんだね」


 フムフムと頷くアンネさんは、草原と森の境界線を右から左へと視線を向け見渡す。新しい商売の匂いはしないなぁ・・・とボソッと呟いたのを俺は聞き逃さなかった。林業にはあんまり興味がないみたいだ。


 ユリィタさんは腰に下げた、サーベルをジッと見つめ、感触を確かめるように柄の部分を握っている。

 なんでも、昔の感覚を思い起こしてるそうだ。


「聞いておきたいのですが、この森を縄張りにしていると聞き及びましたが、すべてを統一しているのでしょうか?」

「東西南部は一応縄張りにしてるとは思いますよ。大体俺の姿を見れば逃げたり、付いてきたりする魔物が大体ですしね」

「付いてきたりする魔物・・・配下ではないのですか?」

「配下ではないですね。なんていうか・・・怖がったり、仲間になりたいってのがあるんだと思う・・・たぶん」


 うん。東西南部に関しては、東西ではゴブリンとコボルド・・・つまりは、ショウゲツとコクヨウ達を配下に加えた事で、強い魔物はいなくなったし、こっちが強くなったおかげかオークの大群を倒してからは大体の魔物は姿を暗ます。

 南部に関しては姿を現さないか、仲間にして欲しそうな目でこちらを見る魔物ばかりだ。


 北部の方はオークキングの来襲以来、あまり足を運んでないし、東西南部に比べて魔物の強さは飛躍的に上昇し、個としての強さは勿論の事、集団としての狩りの狡猾さが非常に厄介だ。


「私は目の前に現れた者がユガ様の配下なのか分かりかねます。ですので、配下の方々が現れた時はお願い致します」

「あぁ、わかりました」

「主君・・・早く行こ」

「アルジ、背中に・・・」


 キクは俺の服の裾を引っ張り、森の中へと・・・いや、皆の下へと急かす様にして、眉根を下げている。

 やっぱりキクも久しぶりに皆に会いたいのだろう。寂しそうな顔をして居ることからして、やっぱりキクも子供なんだなぁと思ってしまう。

 ユキは人の形態へと戻り、モジモジとしながら真っ赤になっている。どうしたんだ?


「・・・ユリィタさん、アンネさん。えっとね、ユガ君は鈍感なのです」

「「あ、やっぱり」」


 後ろの方でミリエラとアンネさん、ユリィタさんがこちらをジトッと見つめ、何事かをボソボソと呟いている。な、なんだろう。


 そんなこんなで、俺達はゆっくりと森の中へと入っていった。

 馬車は境界線から外れた場所へと駐留している。五両の馬車は森の中に入るには大きすぎるし目立つ。それに、この人数では突然の奇襲を防ぐことが難しく、御者が殺され、馬車が壊される可能性が充分に考えられる。

 馬車は御者に任せて、俺、ユキ、キク、ミリエラ、アンネ、ユリィタさんでエルフの里へ向かっている。


「やっぱり変わらないなぁ」

「主君の縄張り・・・ユキ様方、コクヨウとショウゲツ達が守ってる・・・だから当然」

「アルジに逆らう魔物等ここいらにはいないでしょうけどね」


 ちらほらと魔物の気配は伺えるが、敵意や害意等がないのは分かる。

 こちらの姿を捉えた魔物達は、直ぐに距離を取って逃げ出すか、こちらに歩み寄ろうとしてキクやユキに細められた眼を向けられ、キャインキャインと逃げていく。犬か!


 地面という広大なキャンパスに、陽の光を遮る木々の葉っぱの影は刻一刻と変わりゆく絵を描く、そしてそんな自然が生み出した調和の採れた絵画に自分の足跡を描き足していく。

 それに四方から不規則に耳に届く色々な音を重ね合わせれば、それは一種のアートに変わってゆく。

 魔物が出現さえしなければこの森は、擦れた心を癒すにはもってこいの場所であるだろう。ヒーリングスポットといえばいいのだろうか?


「本当に魔物が出ないねぇ・・・。なんだか眠くなってきたよ」

「前はもっと魔物がいたんですけど、ユガ君やユキちゃん、キクちゃん達が頑張ってくれたおかげで平穏を保ってるんですよ」

「こう見ると、ギルドに届いた報告が信じられませんね。ユガ様のおかげ・・・なのでしょうが、やはり書類より自分の目で見るのが一番ということですね」


 そう言って、気楽な様子で周りの景色を楽しむ三人は、思い思いの会話を楽しみながらヒーリングスポットを満喫している。

 流石というのか、ユリィタさんは満喫しながらも周りに注意を払っていて、こちらに視線を向けてくる魔物に気づけば、腰のナイフを直ぐ様抜ける様に手を後ろへとやる。


 うん。後、もう一つ問題があるわけだ。

 よくある展開だよ。平穏な空気溢れる仲間との団欒を楽しんでいればやってくる。

 ふと息をついて、「やったか」なんて言葉を口にすれば、悲劇惨劇間違いなし。


 今の現状は、ヒーリングスポットもかくやというちょいと危険な森の中、気のしれた仲間達がワイワイと話し合っている・・・その内容も「平穏だねぇ」というTHE・フラグ。


 つまりは、状況と言葉選びを間違えてしまえば、どれだけ豊かで平穏な場所であっても一気に不穏な空気が漂い、閑散とした空気が呼び込まれる。

 そして、訪れるのは


「あぁ、俺の異世界ライフには平穏なんてやっぱり訪れないんだぁ・・・」

「・・・その様ですね」

「主君?ユキ様?一体何が・・・」

「全員、戦闘態勢!!数は・・・いっぱい!!」


 そう俺が叫ぶと同時に、キクは周囲の森を一瞥し、キクは両手を顔の前に構えを取る。ユリィタさんは腰からナイフを引き抜き、油断なく周囲を見渡している。

 アンネさんは流石貴族のご令嬢・・・立場上色々なモノから護衛されていた彼女はミリエラの手を引き、円形に並ぶ俺達の中心へと駆け込む。


 周囲掌握ハイパーサーチに引っ掛かったのは数えるのも面倒なくらいの敵意を持つ魔物。四方から恐ろしいスピードで迫って来ているのは分かっているが・・・場所が問題だ。

 その敵意を持った魔物は木の上を猛スピードで移動しながらこちらへと一直線に駆けつけているのだ。


「ディーレさん、この反応は・・・」

『えぇ、間違いなくこの森の魔物じゃないわね。唯、精霊達が騒いでない・・・むしろ楽しんでいるような気がするのよ』


 敵意を持った魔物が五十メートルを切った時、その名前があらわになる。




 大蜘蛛ジャイアントスパイダー LV:14


 称号

 隷属

 主従化


 HP:73

 MP:13

 STR:31

 VIT:29

 AGL:161 

 MGI:21

 LUC:6


 位階:なし


 LV上限:20


 スキル:糸吐き、忍び足、

 エクストラスキル:なし


 魔法:なし




 成る程。確かこれは北部に棲息している魔物で、リーダーを筆頭に群れでの襲撃を得意としかなり厄介な奴だ。

 とは言っても、精々が十匹単位での群れなはず。つまり、これは「ヌシ」が関与していることに間違いない。


 やがて、周りを完全に包囲された俺達の目の前に、木の上から赤い複眼を光らせた大量の蜘蛛が木の上から姿を現した。

 腹部から射出された糸は木の枝にくっついて、それからツーと降りてくる蜘蛛は地面に降り立つモノ、木に宙吊りになるモノ。木の枝にしがみついているモノと様々だ。


 そんな蜘蛛の包囲網の中、奥の方から一体の大蜘蛛が現れる。そして、周囲掌握ハイパーサーチがその大蜘蛛を捉えた時、俺はその蜘蛛に釘付けとなる。




 忍蜘蛛しのびぐも LV:3


 称号

 リーダー

 主従化


 HP:43

 MP:61

 STR:78

 VIT:16

 AGL:341 

 MGI:69

 LUC:12


 位階:F


 LV上限:20


 スキル:糸吐き、忍び足、忍術、斬糸

 エクストラスキル:なし


 魔法:なし

 忍術:土遁土蜘蛛、変化、変わり身




 なんともまぁ・・・忍術て・・・。

 俺の配下も大概、色の濃い魔物が多いけど・・・武士とか鬼とか。

 それでもまぁ、忍者が出るとは予想だにしなかったよ。日本人の俺でもびっくりの職業を携えた魔物が出てきちゃったよ。


 人間ならわかるさ・・・でもね、魔物が忍者ってどうなんだろう・・・。


 そう思いながら、目の前に出てきた忍蜘蛛しのびぐも・・・スパイダー忍者と目があった。そこで漸く気づいたが・・・こいつには理性がある。

 そこいらの魔物やオークキングのように、魔物の生来の本能に従っていない、理性の瞳をこのスパイダー忍者は備え持っている。


「えっと、言葉わかるよね?」

「・・・・・・・・・」

「アルジに返答しないなんてどういうつもりなの?」

「殺す」


 鋭利な刃物を向けられたようなさっきを込めた視線を放つユキに、構えた拳にユラユラと立ち昇る魔力を纏わせるキクは敵意を剥き出しにしてスパイダー忍者へと視線を向ける。


 ユリィタさんは、中央に控えるミリエラとアンネさんに注意を払っている様で、取り出したナイフは不意打ちに備えて投げる準備をしている。


 ミリエラは周りの精霊達に語りかけ、木と風の精霊を従えて「付与エンチャント魔法」の準備を行っている。


 俺といえば、直感が働いているのだろう。攻撃の手を出さず、殺意や敵意を振り撒かないようにしている。


「ユキ、キク静かに。・・・もう一度だけ聞く」


 ほんの僅かな殺気を込めて、告げる。


「俺の森で何をしている?」


 その言葉に、ザザザッと後ろに退しりぞいた大蜘蛛達の表情はどこか怯えたものとなり、体は小刻みに震えている・・・虫だからよくはわからないけど。


 俺達の一番近くに接近していたスパイダー忍者も同様に、身を縮こまらせ、その顔にある八つの複眼を大きく見開き、どこか涙ぐんでいる気さえする。

 頭部から生えた細長い八本の脚は、プルプルと震えており、今にもその脚を折ってひっくり返ってしまいそうだ。


「主君!!!」

「主人!!!」


 そうした状況の中、大量の蜘蛛の中・・・詳しく言えば、蜘蛛が犇めき合うユガ大森林の奥から走り出てきたのはコクヨウとショウゲツだった。

 ・・・そして、二人を観察してみよう。


 二人は急いでいるとは言え、スピードが早すぎる。俺の方に走ってくるのはいいけどこれは恐らくこれは、俺にダイブする位の勢いであるだろう。

 その観点から見るに、二人は・・・『競争』している。


 どちらがより早く俺に状況を報告できるかという、しょうもない競争であろう。


 で、俺は甘やかさない。

 俺にインパクトする瞬間、二人からは俺が消えた様に見えたのだろう。

 咄嗟に屈み、腕を突き上げ手中に納めたのはコクヨウとショウゲツの顔面。


「秘技『アイアンクロー』!!!」

「「アアアアアアアァァァァァァァァ・・・・・」」






 深緑と緑光に包まれた平穏な里。大樹を穿たれ作られた家屋が幾つも見受けられ、大樹から大樹へと掛けたられた吊り橋から漏れ出る陽の光は地上に居る俺達を歓迎する。


 吊り橋を走り回る子供達の姿・・・人族とは違い、耳を尖らせ、髪を森の色に染めた無邪気な顔をしたエルフの子供達だ。

 で、それを追っ掛けるようにして、額から短い角を生やし、体はゴツゴツとしていてどこをどう見ても強面である鬼達は、デレデレとした顔でエルフの子供を追っかけ回している。


 そうして、歩いていくと前方から掛け声が聴こえてくる。

 上空に広がる幻想的な風景とは違い、地上で行われていのは稽古・・・だろう。


 多くの大人のエルフ達が木刀を手に持ち、郎武犬の指導を下に鍛錬に勤しんでいる。魔法主体だったエルフ達もまぁまぁ様になっていることから、前の襲撃がかなり応えたのだろう。相当な鍛錬の結果が生まれている。


 そうこうしている内に、俺の姿を見つけた配下達が続々と集まる。エルフ達も慌ただしく地上へと向かい始める。


 静かだった里は一転して喧騒に包まれる。


 そして広がる大樹の中心・・・一番開けた場所へと歩みを進める。


「整列!!」


 そして俺は歩みを止める。

 エルフの里の中心地、広場に広がる光景はまさに圧巻という言葉が相応しいだろう。現に、後ろに続いてい歩みを進めていたアンネさんとユリィタさんは呆気に取られ、口をポッカリと開けている。


 訓練したのだろう種族別に別れて、綺麗な整列を整える俺の配下+エルフの人達。

 郎武犬の前に立つコクヨウを筆頭にした犬神達。鬼の前に立つショウゲツを筆頭にした大鬼達。族長様を筆頭に並ぶエルフの人達。

 そしてその前に立つのは姿勢を正したハルウ、ナーヴィ、モミジ。


 そして最前列に立っていたのはシロタエ。俺が不在の間、この集落の管理・運営はシロタエに一任したのだ。


 あ、因みに、こんな綺麗な整列を見せられて俺は若干引いてます。


「んじゃ、状況報告」

「はい。エルフの里開拓における管理・運営は順調に進んでいます。エルフの皆様も快く仕事を引き受けて頂いてます。私含め貴方様の配下につきましては相変わらずですが、エルフ達との交友は完璧です」


 シロタエはそこで一度言葉を切り、俺の後ろをちんまりと付いてくる大蜘蛛達・・・そして、部下を前に顔を背けるコクヨウとショウゲツを見やる。


「この里を大凡千匹の大蜘蛛ジャイアントスパイダーが強襲。中にヌシが存在し、かなりの損害を被りましたが、コトヒラのお陰で死傷者はゼロ。これを撃退することに成功」

「うん。で、後ろの大蜘蛛達は何?」

「・・・申し訳ございません。私の管理の至らぬところでございます。撃退した後に、残った大蜘蛛が投降。ヌシ級が二匹いたらしく、一匹は非戦闘を謳う大蜘蛛でして、数は100匹。現在、馬鹿ショウゲツ馬鹿コクヨウが半分ずつ従えております」


 まぁ、二人からは多方の事情は聞いている。

 ヨウキの一発で吹き飛んだ主力の後方から、白旗・・・もとい白糸を吐き出しながらも進み出たその大蜘蛛達。


 なんでも、言葉巧みに絆されて、仲間にする事に決めてしまったそうだ。


「・・・はぁ、まぁいいよ。許す」

「寛大な心に感謝致します」

「大蜘蛛達は以後、正式にコクヨウとショウゲツ達に管理を一任する」


 その言葉に深く礼しホッと安心したコクヨウとショウゲツに、シロタエは横目で睨みつけ、穏やかではない闘気を放ち始める。勿論、コクヨウとショウゲツは小さくなってしまっている。


「さて、遠征に出ている俺達だが問題が起こった。実は・・・」


 事の詳細を全て伝え終わると、配下達の目に危険な光が宿る。

 郎武犬は武器の鯉口を切り、硬い音を辺りに響かせる。鬼達は己の拳を手のひらに打ち付けパンッという音を響かせる。


 エルフ達は遠征から除外しているが、自分たちにもなにかできないかと早速話し合っている。


「準備を始めてくれ。すまないが余り多くの人員は連れていけない。今回はハルウ、コクヨウ、ショウゲツ達を連れて行く。他の皆はこの里をも守ってくれ」


 そう告げると同時、エルフ達は話し合いを始め、鬼と郎武犬は悔しそうにしていたが、コクヨウ達とショウゲツ達はシロタエを中心に話し合いを始めている。


 そして一刻の後・・・俺達はユガの森を出立した。



 ・・・ -------------------------------------------------



 てなわけで今に至る。

 出立に際して、ショウゲツとコクヨウが大蜘蛛を連れて行って欲しいと懇願したり、少しハプニングはあったものの順調に進んでいる。


 ユリィタさんはギルド長に報告に行き、アンネさんはこの街に留まって貴族の権力に物を言わせて、情報収集の協力をしてくれている。


 忍蜘蛛は今回の依頼が終わった後に、正式に名前をつけてあげようと思う。


 そろそろ、『どうしてこうなった』に慣れつつある俺に辟易しながらも、俺の前へと集まった配下を見回した。


 あぁ、言い忘れていた。

 ユガ大森林を出立する際に、俺達は結成したのだ。


『ユルバーレ傭兵団』を。

森の部分ですが、あまり密に語っていないのは仕様です!!

『幕間』として蜘蛛視点、ユリィタ視点として追々語っていこうかと思います!!


何か変なところ、見にくい、誤字だ!などがあればどしどし教えて頂けると嬉しいです。

(言い換えでこういうのがありますよなどが合ったら教えてください。例:取得→習得、思いやる→慮る、聞こえる→耳に届くなど)


感想や活動報告の方にコメント頂けると私の気力になりますので気軽にどうぞ!!


※活動報告がどうやったら見れるのかわからなかったと読者様から聞き及びました。

方法は一番上にある?「作者:砂漠谷」の名前を押していただくと、私は左上に出てきました。


わからないことがございましたら、どんな些細なことでも構いませんので質問送ってください!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ