私の家族は最高です!
猫が好きだ。
あの目、あの口、あのヒゲ、あの尻尾、語り始めたら止まらない。友人達に「猫限定の変態」と認識されるほど、私は猫が好きだ。
我が家の愛猫が眠っている姿を、慈愛に満ちた目で見守り(周りから見たら、今にも猫に襲い掛かりそうなヤバい顔で見ているらしい。)
また、ある時は欠伸をする愛猫の口に指を突っ込み匂いを嗅ぎ(家族が本気で嫌な顔で見てくる。)
また、ある時は愛猫が油断している隙に、お腹に顔を埋めスーハーしたり(猫パンチされる前に華麗に逃げる。)
猫の為に働き、猫の為に貢ぐ。
家族や友人に白い目で見られても、私は猫を愛でる。
それが私、崎島 望美の生き甲斐だった。
私を魅了する可愛い猫。愛しても愛し足りない存在。
「生まれ変わったら猫になりたいなぁ〜。」
そう思っていた時期が私にもありました。
独り身のまま寂しく死んだ前世の私よ…。
目覚めた先で、長年の夢が叶うから安心して成仏して欲しい。
柔らかい温もりに包まれ、暗闇から目を覚ます。
にゃ〜。みにゃ〜。
私が目覚めた事に気付いたもふもふの愛しい子猫が、可愛い鳴き声で擦り寄ってくる。白、黒、茶トラ…まだまだ幼い子猫達。
あぁ、今死んでも悔いはない。
こんなに身近に温もりを感じられるなんて…!
もふもふに包まれて呼吸が苦しくても、幸せ…!!
「こら、お前達の重みで、リアナが潰れてしまうから少し離れなさい。」
幸せな重みがなくなると、ソッと抱き上げられた。
自分よりも何倍も大きな腕の中。
見上げた先には、まだ二十代前半らしい青年がいた。
淡い金色の髪に、優しげな琥珀色の瞳。
甘い顔立ちの青年は、笑うと年齢よりも幼く見える。
だが、私には通用しないのだ…!
もふもふ達から引き離された恨みを爪に込める。
私の抗議が伝わったのか、彼は寂しそうに私を下ろした。
「はいはい、リアナは父親よりも兄弟達の方が好きなんだよな…。少し切ないよ。」
切ないと言う気持ちは本当なのだろう、彼の頭上の白い耳もショボンとなっている。
そう、耳なのです。
ちなみに私にも、彼と同じ白い耳がついています。
尻尾も白です。すぐに絡まるけど、ふわふわの長い毛が自慢です。同じ白猫だけど父の毛は短めなのだ。
はい!ここに注目!!
生まれ変わったら猫の獣人でした!!
よしきた!神様ありがとう!そんな気持ちで声をだしたら、自分の口から「にゃにゃ〜!」ってでた時は、思わず尻尾がふくらみました。
崎島 望美としての人生は終わったけれど、リアナとしての人生はこれからです!
獣人は生まれて数週間で人型になれるみたいで、私以外の兄弟達は普段は人型になってるの。
優しい兄弟達は、末っ子の私がまだ人型になれないので、一緒に遊んでくれる時は猫の姿になってくれるんだよね。
そろそろ私も人型になれるはず!
両親に教えられなくても、自然に人型のなり方は知っている。
最近は人型になれそうで、なれない毎日だったけど、今日こそはなってみせる!!
まずは、心を落ち着かせて。
頭の先から足の先まで集中する。
初めて人型になる子供達は、集中するまで時間がかかり何度かモゾモゾとしてしまうのだ。
その姿が周りから見たら微笑ましく感じるのは、兄弟達の時で私も見てきた。すごく可愛かった。
その姿を思い出しながら、ピーンと尻尾を立てる。
ジワジワと体が熱くなってくるのを感じる。
猫の輪郭がぼやけ、徐々に人の姿に近づいていく。
今日こそ成功しそう…!!
興奮して思わず「ふみゃ!」っと叫んでしまった。
その声で、誰にも見られない様に部屋の隅っこにいた私に気付いた父親が、驚いた顔をして走ってくる。
走り寄る父に慌てながらも、集中を途切らせない様にする。何とか体の熱が落ち着いた頃、私は人型になっていた。まだ3歳くらいだろうか?尻尾でバランスをとりながら立つ。
「セシリア…!すぐにおいで!リアナが…リアナが大人に近づいたぞ!!」
裸の私に自分の上着を着せながら、父が台所にいる母を呼び寄せる。
ガシャーン!っと鍋が落ちる音と同時に、ビクッと驚いた私を父が宥めていると、母が走ってきた。
「ロキアス本当なの?リアナ…!まぁ、何て可愛らしいの…!!貴方達も来なさい。妹が大人に近づいたわよ!」
母は、父から私を奪い取る様に抱きしめてきた。
母のセシリア。
ふわふわの長い毛が特徴の黒猫で、父のロキアスと同じ年齢みたい。私の尻尾のふわふわは母譲りなの。
燃える様な赤髪に薄桃色の瞳。
父より大人っぽく見えるのが、すこしコンプレックスみたい。
両親の大声で、慌てて人型になった兄弟達に揉みくちゃにされた。
「にーちゃ、苦し…!」
砂糖菓子の様な甘い声が部屋に響く。
「…っ!ごめん!リアナが可愛くて…!」
「アスランは乱暴なんだよ。リアナ大丈夫?」
「2人ともズルい!俺もリアナ抱っこしたい!」
上から長男のアスラン。
猫の時は母と同じ黒猫で、人型の時は母譲りの赤髪に焦げ茶の瞳。少し暴れん坊だけど、力持ちで頼りになるの。
真ん中は次男のルーチェ。
父と同じ白猫で、人型の時は、父譲りの淡い金髪に蜂蜜色の瞳。すごく物知りで、質問したら何でも答えてくれるの。
最後が三男のファリス。
猫の時は家族で唯一の茶トラで、人型の時は金髪に父譲りの琥珀の瞳。
甘えん坊で泣き虫だけど、三兄弟の中で1番私に優しいの。
「リアナ、顔を見せてちょうだい?髪は…父様に似たのね。瞳は…まぁ!私に似てくれた!嬉しいわ!ほら、ロキアス見てちょうだい!」
「あぁ!何て可愛らしいんだ…。アスラン達の時も可愛かったけれど、リアナは花の様な可憐さだ!女の子はこんなに可愛らしいものなんだね。」
両親の褒め言葉に照れてしまう。
私の事で心から喜んでくれる両親が大好きだ。
「とーしゃ、かーしゃ、ありあとー。」
まだ上手く喋れなくて、顔が赤くなってしまう。
恥ずかしくて俯くと、皆の足が見えた。
落ち着く為に、ジーッと足を見てしまう。
しばらくして静まり返った家族に不安になり、ゆっくりと顔を上げると…もじもじしている私を見て、悶える家族の姿があった。
前世の家族と友人よ。
君達が言っていた事がわかったよ…。
確かに、ヤバい…。前世の愛猫がいたら謝りたくなった。これは怖かっただろう…と。
大人に近付いた記念に、瞳と同じ薄桃色のリボンを貰った。幅の広いリボンを髪に結ぶと、気分は不思議の国のアリスになれるの。
今ではリボンがトレードマークで、近所でも「リボンのお嬢さん」って呼ばれたりするのよ。
猫が好きな私が、生まれ変わったら猫の獣人になっていた。長年の夢が叶って幸せに暮らしていた私は、知らなかった。
自慢のふわふわ尻尾によって、運命の相手と出会ってしまう事を…。