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漆黒の暗殺者と人形姫

冒頭にちょっとだけ出てくるアークノルヴェ王国次期国王がセレシアです。

このお話というかこの国やちょっとしたフラグ?仕込み?を出さないと次のメインストーリーが仕込めなかったのでお待たせしました。

このシリーズちょっと長めの設定つめつめみたいな感じのお話なので、頑張っていつか完結までもっていきたいです。

アークノルヴェ王国の隣にある、とてもとても小さな国。その国の名はシルディニアス王国。

その国には、12歳になる一人の姫がいた。キラキラと輝く美しい銀色の髪を靡かせ、透き通った空色の瞳を持つ、とてもとても美しいーー「人形姫」ーーが。


***


深夜のシルディニアス王宮のとある一室で、その国の姫は窓から月を眺めていた。

ティアノーラ・リディ・シルディニアス。それが彼女の名前だ。


「…ふぅ」


疲れました。足がヒリヒリします。今日は近隣国の王族や貴族たちがこの国に集まり、わたくしの誕生日を祝うパーティーがありました。こんな小国に来る方はあまりいないだろうと思いましたが、まさかアークノルヴェの時期国王が来るとは思いませんでした。たしかお歳は14歳でしたっけ…。いえ、でもたしか一ヶ月後くらいには戴冠式があったはずでしたので、15歳になるのですね。私の3つ上ですか…。綺麗な方でした。笑った顔がとても魅力的で少しドキドキしてしまいましたが、顔に出してはいないと思います。


とても生きる気力に満ち溢れた方でしたね。誰が言ったのか忘れましたが、彼女に王となったらなにをしたい?と聞き、彼女は決意を秘めた目で答えていました。


『私は王となり、民や皆がいつも笑っていられる国を作っていきたいのです』


どうしてでしょうか、私にはわかりません。あの方と私。年齢は違うけれど、時期国王として同じ立場にいるのに、私は国王なんかにならず、もう死んでしまいたいと思っているのです。理由は特にありません。ただ、疲れてしまったのかもしれません。強くなれ、感情を見せるな、ほかにも色々と周りの方々は私に言います。


「たったひとりの後継者」


お父様には幾人かの妃がおりますが、無事にここまで生きて育ったのは私だけ。生まれる前に、または生まれても名前さえ授けられずに、儚く散っていった姿も知らぬ兄弟たち…。私以外の兄弟たちには共通点がある。それが男子だったこと。女として生まれてきた私だからこそ、ここまで生かされてきたのかもしれない。


物心ついてから、片手で数えれるほどくらいしかお会いしたことがないお父様。お母様は病に臥せっており、毎日お見舞いに行くのですがうわごとのように「あの女が!!」「会いたい…どうしていつも私のことを…」と言っています。会いに行くたびにいない子のように、たまに憎らし気に見られるのにも疲れてしまいましたが、お母様が早く元気になってくれたらと思います。


話が変わってしまいましたね。とにかく、私は死にたいと思っているのです。ですが、この部屋の窓から落ちたら絶対に痛いですよね…。ナイフなどで自分を刺すのも痛そうで想像だけでゾワゾワします。死のうと考えては思い直しての繰り返しです。私は意気地なしなのです。誰かこんな私を、安心安全まったく痛くないよ!な感じでさくっと殺してくれないでしょうか…。


そんなことを真剣に考えていると、部屋にふわっと冷たい風が吹きました。窓は閉まっていたはずですが…。確認しようと振り返ると、全身を黒でまとった人が月を背に立っていました。


「こんな時間に起きているとは予想外だったが…」


声からして、たぶんですが若い男の人のようです。誰だかわかりませんが、一つ気になることがあります。


「あの、ここは塔の最上階なのですが、どうやってこられたのでしょうか…?」

「ああ、登ってきた」

「そう、ですか…」


え、登ってきたとおっしゃいましたよね?今、私の頭の中では目の前のこの人がえっちらおっちらと城の外壁を登っている姿が浮かんできました。


「ティアノーラ・リディ・シルディニアスだな」

「そう、ですが…そういえば、あなたはどなたですか?どうしてここへ?」


彼は私の質問に答えず、ゆっくりとこちらへ歩きだした。右手にはいつの間にか鋭く光るナイフを握っており、私はここでやっと彼の目的に気づきました。


「ーーティアノーラ・リディ・シルディニアス…俺はお前を、殺しにきた」


鋭いナイフが月の光に反射し、男の赤い、まるで血のような目が私を射抜く。



(あ、殺される…)



「ちょっと待ってください」


私はその赤い瞳をじっと見つめながら右手のひらを暗殺者に向けました。


「なんだ」


あ、待ってくださるのですね。意外です。問答無用で刺されるのかと。


「私、実は痛いの嫌いなんです。なのでナイフや剣、銃などで殺されるのはお断りします。薬による安楽死、もしくは痛みも何もなく自分が死んだとわからないような殺し方を所望します」


そう。私は、本当に痛いことが大嫌いなんです。昔、不注意で何のないところで転んで膝を擦りむいたことがありますが、あれはとても嫌なものですね。じんじんじわじわと、ずっと痛みが続くような感覚…。まるで自身が針に突っつかれているような気分になりました。それ以来、私は怪我をするということにとても敏感になり、怪我をしないよう慎重に生活してきました。刃物で刺されたら絶対にあれより痛いですもん。いやすぎます。


「ですので、痛くない殺し方にしてください」


「…」


おや、黙ってしまいました。怒ってしまったんですかね?この沈黙、とてもドキドキします。暗殺者は顎に手をやり、首を傾げながら考える仕草をし、こちらを見ました。


「俺は今現在、お前を楽に殺せそうな薬は持っていない」


「でしたら…」


暗殺はまたの機会に…と続けようとした私ですが、彼がナイフをちらりと見て言います。


「だが、俺は依頼され、お前を殺すために来た。できるだけ痛い思いはさせないように配慮するから、ナイフ(これ)で殺しても…」


「嫌です」


「…」


「い・や・で・す!」


本当はこの暗殺者にいつ殺されてもおかしくないと言うのに、私はなぜこんなにも強気に…。私が否定をするたびに暗殺者の彼は無表情ながらも周りの雰囲気?がゆっくりとしょげていき…。


「そうか…」




きゅんっ。




……?何でしょうこの気持ちは。この人は暗殺者ですのに、少ししゅんっとした姿がわんこのように見えてきてしまいました。




「…似ているのは目の色だけか。あの男とは、似ても似つかぬ娘だな」



私が原因不明のきゅんきゅんに悩んでいるとき、彼はボソッと何かを呟いていたことに、私は気がつきませんでした。


「何かおっしゃいましたか?」

「いや、何でもない」


暗殺者はそういった後、腕を組んだまま動かなくなりました。何か考え事をしているのでしょうか?私の殺し方…あ。


「あの、私を殺すように依頼されたって、どなたにですか…?」

「それは言えん」


あ、やっぱり。そうですよね。逆にここで教えてもらえたらびっくりしちゃいます。


「でしたら、報酬はなんでしょう?」

「それは言える。金だ」

「でしたら、私がその依頼主の倍のお金を払うので、次回に回すということにしてくださいませんか…?」

「次回…?」

「はい、次回です。痛くない方法を探してから出直してきてください」

「…なるほどな。まぁ、いいだろう」


え、本当にいいんですか?この人暗殺者なんですよね?


「じゃあ、ちょっとまっててくださいね!いきなり後ろからグサとかもだめですよ!」

「…わかった」


返事が遅かったのが少し気になりますが、まあいいでしょう。

何かあった時のためにのドレッサーの奥のほうにこっそり貯めていたお金。痛くないことのためなら惜し…くはありません!


「ちょっと待っていてください。確か、この辺りに…あ」


ころりと、小さな丸いものが地面に落ちた。拾ってみると、それは少し汚れている黒い宝石がついた指輪だった。


「これは…」


男は目を見張り、じっと私の手の中にある指輪を見つめた。


「この指輪ですか?確か、昔お母様が誰かからもらったものだと聞いています」


昔、お母様付きの年嵩のメイドが教えてくれた。お母様が小さいときに姉のように慕っていた方からいただいたものだと。

けれど今はもう見るたびにお母様の癇癪がひどくなるようで見えないところにしまったと聞いていましたが、ここにあったのですね…。


「…報酬はこれでいい」

「え?」

「金ではなく、これをくれ」

「え、私はいいですが…本当によろしいのですか?」

「ああ」


そうして彼はうなずいて指輪をポケットに入れると、来た時と同じように窓から帰って行った。


「変な人…」









ー3年後ー







あと数日で私の15歳の誕生日。


「次期国王、か」


この3年の間に何番目かの妃に女の子が生まれ、その子供を時期王位継承者にしたいがために私を殺そうとしていると噂がありましたが、なにかしら起こりそうで少し怖いですね。


そんなことを考えていたからでしょうか。いきなり窓が開き、全身黒づくめの、いかにもな暗殺者が現れたのは。

何らかの液体が塗ってあるナイフ…いや、あれは毒ですね。紫色でいかにも毒ですね。刺されて毒で苦しんで死ぬ、と…。

五体満足に生きられないことは覚悟していましたが、ここまでのようですね。

なぜだかその時ふと、あの時の暗殺者さん思い出しました。結局あの日から一度もこなかったな…。

変に真面目そうだったので痛くない殺し方とか探してくれていたりして。

なんて、ね…。


そんなことを思い返していると、ついに暗殺者が私に向かってナイフを振り下ろした。


「あぁ、やっぱり…痛いのは、いや、ですねぇ…」


あきらめ、痛みを覚悟して目を瞑りました。




……?



おかしいです。痛みが一向に来ないです。まさかあの液体、痛みをなくす効果のある毒だったのでは?それはいいですね理想の終わり方かもしれません。


死んだら私、一つの夢があるんです。もし、もし物語みたいに生まれ変わりがあるというならば、普通にのびのびと自由に、今度は普通の女の子として生きられますように。


「…い」


何か声が聞こえますが気のせいでしょう。私は死んだんです。この通り、息もしていないです。けれどなぜだか少し息苦しいような…。


「おい、おきろ」

「ぐっ…げほっ、ごほっ!!」


いきなりお腹のあたりに衝撃が走りました。

咳のせいで息がしずらいです。苦しい。うっすら涙がにじんできましたよ。

ゆっくりと目を開けると、そこには全身真っ黒な服を着たあの時の暗殺者さんがいました。


「あなた…は、あのときの…」

「切られてもいないし何もないのに息を止めているから、何事かと思った」

「え……あーと、どうして、ここにいるのですか?」

「お前が望んだのだろう」

「私が?」

「やっと苦痛もなく、まるで眠るように死ねる薬を手に入れてきた。これでどうだ」

「…」


え、今更?もう3年ほど経っていますが?あの時に言ったこと本気にして探してくれていたんですか?

なぜでしょう。あの時よりも心臓がきゅんきゅんしています。

彼の後ろに転がっている最初に来た暗殺者が倒れているのは見えていないですよ。

血が床に大量に出ているのも見えていないですからね。


「ほら、飲め」

「え、ちょ、まっ」

「どうした、飲まないのか」

「今すぐにですか!?ちょっと待ってくださ」


そんなやりとりをしていると、床に倒れ死んだと思っていた暗殺者が私たちに襲い掛かりました。

彼は私を床に放り出すと暗殺者の攻撃を避けて、自身が持っていたナイフで相手を切り裂き…。


「あ」


その一声とともに、真っ赤な血しぶきが私に降り注ぎました。


「…」


暗殺者は死に、彼と私は無言で目線でのやり取りをし「すまない」と彼から謝罪をいただきました。

お気に入りのドレスだったんですけどね…。しかもさっきの騒動で彼が持ってきてくれた毒が床にこぼれて台無しになってしまいました。せっかくの毒が…。


「これもまた運命、か」


彼が何事かしゃべったかと思ったら私の腕を取り、そのままひょい、と荷物でも運ぶようように肩に担ぎあげられました。え?


「よし、行くぞ」

「ちょっと。ちょっと待ってください。何ですかどこに行くんですか説明をしてくださいちょっと」


彼は不思議そうな顔で私と目線を合わせると、ゆっくりと窓際に歩きながら言いました。


「とある人物からの依頼でお前を生かすことになった」

「え、でもさっき毒をのませようとして」

「飲んで死んだらそれでよし、もし飲まず生きていたらそのまま生かせ、と」

「なん、ですかその依頼。どなたが私に生きよと」

「言えん」

「…」

「だから俺はお前を死なぬよう、死ぬ気が起きないよう監視することにした」

「は?」


彼が窓枠に片足を乗せた。ちょっと待ってください。すごく嫌な予感がします。


「俺は仕事でいくつかの国を回っている。その最中、家をあけっぱなしにしているんだが、すぐに埃はたまり、小動物が住み着いたりしていてな。それが面倒だから世話をしてくれる誰かが欲しいと思っていた」

「ねえ、待ってください嫌な予感がするのですけども」

「だからあいつの依頼はちょうどよかった」

「聞いてますかお願いですから会話してください」

「お前が死ぬ前にお前の願いを叶えて痛みなく殺してやる」


「だから俺とともに来い」


彼がそう言った瞬間、窓の外に身を投げ。一瞬の浮遊感、のち、大絶叫。


「いやああああああああああああぁぁぁあっぁぁあぁああああああああ!!!!!!」


後に彼女は語る。今日この日この時が人生で一番、心の底から出た声だったと。





その後シルディニアス王国にて、人形姫が暗殺されたとの発表があった。部屋の中は血しぶきが飛び散り、彼女のとんでもない悲鳴が城中に響き渡ったことから死んだのは確実だろうとされた。これでこの国の後継者はいなくなり、少しの混乱がもたらされた。え、妃の子供ですか?あの後普通に病気にかかって死んでしまったようです。もしかしたらこの国は呪われているんじゃないですかね…。

人形姫を殺したと思われる暗殺者「死神」は数日後、隣国にて存在を確認されたがすぐに姿を消した。

その後も存在を現さないことから死亡したと囁かれているが、はたして…。



そして舞台はセレシアがいなくなってから12年後。アークノルヴェ王国のとある場所から始まるーー。


ーーーーーーーーーーーいつかの小話ーーーーーーーーーーーーー


「あの、死神さんは、兄弟はいるのですか?」

「…なぜだ?」

「いえ、ただ、なんとなくなのですが…もし私にお兄様がいらっしゃったら、こんな感じなのだろうかと…」


「姉がひとり…いる。とても美しく不器用な姉が、な」


「貴方は、そのお姉様がお好きなのですね」

「好き…か。どうだろうな。あるいはただの…」

「…?」

「いや…なんでもない。忘れてくれ」

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