初めての都会デート(百合ではない)-5
「おい」
大きく息を吸い込んで、いざ罵詈雑言を浴びせようとしたところで、不意にナンパ男達の更に後ろから声が聞こえ二人の肩に手が置かれる。
まさか、こいつらの仲間?二人くらいなら何とかなると思っていたが、これ以上増えると非常に厄介だ。
しかし、それにしてはどこかで聞いたことのある声だった。どこかどころか、ほぼ毎日聞いているような…。
「あ!? 何だよ!? こっちは忙し…」
男のこの反応から見るに、こいつらの仲間ではないようだ。威圧的な声をかけてきた声の主の方を見ると、その文句は止まる。
その視線の先に私も目を向けると…
「あぁ? うちの生徒に手ぇ出しといて何ほざいてんだ? 流石にそれは上等すぎんぞ、マジで」
そこには、金髪がよく似合う見慣れた女性が。身長は高く、睨みをきかせたその瞳は見るもの全てを恐怖へと陥れる。
「さ、西園寺先生…ですか?」
「おう、日向。たまたま原宿歩いてたらお前ら見かけてな。…で、こいつらどうすればいい?」
彼女は、私達が通う学校の先生。そして私達の頼れるクラスの担任の先生だ。
ナンパ男二人の肩に置かれた手には相当な力が入れられており、メキメキという音が聞こえてきそうな程だ。うわぁ、痛そう…。
「ぐっ…てめぇ、邪魔すんなよ!! せっかくあの可愛い娘と遊べそうだったのに!!」
「おいおい、二回言わせるなよ。私の生徒に手ぇ出すとかどういう了見なんだ、おい。マジで殺すぞ?」
一回目に発した言葉よりも更に威圧感の込められた声。その声だけで人を殺しそうだ。いや、本当怖い。当事者でもないのに。
当事者なら尚のことのようで、先生のその声を聞いた彼らは恐怖に震えている。「あ、やべ死んだ」みたいな顔をしている。気付けば掴まれた手も離されている。
何が怖いって、一切の妥協が存在しないのが怖い。少しでも逆らったらそれこそ本当に殺されかねないと思ってしまう程の絶対的な圧力。
「…分かったか? 分かったならとっとと消えろ。二度とこんな真似すんじゃねぇぞ…?」
「「は、はいぃぃぃ!!! すいませんでしたぁぁ!!」」
先生の止めの言葉によって、ナンパ男×2は一目散に逃げ出す。
…あぁ、なんというか悪役が逃げ出す時ってこんな感じなんでしょうね…。
ナンパ男達が逃げ去ったのを見て、手をパンパン叩きながら一息吐く西園寺先生。そうして、少しした後に私達に向けられた顔は凄く穏やかだった。
「大丈夫か、お前ら? ったく、原宿はこういうの多いんだから気を付けろよ」
言葉こそ凄くぶっきらぼうではあるが、本当に私達の事を心配していてくれたのだと分かる。前々から思ってましたけど、やっぱりいい先生ですね、この人…。
「ありがとうございます、西園寺先生…」
「生徒を助けるのが先生の役目だからな。んじゃ、私行くから気を付けるんだぞ、日向」
凄く格好いいことを言って、踵を返して原宿の街へと消えていく西園寺先生。え、なにこの人超イケメンなんですけど。下手したら惚れますよこれ。
しかし、隣に小雪さんがいるのにどうして西園寺先生は私の名前しか呼ばなかったのだろうと思っていると…
「あ、あれ…? いなくなってる…」
隣に見えたのは、まだ少しだけ震えている彼女の姿が。目にはいっぱいの涙を溜めており、顔は凄く赤い。
…うん、これだと本当に誰だか分かりませんね。いや、本当誰だよ。




