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プロローグ 気弱な社畜はゲームの悪役モブに同情する

新作を書き始めました。


「はぁ、あのクソ上司の奴っ!」


 自室に入った瞬間、俺はベッドに荷物を投げ捨てながら悪態をつく。

 深夜1時、既に日が変わっている時間なので、多少は声を抑えてはいる。

 家賃6万円のワンルームなので、隣人がいるからだ。


「毎日毎日ありがたいお説教を言いやがってよぉ」


 脳内にいやらしい笑みを浮かべる頭の寂しい上司の顔が思い浮かぶ。

 もちろん、性的な意味ではない。

 反撃できないのを良いことに下の者を虐げているのだ。

 もちろん、その対象は俺である。


「あぁ、ストレス発散でもするか」


 スーツを脱いで部屋着に着替え、冷蔵庫からビールを取り出す。

 パソコンを起動し、ゲームを開始する。


【ブレイブ グロウス ファンタジア】──通称【BGF】。


 剣と魔法のある世界の王道学園ファンタジーゲームである。

 勇者となる素質を持った主人公が王侯貴族も通う王立学院に入学し、そこで様々な試練をクリアし、世界を脅かす魔王を打ち倒すのがメインのストーリーだ。

 ルックスは爽やかなイケメンであり、可愛らしいヒロインからも人気なのだ。


「まあ、俺と正反対だよな」


 思わず独りごちてしまう。

 今の俺はアラサーのしがない会社員である。

 若い頃に筋トレをしたおかげでガタイは良いが、元々が強気ではない性格だった。

 反論しない俺に目をつけ、意地の悪い上司はストレスのはけ口にしてくるのだ。

 まあ、これは言い返せない俺も悪いか・・・・・・


『これで俺の勝ちだっ!』

『ぶひぃっ⁉ そ、そんな・・・・・・』


 ゲームのストーリーを進めていき、第1章のボスを撃破する。

 意地の悪そうな顔で豚のように丸々と太った男である。

 下の者には偉そうに命令し、上の者にはヘコヘコ下手に出る。

 俺にとってはまさに部長のような存在だった。

 ポール=ヴァイス侯爵令息──ポークという愛称で呼ばれる作中屈指の嫌われキャラである。

 ちなみに、あまりにも嫌らしい顔のせいでN○R系の1○禁同人の男役に抜擢された回数がトップである。


『ポールの奴がやられたみたいだな』

『まあ、身分だけが取り柄の糞野郎だからな』

『邪魔者にお灸を据えたのは○○(主人公)のお手柄だな』


 後に敵として戦うキャラクターたちもポークに対して馬鹿にしたような発言をする。

 敵どころか味方にまでこんな扱いを受けるのは可哀想なキャラである。

 しかし、悲しい運命はそれだけに留まらなかった。

 学園編で戦う他の敵キャラは主人公との戦いのあとに味方側に回るのだが、彼だけは味方にはならなかった。

 むしろラスボスの魔王側に寝返り、人類の敵にまでなってしまうのだ。

 しかも、悲しいことに魔王側でも見下され、小間使いのように扱われ、最終的に命を落としてしまうのだ。


「見た目は違えど、俺の立場に近いのかな」


 やられたポークを見て、思わず同情してしまう。

 貴族として偉そうに振る舞うのは同情できないが、上の者に良いように扱われ、切り捨てられる姿は他人事に思えなかった。

 おそらく今のままなら俺も何かあれば切り捨てられる運命なのだろう。


「転職でもしようか? でも、何か変わらないと、ポークみたいな運命を辿るよな」


 ある意味、魔王側に寝返ったのも転職の一種だろう。

 だが、その結果があの結末なわけだ。

 自業自得とはいえ、可哀想な気もする。


「なくなったか・・・・・・もう一本飲むか」


 缶の中身がなくなったので、冷蔵庫に取りに向かう。

 まだまだストレスは発散できていなかった。


(ズルッ)

「えっ⁉」


 床に落ちていた洗濯物を踏んでしまい、そのまま体勢を崩してしまう。

 フワッと身体が浮いたように感じた。

 だが、それはすぐに終わってしまう。


(ガンッ)

「がっ」


 後頭部から机の角にぶつかった。

 激痛と共になにか生暖かいものが流れているのを感じた。

 しかし、それがなにか確認することはできなかった。

 床に倒れた俺は身体をまったく動かせず、徐々に視界が暗くなってきた。


「(おいおい、これが最期かよ・・・・・・)」


 薄れゆく意識の中、思わずそんなことを考えてしまった。

 視界の先にはパソコンの画面が移っていた。

 そこには主人公にやられ、倒れているポークの姿があった。

 まさに今の俺のような姿だった。


「(はぁ・・・・・・来世があるなら、もっと良い人生が良いな)」


 そんなことを思いながら、視界の全てが真っ暗になった。

 俺の今世はこれで終了した。







作者のやる気につながるので、読んでくださった方は是非とも評価やブックマークをお願いします。

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