主人公くん、核心に触れる
明上さんが教室に来た日はひどい目に合った。カースシーカーとくっつくのはやばいぞ!って本気で心配してきた人もいるぐらいだし。
……結局のところ、僕たちは明上さんと打ち解けたいんだと思うけどその取っ掛かりを失ってる。希沙さんも琴塚さんも、僕以上に明上さんと仲がいいわけではないし。
気は進まないけど、椎柴さんの言ってた原口という人に連絡を取った方がいいのかもしれない。
がらがら、とチームの部屋の扉を開けた。
「やっほー、篠崎くん」
なぜか、希沙さんが琴塚さんに抱きついている。
琴塚さんは煩わしいとばかりに、ため息をついている。
「ねえ、篠崎渚。これをなんとかしてくれないかしら?」
「えー、嫌なの?」
「暑苦しいわ」
この二人も結構仲良くなったみたいだ。希沙さんが泣いてたところを琴塚さんが抱き締めた影響なのかな。
……こうしてみると、こんな感じで明上さんに抱きつかれてたのおかしいよね普通に。
「二人とも仲良しだね」
「そうだよー」
「違うわ」
否定するけど、琴塚さんも別に嫌がってるという風ではない。単純に暑くて邪魔、みたいな感じというか。
そういえば、明上さんは来てないんだろうか。
室内を見ると、ボーッと虚空を眺めている明上さんがいた。
明上さんの隣の席に座る。
「んー、渚くん来てたんだ」
虚ろな目がこちらを向く。
……どうかしたのかな。
「明上さん、元気ないね」
「……そうかな」
「何かあったの?」
「んー、何もないけど」
と、言いながらスッと手を差し出してきた。
えっと、何か渡して欲しいものでもあるってことかな。
いや、渡さないといけないものはなかったような気がするけど。
「手握って」
弱々しくそう言うものだから、それぐらいいいかなとその手を握った。
「ありがと」
ポツリと呟いた後、明上さんは黙り込んだ。何かあって、弱ってるんだろうか。
「明上さん、本当に大丈夫?」
「……うん、ちょっと渚くんと離れるとこういうものもある、みたいな?」
普段だと、冗談だなと思うけど、この調子だと本気で言ってる?
……もしそうなら、意味がよくわからないけど。
握った手から熱が伝わる。滑らかな肌の感触がするり、と僕の手を抜けた。
「なんか、センチメンタルになっちゃった。今日はこれでもう帰るよ」
力なく笑うと、明上さんはそのまま部屋を出ていってしまう。
「明上ユーリ、今日は様子が変ね」
「そうだね、いつもならもっと勢いよく篠崎くんに引っ付いてるのに」
琴塚さんはもう希沙さんに引っ付かれてるのを諦めたみたいで、そのまま本を開いている。
にしても、元気がないのは休日に何かあったのかな。……本当に僕と会ってないから、なんてことはないと思うんだけど。
そういえば、原口さんの話をしてなかったな。
「そういえば、椎柴さんが言ってたんだけど――」
だから、一応二人に共有してみることにした。たまたま、明上さんもいないタイミングだし。
「そういう話があったのね。まあ、少しだけ中学時代の明上ユーリを調べてもいいんじゃないかしら」
「……気が進まないけど、そうだね」
「そんなに気に病むことかしら。昔の明上ユーリを知ってる人にアドバイスを貰うと思えばいいでしょう?」
まあ、物は考えようというか。確かに、そういうものかもしれない。
「じゃあさ、今から行こうよ。原口って人のところに」
「急だね!?」
「……うーん、なんかあんまりユーリを放っておくのもよくない気がするんだよねー」
確かに、今日も様子がおかしかった。あまり放っておくのもよくないのかもしれない。
それに、本当に明上さんが何もないならそれでいいし。確めるのは早い方がいいか。
でも、原口さんが今暇なんだろうか。
「というわけで行こうよ!」
「強引ね!?」
と、考える暇もなく希沙さんが部屋を出ていくものだから、希沙さんと引っ張られている琴塚さんを追いかけて僕も部屋を出ることにした。
にしても、本当に強引だね。
◇◇◇
結論から言えば、原口さんはチームの部屋にいた。たまたま教室に残ってた人に聞いて、今日はチームで集まっていなかったみたいで、原口さんだけはそこに残っていたみたいだった。
「ああ、なんか椎柴が言ってたな。中学の頃を聞きたいやつがいるって。はー、よくそんなこと聞きたがるな」
坊主に剃っている人、この人が原口さんらしい。ぎろり、とこちらを睨み付けてきた。
……いや、普通に見られてるのかな?目付きが悪いだけかもしれない。
どうやら、明上さんと同じ中学らしいし。どれぐらいの仲だったのかはわからないけど。
「うん、ユーリの話を知ってるらしいから」
物怖じせずに、話しかける希沙さんに原口さんは目を丸くした後、次の瞬間には眉をひそめていた。
明上さんの話を聞きたいってことまではさすがに椎柴さんからは聞いてないらしい。
「……は、ユーリの?なんでそんな話を聞きたがるんだ」
低く、引っかかるような声だった。空気が張り詰める。
何かそんな変なことを言っただろうか。そう思っていたのに次の一言で僕たちは凍り付いた。
「死人の話をそんなに知りたいか?」
どくん、と鼓動が早まった。
死んでる?明上さんが?
……どういうことだ。少なくとも、今日さっき手を握った明上さんは生きているはずだ。死んでるわけがない。
「……死人?何、私たちのチームのユーリは死んでるって言ってる?」
「はあ?だって、雲山悠里の話を聞いてどうするんだよ」
雲山?知らない人か。張り詰めた空気が解けた。
……よかった、勘違いで。
「いや、僕たちは明上さんの話を聞きたいんだ」
「……明上?なんで明上の話を?ユーリがどうこう言ってたのはなんだったんだよ」
「だから、明上ユーリの話を聞きたいと言ってるんだけど」
琴塚さんの言葉に、原口さんの目が大きく見開かれて黙り込んだ。しん、と部屋が静まる。
「……いや、ちょっと待ってくれ。あー、そういうことか。マジか、まじかまじか。確かに、生き残ってるの他に明上だけだから、よく考えたらそうなるわ」
そして……頭を抱えだした。この反応、前に見たことがある。椎柴さんもこんな反応をしていたような。
……今までの話でそんな頭を抱えるようなことはないと思うんだけど。
「はあ、椎柴が言ってきたのってこういうことかよ。……自分から説明しろよ本当に」
悪態をついた後、原口さんはこちらに向き直る。
ごくり、と自然と喉が鳴る。いいか、と前置きして原口さんはゆっくりと話し始めた。
「明上の本当の名前はユーリじゃない」
その言葉を、すぐには飲み込めなかった。
「本当の、名前じゃない……?」
自分の声が、少し遅れて耳に届く。
「名字は明上でそのままだけど、名前は違う」
僕たちは全員押し黙った。
……すぐには受け入れられなかったけど、ストンと胸の中に落ちた。
もし、雲山悠里という人が明上さんと関係があるのなら……その名前を借りたんじゃないか?
椎柴さんは、これに気付いたからそういう反応をしていたのか。
それに、明上さんがあの熱でダウンしてた時。
『ゆぅりぃ……』
あの言葉は、自分の名前を呼んでた訳じゃない?
つまり、うなされてる時に雲山悠里さんの名前を呼んでいたってことなんだろうか。
「唯一、あいつと仲が良かったのが雲山悠里だ」
その考えを裏付けるように、原口さんからの言葉が来る。
明上さんは、仲のいい人の名前を、偽名として借りている。
……明上さんは、きっと大丈夫じゃないんだ。
弱々しかった明上さんを思い出す。
もしかして、あっちが素なんじゃないか。あのやけにテンションの高い明上さんは、仮面のようなものでその下に傷を隠してる。そんな想像をしてしまう。
僕たちはお互い顔を見合わせて、頷いた。
「原口さん、中学の頃の話を教えてくれる?」
「わかった」
原口さんは、話し始めた。
「第三深禍災害って知ってるか?俺たちはその被害者だ」
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混合型深禍について:深禍は例えば蜘蛛などの何かの生物や物体を模した存在として現れますが、たまに複数の物の性質を有した存在が出ることもあります。
通常の深禍よりも強力で、コネクトリンク状態のカースシーカーが一人で戦うのは難しいです。




