主人公くん、TS娘の過去への手懸かりを得る
教室の机で、周囲を見る。僕の教室はコネクターばかりだ。
みんな、入学時に比べてどこか顔が暗い。カースシーカーに比べて、コネクターは比較的精神が安定してる人が多いらしいけど、今はもう余裕がなさそうに見える。
全員とコネクトリンクしてみて、明上さんが言ってたこともなんとなく理解した。
なんとなくだけど、カースシーカーの位置がわかるというのは本当だったんだ。目を瞑っても、場所がわかる。迷子になっても探せそうな感じだ。
次、訓練するときは連携をやってみようか。今までの戦いってだいたい希沙さんが勝手に突っ込んでいくから、そこでバラバラになることが多かったし。
訓練で確認したけど、明上さんの動きは結構すごい。
キレがあるというか、なんというか。たぶん、カースシーカーの中でもかなり強い方だと思う。経験豊富って言ってたこともあるけど本当かもしれない。
……でも、コネクトリンクしたときに無理矢理記憶を覗こうとしたのは失敗だった。
勝手に覗くのはダメだ。僕は明上さんの過去をいたずらに暴きたいわけじゃない。過去を知らないと始まらないかもしれないけど。
思えば、訓練が終わってからずっと明上さんのことを考えているような気がする。……僕たちの考えてることが全部気のせいで、明上さんがただの元気な女の子だった、なんてオチだったらいいのに。
「よう、渚」
「おはよう、神崎」
神崎はクラスの中でも特に様子の変わらない内の一人。
「お前、最近どう?」
……このどうっていうのはたぶん明上さんのことだと思う。
あの人が場所を選ばずにくっついてくるせいで、たまたまクラスメイトに見られていてそれ以降ずっとこうして聞かれてる。
頬杖を解いて、神崎の方に向いた。
「どうもこうも、チームメイトなだけだってば」
「いやあ、チームメイトでもあんなに距離近いことないし。聞いた話によるとお前に対してだいぶラブみたいな感じらしいじゃん」
「この前、反応が面白いからやってるだけで、好きかどうかわからないって言ってたけど」
「おうおう、照れ隠しか?普通、いじりたいだけでそこまでしねーって」
それは僕も思う。思うんだけど、明上さんは普通に当てはまる人ではないしなあ。
「そういう神崎はどうなの?」
「俺んとこか?まあまあだな。ちょっと、一人よく発狂してんだけどよ、そいつ頑張って慰めながらなんとかやってるわ」
「そ、そう……それ大丈夫なの?」
「なんかようわからんけど、コネクトリンクしてるとましっぽいぞ」
メンタルに効くんだろうか、コネクトリンク。繋がりがあると安心するのかな。
そういえば、聞きたいことがあるんだった。
「神崎って、奈落帰りって知ってる?」
僕の言葉に、神崎が目を見開いた。
「……お前もそういうの興味あるんだな」
「そういうのって?」
「奈落帰りっていえば、一人で数百の深禍ぶっ倒して回るバケモンみたいなカースシーカーだろ」
「……なにそれ」
「そういう噂だよ。なんか体の特徴とかも変わるんだっけ?」
「そっちしか聞いたことないんだけど……」
「まあたぶん、ちょっと強いカースシーカーがいて尾ひれがついてるだけだと思うけどな」
強いカースシーカー、か。確かに明上さんは強そうだったけど、そんな噂になるほどとは思わないんだけど。
そもそも、どういう条件で体に変化が起きるんだろう。明上さんがそうかはわからないけど、噂になっている以上そういう人がいたかもしれない。一定の強さ以上になるとそういう症状が出るとかだろうか。
考え込んでいると、ポンと肩を叩かれた。
「えーっと、篠崎なんちゃらさん」
横に結んだ茶髪、少し目付きの悪いが綺麗な顔立ちの少女。
振り返ると、そこには椎柴さんがいた。
「椎柴さん、わざわざなんでここに?」
「そりゃ、あんたに会いに来たに決まってるでしょ。私、今結構忙しいの。ひっさびさに来たからリハビリみたいな感じで、スキルをバカスカ使って感覚を取り戻してるって感じで、放課後とかは正直あんま時間ないから今しか話すときなさそうなのよ」
……めちゃくちゃ喋るなこの人。神崎の机に勝手に座って話し始めてるし。びっくりしてるよ、神崎が。
「で、その。話ってのは?」
「いやー、明上に釘刺されちゃって昔の話とかできなくなっちゃったのよね。だからその報告」
「……わかった」
ちょうど、中学時代の明上さんについて聞けないかと思っていたところだったけどダメだったか。
そもそも、直接明上さんになんとかして聞くべきだから仕方ない。
「――だから、私以外の知り合いに聞いてね。原口ってやつがたぶんここの隣のクラスにいるから」
「え?」
「私が喋っちゃダメなら私以外から聞けばいいでしょう?」
「そうかなあ」
ニッ、と不敵に椎柴さんは笑った。
……この人は結構いい性格してる。
にしても、原口さんか。知らない人だけど、その人も明上さんの中学生の知り合いってことだろうか。
「まー、明上のことを暴き立てるのは罪悪感あるっていうなら、仲良くなるアドバイスがほしいとかそういうのでいいんじゃない?」
「……だいぶ強引だね」
「いいのよこんなん、適当に理由つけとけば。んじゃあね」
軽く手を振って、椎柴さんは去っていった。いつも急な人だ。……あの人も明上さんのことを心配して助言をくれたのかな。
「……お前のチームメイトだったりする?」
「そういうわけじゃないけど、入ることはあるかもね」
勝手に明上さんが誘ってるだけで、別にそんな予定もないけど。
「そうか、お前んとこのカースシーカーはやたら美人だな」
……確かに。
明上さんはなんで僕に構ってるのかわからないぐらいには可愛いし、希沙さんも琴塚さんも美人だ。
椎柴さんだって、まあちょっと目付き悪いけどそれでもやっぱり綺麗な人のわけで。なんでこんな人たちに囲まれてるのかはわからない。
……でも、普通はもっとドキドキしそうだけど、明上さんにベタベタされすぎてそういうのはなくなってしまったかもしれない。
まあ他にも、色々あったのもあるけど。
「神崎の方はどうなの?」
「まあまあだな」
まあまあはちょっと、言い方としてどうなんだ。
神崎は結構素直なやつだから、本当にまあまあだと思ってるんだろうけど。
美人だといっても、チームで恋仲になんかなったらだいたい破滅するらしいからいいのか悪いのかわからないけど。……神崎も恋人できたら、その発狂してるらしい子とか荒れてしまうんじゃないだろうか。
でも、せっかく紹介してくれたんだ。原口さんに話を聞いてみよう。
「なーぎーさーくーん!」
「えっ、ぐぇっ」
勢いよく背中に衝撃が来た。思わず、机に顔をぶつける。
顔を少し上げると、細い腕が僕の前に回された。背中に感じる感触と熱、なぜか何回か感じたものと同じ。
「あっ、ごめん。ちょっと補給しに」
「あっ、明上さん!?」
「……渚、お前さすがに教室でいちゃつくのはほどほどにした方がいいぞ」
「いや、押し掛けられてるんだけど!?」
「どうも、押し掛けてまーす。はあ、今日はここで寝ようかな」
「何を言ってるの!?」
な、なんか教室中の視線が突き刺さってる。痛い。
なんで、朝に教室まで押し掛けてくるの!?めちゃくちゃだよ、本当に。
とりあえず、僕に引っ付いてる明上さんの腕を強引に引き剥がそうとしたとき――腕が少し震えていたような気がして思わず手を掴んでしまった。
「なぁに、渚くん」
くすり、と明上さんの笑う吐息が僕の耳を掠めた。
……絶対チャンスだと思っていじりに来るでしょ。
「私のこと好きになっちゃった?」
「……いいから離れてもらえない?」
「そっちから情熱的に握ってきたのに」
渋々と、なんとか僕から離れてくれたけど少し不満そうだった。
……今日も、クラスメイトから色々聞かれるんだろうな。
そもそも補給って何、僕を毎日いじらないといけないみたいなこと?
さすがにそれは勘弁してほしい。
「なんか、教室中から見られてるね。もうちょっと派手にやっとく?」
「やらなくていいから!」
「……ちょっとぐらいなら渚くんに体を許してもいいよ?」
「やめてね、本当に」
一通りからかい終わって満足したのか、明上さんはそのまま教室を去ってくれた。
さて、この周囲からのすごい視線をどうしようか。
「渚、お前ほどほどにしとけよ」
まずは、神崎の誤解を解くところになりそうだ。
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カースシーカーとコネクターはおおよそ中高生ぐらいで覚醒するため、その辺りの年代の人間が多いですが、昔に覚醒して生き残っている人間を含めて大人のカースシーカーとコネクターもいます。
年をとっても能力が衰えるわけではないですが、貴重な存在であるためあまり出撃などで遭遇することはありません。




