表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/31

第31話 揺れる春、すれ違う心

春はまだ遠いはずなのに、

風の冷たさが少し和らいできたような気がする。


それでも、教室の空気はどこか張りつめていた。


朝、教室に入ると――

るいが俺の席に寄りかかって、にこやかに手を振る。


「おはよう、祐くん! 今日も寒いね」


「おはよう、るい」

明るく笑う彼女を見ていると、ほんのりくすぐったいような気持ちになる。


「ねえ、今日の放課後さ、一緒に文房具見に行かない? 新しいペンほしいんだ」


「うん、いいよ」


「やった~!」


その様子を、天宮さんは少しだけ遠くから見ていた。

席が離れてから、会話の間合いもなんとなく遠くなった。

彼女の横顔を眺めながら、何かを言いそびれている自分に気づく。


◇ ◇ ◇


昼休み、凛が俺の机にやってきた。


「ねえ、祐くん。最近、るいちゃんと仲良いね」


「え、そんなことないよ。別に普通だし」


「ふーん……。でも、澪ちょっと寂しそうだったよ?」


その言葉に、心の奥で小さな棘が疼く。


「そうかな……」


凛はちょっとだけ首をかしげて、

「自分の気持ち、ちゃんと見つめてみなよ」とだけ言って、

いつものように笑って席へ戻った。


◇ ◇ ◇


放課後。


るいと駅前の文房具店に立ち寄った。


「この色かわいくない?」

るいはピンクとミントグリーンのペンを手に、無邪気に俺の顔をのぞき込む。


「似合うと思うよ」


「えへへ、祐くんのそういうところ好き」


俺は少し照れくさくなって、

「ありがとう」とだけ返す。


買い物を終えて帰ろうとしたとき、偶然、天宮さんが反対側の歩道を歩いているのが見えた。


俺たちに気づいて、天宮さんがふと会釈をする。

るいも「天宮さんだ!」と手を振る。


「祐くん、また明日ね!」

るいはそのまま駅の方へ駆けていく。


俺はその場にしばらく立ち尽くし、結局、天宮さんの方へ歩き出す。


◇ ◇ ◇


「天宮さん、ちょっといい?」


「うん……」


二人で並んで歩く。

沈黙のまま何歩も歩いてから、天宮さんがぽつりと口を開く。


「……最近、祐くんとちゃんと話せてない気がする」


立ち止まった彼女の瞳は、どこか頼りなげで、それでもまっすぐ俺を見つめてくる。


「うまく言えないけど、大事に思ってる。伝えるのが下手でごめん」


天宮さんは少しだけ微笑む。


「ううん、私――もっとちゃんと、祐くんの“彼女”になりたいなって思うようになった」


その一言が胸に強く残った。


◇ ◇ ◇


家に帰ると、凛からグループLINEにメッセージが入っていた。


【凛】

「みんなで春休みにどこか行こうよ!

たまには思いっきり遊ぼう~!」


【るい】

「賛成っ!祐くん、どこ行きたい?」


【天宮さん】

「私も行きたいな」


みんなが画面の向こうで、それぞれの気持ちを抱えたまま、

“春”への新しい一歩を探している気がした。


◇ ◇ ◇


夜。

眠れぬまま天井を見つめる。


本当は、自分の気持ちにも、誰かの想いにも、正直に向き合わなきゃいけない。


そんな予感だけが、静かに胸に残っていた。


◇ ◇ ◇


春休みの計画がグループLINEで決まり始めてから、クラスの雰囲気も少しずつやわらいでいった。

新しい季節の訪れに、どこかみんなが浮き足立っている。


でも、俺の心の中には、どうしても拭えないモヤモヤが残ったままだった。


◇ ◇ ◇


週末。

俺、天宮さん、るい、凛の四人でファミレスに集まった。


春休みはどこへ遊びに行こうか、みんなでワイワイ意見を出し合う。


「テーマパークがいいな!」とるいが元気よく言う。


「でも混んでるよ、春休みは」と凛。


「じゃあ水族館?」と天宮さんが提案する。


「いいねー! ペンギン見たい!」

るいが嬉しそうに手を挙げる。


メニューを開きながら、るいが俺の隣にピタッと寄ってきて、

「祐くん、何食べる?」と覗き込む。


「なんでもいいよ」

自然に答えたつもりだったけれど、その距離感に、天宮さんの視線が一瞬だけ鋭くなった気がした。


凛が空気を和ませようと、「みんなでプリクラ撮ろうよ!」と話題を変える。


「楽しそう!」と全員が賛成したけれど、その内心では、それぞれが少しずつ別の不安を抱えていた。


◇ ◇ ◇


解散の時間が近づき、外に出ると春風が少し冷たく感じる。


天宮さんがそっと俺の袖をつかんだ。


「祐くん、少しだけ歩かない?」


るいと凛は「じゃあまたLINEで!」と先に帰っていく。


俺と天宮さんは、静かな並木道をゆっくり歩いた。


沈黙のあと、天宮さんが足を止め、

「私……もっと祐くんと、ちゃんと向き合いたい。本当に恋人として、私だけの“特別”になりたい」

その一言に、胸がぎゅっと締めつけられる。


「……ありがとう。俺も、天宮さんのこと、大切に思ってる」


ほんの少しだけ、俺たちの距離が縮まった気がした。


◇ ◇ ◇


帰宅後、ベッドで天井を見つめていると、スマホが震えた。


【るい】

「今日は楽しかった!

春休み、たくさん思い出作ろうね」


【天宮さん】

「今日はありがとう。祐くんともっとたくさん話したいな」


どちらのメッセージにも、

嬉しさと同じくらい切なさが混じっていた。


俺の心も揺れていた。


どちらか一方だけを選ぶのは、まだ怖い。

でも、“このままじゃいけない”という気持ちが、夜が更けるほど強くなっていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ