第19話 それぞれの進化
凛の初舞台から数日後。
冬の風が冷たくなってきた朝、
学校の門をくぐると、どこか空気が変わっていることに気づいた。
教室に入ると、
凛が新しい台本を広げて、真剣な顔で台詞を練習していた。
「おはよう、凛ちゃん」
「おはよう! ねえねえ、次の公演は台詞が三倍くらいあるんだよ!
もう、朝から晩まで頭の中が台詞でいっぱい……」
凛はそう言いながらも、
今までよりもずっと生き生きとした目をしていた。
「頑張ってるね」
俺がそう声をかけると、凛はちょっとだけ照れくさそうに笑った。
「うん、みんなに見てもらえるのが楽しみ!」
天宮さんも席について、
「凛ちゃん、最近本当にすごいよ。なんか私まで刺激もらっちゃう」と微笑む。
「天宮さんも、このあいだ“自分のやりたいこと”探すって言ってたよね?」
「そうなの。でも、まだ“これだ!”ってものには出会えてないなあ……
でもね、ちょっとずつ探してみるつもり」
そんな会話をしながら、
教室の時間は穏やかに流れていく。
◇ ◇ ◇
放課後。
三人で学校の図書室に寄った。
「凛ちゃん、演劇の本探してるの?」
「うん、舞台の表現とか、もっと研究したいなって」
「私も何か挑戦したいなあ。
最近ちょっと料理にハマりそうなんだ」
天宮さんが小さな料理本を手に取る。
俺は二人の様子を眺めながら、
「なんか、みんな新しいことに進んでるな」と
静かに思う。
「祐くんは、何か新しいことないの?」
天宮さんにそう聞かれて、
「……うーん、俺はまだ何も見つかってないかも」
と答えた。
凛が微笑んで言う。
「でもさ、そういう“探し中”の時期も大事だと思うよ。
私も少し前までは何も分からなかったし!」
三人の間に、小さな勇気が生まれる。
◇ ◇ ◇
帰り道。
夕焼けが空を赤く染めていた。
「ねえ、今度みんなで何か“新しいこと”に挑戦する日作らない?」
凛が提案する。
「面白そう! たとえば?」
「うーん、料理対決とか? カラオケでもいいし、
何か普段やらないことにみんなでチャレンジするの!」
天宮さんが楽しそうにうなずく。
「賛成! 祐くんもやろ?」
「もちろん」
三人で笑い合うその時間が、
どこまでもあたたかかった。
◇ ◇ ◇
夜、
天宮さんからLINEが届いた。
【天宮さん】
「私も、いつか“これだ!”ってものを見つけたいな。
でも、焦らずにみんなと進んでいこうと思う!」
【凛】
「新しい挑戦、すごく楽しみ!
二人とも大好き!」
そのやりとりを見ながら、
俺はふと、
「自分も何か“変わりたい”」という気持ちを、
前よりはっきり自覚し始めていた。
明日もきっと、
みんなでまた一歩踏み出せる。
そう思える夜だった。