第13話 普通の"幸せ"と、新しい"不安"
秋が深まり始めた放課後。
「祐くん、今日は凛ちゃんも一緒に帰っていい?」
天宮さんがそう聞くと、
凛はすでに嬉しそうに手を振っていた。
「もちろんだよ!」
「やった~! じゃあ今日は三人でカフェ寄ろうよ!」
教室を出て、
秋の風が吹く街を三人で歩く。
なんてことない会話――
凛が昨日見た面白い動画の話、
天宮さんが好きな新作スイーツの話、
俺も混じって他愛のないやりとり。
カフェの窓際、三人分の飲み物とケーキが並ぶ。
「ねぇねぇ、祐くんと澪ちゃんって、休みの日は何してるの?」
凛が無邪気に首を傾げる。
「ふたりで家でごろごろしたり、映画観たり……
あと、この前は文化祭の買い出しに一緒に行ったよね?」
天宮さんがうれしそうに答える。
「えー、いいなぁ! 私も今度一緒に映画観たい!」
「もちろん、みんなで行こうよ」
「わーい、絶対だよ!」
天宮さんがちょっとだけ凛を見て微笑む。
その目には、前より余裕と温かさが宿っていた。
◇ ◇ ◇
カフェを出て、駅まで歩く。
凛がふとつぶやく。
「こうやって三人で歩くの、なんかすごく楽しいな。
中学のときも澪とよく一緒に帰ったけど、
今はこうやって新しい友達ができて嬉しい」
「私も……」
天宮さんが小さな声で答える。
「でも、やっぱり祐くんとふたりきりも好きかな」
その言葉に、俺も思わず照れてしまう。
「……俺も、天宮さんとふたりきり、好きだよ」
凛はそんなふたりを見て、
「やっぱりこのふたり、お似合いだな~」と
ちょっと誇らしげに笑っていた。
◇ ◇ ◇
駅前で凛と別れ、
天宮さんとふたりきりになる。
「祐くん、今日も楽しかったね」
「うん、凛ちゃん、ほんとにいい子だよな」
「そうだね……。でも、私ね、ちょっとだけ不安だったんだ」
「え?」
「凛ちゃん、すぐに誰とでも仲良くなっちゃうし、
祐くんも凛ちゃんと話してるとき、
すごく自然に笑ってたから――
私、いらないのかなって思っちゃった」
天宮さんの言葉に、
俺は思わず立ち止まる。
「そんなこと、ないよ」
「……うん、わかってる。でも、
祐くんにとって“特別”でいたいから、
ちょっとだけ、心配になった」
俺は、天宮さんの手を取る。
「天宮さんは、俺にとって特別な人だよ。
誰と一緒にいても、それは変わらない。
むしろ、天宮さんがいるから、
俺は自分らしくいられるんだ」
天宮さんは、少し涙ぐみながらも、
笑顔でうなずいた。
「……ありがとう。私、
祐くんのそういうところが、
ほんとに好きだよ」
ふたりで駅の改札まで歩き、
手を振って別れる。
◇ ◇ ◇
夜、スマホが震える。
【凛】
「今日はありがとう! 澪ちゃんも祐くんも、
ほんとに大事な友達だって思ってる!」
【天宮さん】
「今日、ちょっと弱気になっちゃったけど、
祐くんといると元気になれる。ありがとう」
みんなが“本音”を伝え合えるようになって、
俺も胸の奥がじんわり温かくなる。
◇ ◇ ◇
次の休日、三人で映画に行く約束をした。
でも、
俺は、天宮さんとふたりきりの時間も
これからもっと大切にしたいと思った。
秋風が冷たくなっていく中で――
青春の“普通の幸せ”は、
ゆっくりと、確かなものになっていく。