第14話 すれ違いの始まり
秋も深まり、テスト前の放課後。
教室の窓から差し込む夕陽が、妙に寂しさを連れてくる。
「祐くん、今日も勉強会付き合ってくれる?」
天宮さんが遠慮がちに声をかけてきた。
「もちろん。家でもいい?」
「うん、ありがとう」
凛もすぐに「私も混ぜて~!」と割り込んでくる。
天宮さんは一瞬、ほんのわずかに戸惑った表情を見せたけれど、すぐに笑顔で「いいよ」とうなずいた。
三人でコンビニに寄り、ノートやお菓子を買い込んで、祐くんの家へ。
「なんか、部活みたいだね~!」
凛が楽しそうにリビングを転がる。
「ほら、ちゃんと勉強しないと。テスト近いんだから」
天宮さんは真面目な顔で、でも優しく声をかける。
俺は二人の間で、どこか落ち着かない気持ちで座っていた。
◇ ◇ ◇
勉強会は和やかに進む……ように見えて、
天宮さんがときどきぼんやりとした視線で、凛と俺を見ているのに気づく。
「祐くん、ここ教えてほしい!」
凛が問題集を差し出す。
「えっと、ここはまず方程式を……」
自然に近づく距離。
天宮さんは少しだけ肩を落とし、
小さくノートをめくる音だけが響く。
「澪ちゃん、ここ一緒にやろう?」
「……うん」
なんとなく会話がかみ合わない。
凛は悪気なく二人に割って入る。
天宮さんは、そのたびに微笑んでみせるけれど、
どこか寂しそうな目をしていた。
◇ ◇ ◇
夕食を三人で囲む。
「祐くんの家、ご飯美味しいね!」
「母さんの自慢の料理だから……」
「また来ていい?」
「もちろん」
ふたりのやりとりに、天宮さんが箸を止める。
「澪ちゃん、どうしたの?」
「……なんでもないよ」
笑顔の奥に、少しだけ揺れる影。
俺は“みんな仲良くできてる”と思い込み、
その違和感に気づききれなかった。
◇ ◇ ◇
勉強会の帰り道、
凛が途中でバスに乗って帰ると、天宮さんとふたりきりになった。
「……祐くん」
「ん?」
「今日、楽しかった?」
「うん、みんなで勉強できてよかったよ。
凛も明るくて、教えるのも楽しいし――」
「……そっか」
天宮さんの歩幅が、ほんの少しだけ遅くなる。
「祐くんさ、最近……凛ちゃんのこと、すごく楽しそうに話すよね」
「え? 別に普通だよ」
「うん、そうだよね……ごめん、変なこと言って」
「気にしてないよ」
けれど、気づけば会話はぎこちなくなっていた。
家の前で立ち止まり、天宮さんが小さく呟く。
「なんか、前より遠くなった気がする」
「え?」
「私のわがままかな……
でも、前はもっと、祐くんとふたりで話せたのにって、
ちょっとだけ思っちゃった」
俺は何て返せばいいのかわからず、
ただ「そんなことないよ」と繰り返すことしかできなかった。
天宮さんは静かに微笑んで、
「おやすみ」とだけ言って帰っていった。
◇ ◇ ◇
夜、スマホにLINE。
【天宮さん】
「今日はありがとう。
凛ちゃんも混じって、みんなで勉強できてよかった。
……でも、なんでだろう。ちょっとだけ寂しい気持ちが消えないんだ」
画面を見つめて、俺は初めて“天宮さんの孤独”に気が付いた。
けれど、どう言葉をかければいいのかわからない。
「ごめん、俺、もっとちゃんと話せばよかった」
既読がついても、返信はなかった。
◇ ◇ ◇
季節はますます秋を深めていく。
三人の間に生まれた小さな隙間は、
やがて大きな波乱を呼ぶ火種になっていく――




