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聖なる道

1916年6月初旬、フランス北東部・マルヌ地方某所。


日本陸軍第十二師団・先遣部隊は、フランス軍の自動車隊によってヴェルダン南方前線へ輸送されていた。


これまで経験のなかった、トラックによる将兵輸送。

兵士たちは荷台で揺られながらも、その異様な経験に、言葉少なながら興奮を隠せなかった。


荷台の隅には3人の北九州出身兵――小松五郎一等兵(福岡県久留米出身)、原田幸作一等兵(佐賀県唐津出身)、**黒木善太郎一等兵(長崎県島原出身)**が、揺れる車体に身体を任せていた。


小松にやつきながら:「おい、原田。まさかワシら、馬も無しに、こんなラクして前線行けるとはなァ」


原田(鼻で笑いながら):「歩兵のくせに馬より速ぇとくりゃ、そりゃたまげたもんやろ」


黒木(朴訥と):「揺れすぎてケツが割れるごたる……」


3人が話すのは濃い筑後・肥前の訛り。だが、その会話は不思議とトラックの金属音に溶け込み、違和感はなかった。



トラックの荷台の前方、座席に背をもたれて座るのは山下奉文大尉と小畑敏四郎大尉。将校二人も兵とともに移動していた。後部板に腰かけ、時折兵たちの様子を窺っている。


山下(腕を組みつつ):「これが鉄の馬か……すげえもんだな」


小畑(笑って):「馬小屋の匂いがせんだけ、ずっとマシだな。揺れんのは変わらんが」


山下:「輸送だけじゃない。補給にもこいつが使えりゃ、弾薬も兵糧も一気に送れる。大隊単位で移動できるって話だぞ、まるで砲兵並みだ」


小畑:「砲兵はトラックの荷台にゃ座れんがな」


二人は冗談を交わしつつも、その眼は遠く前線に向いていた。



トラックを運転するフランス兵は、無言で車体を操りながら、ときおりバックミラー越しに微笑みを投げる。通訳は運転席の横に乗っており、必要があれば通話用管で後部の将校に伝える仕組みだ。



やがて、遠方に黒く焼け焦げた構造物が見えてくる。


「あれが……ヴォー要塞か?」


「もう……要塞やのうて瓦礫やな」



そして、その瓦礫の砦へと、日本陸軍第十二師団は、突入していく――。

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