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地獄の金床

要塞外縁に到着した第十二師団の先遣小隊は、フランス軍の防衛線と交代しつつ、破壊された要塞内部へと配置された。


壁面は爆風で穿たれ、崩れたコンクリートが山のように積もっている。雨と硝煙の混じった空気が重く垂れ込めていた。



指揮を執るのは、山下奉文大尉と小畑敏四郎大尉。

防衛線を急ぎ点検し、兵たちを配置に就かせる。


山下大尉:「主通路には黒木、右翼は原田、小松は俺と正面だ。……来るぞ、もうすぐだ」


小畑大尉:「銃は節約しろ。弾はあんまりねえ」


兵たちは「はいっ!」と短く応え、穴だらけの壁の後ろに伏せた。



14時過ぎ。

遠くで重々しい雷のような音――ドイツ軍の前段榴弾砲撃が始まった。


地鳴りのような轟音とともに、砲弾が要塞上部を直撃し、煉瓦が崩れ、塵と瓦礫が雨のように降り注ぐ。


黒木一等兵:「うわっ……っぐッ!」


小松一等兵(大声):「黒木、頭下げろっ!」


瓦礫の直撃をかろうじて避けた黒木が、泥の中へ身体を伏せる。

直後、近くで砲弾が炸裂し、塹壕が大きく抉られた。


山下大尉(怒鳴る):「各自、掩蔽壕へ避難ッ! 顔を上げるな!」


原田一等兵(息を殺し):「……まるで地獄の入口ば見よるごたる……」



砲撃が止んだのは、約30分後。


しかしそれは終わりではなく、突撃の合図だった。


「馬鈴薯どもが来るぞッ!」


敵陣から、鋼鉄のヘルメットに灰色の軍服をまとったドイツ兵の大波が押し寄せる。


機関銃が火を噴き、日本軍の前哨線も応戦を始めた。


小畑大尉:「連射は抑えろ! 撃ちすぎんな!」


原田一等兵:「あい、了解ッ!」



だが敵兵は数が多く、瓦礫と煙の死角を縫って、あっという間に要塞内部通路まで進入してきた。


そして――


通路内で、銃剣が閃き、円匙が振るわれ、鉄板の破片が武器となる。


黒木一等兵:「くそッ……うおおぉッ!!」


黒木は突進してきたドイツ兵の胸に銃剣を突き刺す。

だが、その直後、左肩を斜めに切り裂かれ、崩れた瓦礫の下へ倒れた。


黒木:「ぐッ……か、肩が……」



原田も、小銃を殴打に転じて戦い続けていた。


原田:「来んじゃねぇッ、唐津ん兵隊ばなめるなァ!」


が、突如、横合いからの銃剣が脇腹を抉った。


原田:「ぐっ……がああッ!」


すぐに衛生兵が駆け寄り、担架に乗せるが――


衛生兵:「深い……多分、無理だ。もう呼吸が……」


原田は血を吐きながら、薄く笑った。


原田:「……おふくろに……ごめんて……言っとって……」


そのまま、力尽きた。


指揮所近くで状況を指揮していた山下大尉も、瓦礫を乗り越えようとした瞬間、爆風で吹き飛ばされ、左脚に重傷を負った。


小畑大尉(叫ぶ):「山下ァッ!!」


山下大尉(呻きながら):「……いい……俺はもう……引く。頼む、小畑……死守だ……」


衛生兵に背負われ、山下は後方の医療壕へ搬送された。


夕刻。

日が傾く頃には、日本軍は要塞内部への突破を完全に阻止していた。

通路にはドイツ兵の死体が折り重なり、日本兵の靴と袖は血と泥に染まっていた。


黒木は片腕を吊り、塹壕の縁に腰かけていた。


黒木ぽつり:「原田……死んだとや……」


小松(目を伏せ):「……悔しかばってん、今ん戦いで……守れたもんは、ある」


その時、戦場の遠くで、夜の鐘が鳴った――。

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