軍隊のリハーサル
夜明けとともに、霧が漂うアラス郊外の丘陵地帯で、日仏合同の大規模な野営演習が始まった。
参加部隊は、日本陸軍第九師団の第7歩兵連隊(金沢)、仏軍第22旅団の第2連隊、そして両軍の砲兵・工兵中隊から成る混成部隊。実戦さながらの煙幕と音響弾、そして実弾を用いた演習は、双方にとって初めての試みであった。
演習想定は「敵軍に突破された戦線の再構築と防衛陣地の構築」、指揮官は仏軍少佐が総指揮、日本軍側は山田少佐が副指揮として調整に当たった。
山田少佐:「我々が右翼を受け持つ。仏軍は中央と左翼。突破口が発生した場合、工兵の支援を得て直ちに遮断線を構築する。石原中尉、配置確認」
石原中尉:「第7歩兵連隊第1大隊、前面に展開完了。砲兵第3中隊は林縁の北東丘上に設置済み。工兵隊が架橋準備に着手しております」
田中中尉:「仏軍から支給された軽量桁橋、強度は期待できませんが、予備として日本製の竹組構造も用意しました」
霧が晴れ始めた午前七時過ぎ、仮想敵軍の突撃を模した空砲と白煙が戦場に響き渡る。
仏軍左翼に突破が発生したとの伝令が入り、仏軍中佐の指示で日本軍右翼がその支援に回される。
山田少佐:「我々の参戦判断はこちらで行う。無理な前進は控えろ。だが援護火力は惜しむな」
富永中尉:「了解。第2砲兵小隊、敵侵入域への集中砲火開始!」
砲撃の爆音が丘の背を震わせ、仏軍指揮官が日本軍陣地に駆け寄ってきた。
Jean-Louis Belmond(仏軍中尉):「Votre artillerie est impressionnante. Merci pour l’appui rapide !」
(君たちの砲兵は素晴らしい。迅速な支援に感謝する!)
石原中尉:「Nous sommes entraînés pour une intervention rapide. Veuillez vous coordonner avec notre poste de liaison à gauche.」
(我々は迅速展開を訓練しています。左翼の連絡所と連携をお願いします)
日仏双方の砲兵と工兵が連携し、わずか3時間で簡易防衛線の再構築が完了。演習は予定より早く「成功裡に任務完了」として終了した。
午後には仏軍幕僚と日本軍将校による評価会議が開かれた。
仏軍少佐:「La coordination était au-delà de nos attentes. Les Japonais ont montré une discipline exceptionnelle.」
(期待以上の連携だった。日本軍は卓越した規律を示した)
山田少佐:「貴官らの柔軟な対応と的確な命令系統こそ、成功の要でした。我々にとっても貴重な経験です」
締め括りとして、フランス将校が手を差し伸べ、日仏双方の尉官が堅く握手を交わした。
田中中尉:「Ce ne sera pas notre dernière opération commune. Soyons prêts pour la vraie bataille.」
(これが最後の共同作戦ではありません。本番への備えを)
訓練場を吹き抜ける風の中で、誰もが胸の奥に「これが現実になったとき、再び共に戦うことになるだろう」という覚悟を刻み込んでいた――。




