調整
フランス北部、アラス近郊。仮設された連合軍合同司令部のテントには、各国の将官たちが集まり、日本軍の本格的な戦線配置を巡る協議が始まろうとしていた。
出席していた日本側の将官は、
•第一師団長:黒木為楨中将
•第九師団長:大迫尚敏中将
•第十二師団長:中村覚少将
彼らは、
•英国陸軍から:Sir George Trevor(ジョージ・トレヴァー陸軍中将)
•フランス陸軍から:Henri LaSalle(アンリ・ラサール大将)
らと対面していた。
フランス軍のラサール大将が、地図の広がる卓上を前にフランス語で口火を切った。
Henri LaSalle(仏軍大将):「Messieurs, la situation sur le front ouest est critique. Nous avons besoin de renforts immédiatement sur le secteur de Verdun.」
(諸君、西部戦線の状況は極めて深刻だ。ヴェルダン方面に即時の増援が必要である)
すると、英軍のトレヴァー中将がすかさず反論する。
Sir George Trevor(英軍中将):「With all due respect, France, I believe the Japanese divisions would serve better near Ypres, under British coordination.」
(失礼ながらフランス殿、日本の師団はイープル方面に配属し、英国の指揮下に置く方が適切と存じます)
地図の上に伸びる指、塹壕線、補給路。フランスと英国の将軍たちは、次第に声を張り上げ、日本軍の配置を巡って対立を強めていった。
日本側の三将は、沈黙のまま互いに目配せしつつ、慎重に成り行きを見守っていた。
やがて、大迫尚敏中将が静かに席を立ち、一歩前に進み出た。
大迫中将:「ご両将、ご高配に預かり光栄に存じます。
しかしながら、我が帝國軍は独自の判断と責任において、戦闘への参加を決定いたします。
協調は致しますが、配置と任務は我が方にて選定させていただきたく存じます」
通訳官が冷静な声でこれを英仏両語に訳す。
トレヴァー中将は一瞬口をつぐんだが、やがてうなずき、穏やかに語った。
Sir George Trevor:「Your Excellency, your words are fair and measured. We shall respect Japan’s autonomy in this matter.」
(閣下、ご発言は公平かつ慎重である。我々は日本の自主性を尊重しよう)
ラサール大将もやや表情を緩めながら続けた。
Henri LaSalle:「Nous comprenons. La France coopérera selon vos décisions.」
(理解した。我がフランスも、日本の判断に従って協力する)
張り詰めていた空気がわずかに和らぎ、会議室には再び静けさが戻った。
日本の将官たちは、小さく頷きあった。
英仏との会議終了後。
アラス郊外に設けられた日本陸軍遠征軍臨時本部。仮設の幕営にはストーブの熱が立ち込め、外の冷たい風と対照的に中は乾いた緊張と静けさに包まれていた。
会議机の上にはフランス製の戦線地図が広がり、戦況図が線で何重にも引かれている。会議に臨んだのは、三師団の師団長と幕僚、参謀たち――いずれも欧州の地を踏むのは初めての者ばかりであった。
発言の口火を切ったのは、第一師団長・黒木為楨中将であった。
黒木中将:「まず確認したい。我が遠征軍の根本方針である。
ここは決して帝國の領土ではなく、仏英の防衛線でもある。よって我らの立場は、“協力者”である。
その上で、我が方に不必要な損耗を強いられるような無理な突撃や包囲戦に加わることは、断じて避けねばならん」
大迫中将(第九師団):「同感であります。仮に我が師団が突出して陣地を拡張したとしても、周囲が追随せねば袋叩きとなりましょう。
主力の役割はあくまで“守るべき地を守る”。必要な時に、必要な場所へ急行する――この原則を確立すべきと存じます」
中村少将(第十二師団):「一方で、まるきり防衛一辺倒でも士気は落ちます。状況によっては、“成功確率が十分にある”と判断される攻勢には、我が方も積極的に参加する柔軟性が要りますな」
黒木中将:「うむ。その線引きは、我々自身で判断する。英仏に従属するのではなく、あくまで対等なる立場で、我が方の意志により決定する。これが、派遣元たる帝國の名誉にも関わる」
幕僚がうなずく中、参謀副長が戦況図を指して補足する。
参謀副長:「ドイツ軍の大規模攻勢は、主にシャンパーニュおよびヴェルダン方向に予測されております。
仮に突破されるようであれば、我が遠征軍の中核がその“穴埋め”を担うのが理想的かと」
黒木中将:「つまり、我が軍の役割は“防御の機動部隊”とし、一方で、“攻勢においては選別参加”。その都度の判断は現地司令部の裁量に委ねる。よいか?」
全員が力強くうなずいた。
次に、英仏との連携に関する原則が取り上げられた。
大迫中将:「さて、英仏の会議には原則として全て出席し、情報共有を行うこと。通訳を必ず帯同させ、誤訳や解釈の齟齬が生じぬよう努める。とくに命令系統に関する文言は慎重に扱え」
通信参謀:「通訳班については、仏語対応15名、英語対応12名を用意しております。うち、陸軍大学校卒の者が4名、外務省派遣員が2名。常に1~2名を前線幕僚に常駐させます」
中村少将:「兵卒への伝達も、正確かつ簡潔である必要があります。通訳士官に軍隊経験が乏しい者が多いので、用語の統一と指導を徹底しましょう」
補給体制については、兵站担当幕僚から報告が入った。
輜重参謀:「現地補給物資については、仏英両国と協定を締結済みであり、野戦糧食、弾薬、医療品については現地受給。輸送は仏軍第4補給団の列車便を優先的に使用できます」
黒木中将:「兵站の途絶は即ち戦力の崩壊に繋がる。現地との連携を重ね、各師団での備蓄も最低7日分は確保せよ」
こうして、日本陸軍の遠征方針は以下のように確定した:
•無謀な攻勢には加わらず、防衛主体の柔軟運用
•ドイツ軍の突破口に迅速に対応する“機動防衛軍”として機能
•見込みのある攻勢には選別参加
•英仏両軍の作戦会議には原則全て出席し、発言権を確保
•通訳・補給体制を万全に整える
そして何より、これは「帝國の名を冠する軍隊」として、欧州列強の只中における“威信の担保”でもあった――。




