7-ユウカイ-
あ、今気づいたけど章作ってなかった
ていうのを更新されるのが29日なんだと思った。(きょう27)
颯希は、図書館をうろうろしていた。「国・歴史」という項目のところだ。一瞬、読めないような文字だが頭で自動翻訳されているのか不思議と読める。そのことに驚くが考えないようにする。そこにはちょうど滉もいて、出会ったときと同じ体勢に本棚と本棚の小さな隙間にちょどぴったりと収まっている。そこがお気に入りなのか、微動だにしない。たまに颯希をちらちらと見るときはあるが。
「歴史か、うん」
気になるのは、亜妃が何者かということなのでどっちかといったらあまり歴史には興味がない。
「ていうか、亜妃って誘拐の現場にいたんだよな。事件について調べよ」
と小声で宣言し「歴史」から「事件」が書いてありそうな棚を見て回った。
「『一目でわかるヴィパルの歴史』、『誰に創られた? ~ヴィパルの謎に迫る~』……絶対違うな」
『誰に創られた? ~ヴィパルの謎に迫る~』はちょっと興味を引く内容ではあったが今は目的が違う。上を向いて後ろを向いた。天井付近まである、この蔵書の中にあるだろうが探すのが大変すぎる。そういえば、市立の図書館には図書検索というのがあった気がする。棚から抜け出し、入り口付近を見た。それらしい機械は見当たらない。
「それもそうか。何たって、扉は自動じゃないし」
呟いて、一応聞いてみる価値はあるかな、と思い颯希はすぐそこで本を読んでいる滉に聞いた。
「ねえ、図書検索できるところってない?」
「……なんだそれ? 俺、地球にいた頃は一度も図書館なんて行ってないから知らないんだけど」
痛恨のミスだ。同い年で、彩里たちと知り合い。普通に考えたら知っていそうだが、日本にいたとき一度も図書館に行ったことがないってなんだそれ。夏休みとか何してたんだコラ、と脳内で毒づく。知らなくて当たり前なのか? この様子から、知っていることはなさそうだが。
「本を名前とか、キーワードとか、内容で検索するモノ」
「んなもんあるのか。地球は便利だな」
「だからそれはあるのか? って聞いてんの!!」
おお、危ない切れるところだった、額に出てもいない汗を拭く。無論、もう堪忍袋八プッツンと切れていて切れていてその怒号は図書館中に響いていた。
「お、おお、多分あったような気が……。ピッピするやつだろ」
「ピッピってなに」
明らかに気圧されている滉である。内心悪いと謝りつつ、それを口にしない颯希も少し悪いか。
そんな様子を遠くから彩里と亮は見ていた。
「こりゃ、下僕決定ね」
「下僕って……そこまでいうか? 普通」
「まあ、颯希って頭よさそうだし、バカな滉にいろいろ教えてくれればいいわ。キャッチ・アンド・リリースよ」
彩里が自信満々に言っているのを亮は困った顔で見て、のちに驚いた顔になった。
「キャッチ・アンド・リリースは釣り用語です。魚を釣ることだけを愉しみ、釣った魚をもって帰ったり食べたりするのではなく、また水の中に放してやることです。
それを言うなら、ギブアンドテイク。しかもわたしにとっての利益が少ない」
「……するどいつっこみどうも」
と亮が言った。
ながいつっこみは颯希である。彩里は驚いて、こっちと颯希と滉がいた歴史の棚を人差し指で何度も差した。
「ああ、はい。ちょうどこの棚に事件についてありそうなので寄りました」
後ろには滉がいた。歴史の本を持っていて、少し不服そうである。颯希が訪れ、彩里と亮がいた棚は新聞(のようなニュースを伝えるものらしい。滉から聞いたもの)について閉じられている棚である。
「誘拐、誘拐……」
颯希は三人になどお構いなしでいきなり集中モードに入った。
「颯希、何探してるの?」
「さあ。なんかさっきから、事件とか誘拐とか言ってるけど」
「物騒な」
彩里、滉、亮の順で颯希の後ろに顔を寄せ合いひそひそと言い合っている。
「というか、颯希って何者?」
「確かに。なんで、こっちのこと割と詳しいの?」
「それは、亜妃だろ」
「亜妃って、さっきの赤毛?」
「そう。でも来て早々に誘拐について調べるって」
「なあ」
と言う具合に、三人は会話をする。一応、ひそひそ感を大切にはしているが狭い棚同士の隙間のひそひそ話など、聞こえる範囲に高が知れている。もちろん、颯希には筒抜けだ。
「聞こえて」
颯希の言葉は途中で遮られた。図書館に、ぼろぼろになった女の人が入ってきたのだ。途端に、図書館が悲鳴に変わる。
「助けて!」
女の人はそう言った。何だ何だと野次馬精神丸出しの滉は首を伸ばす。
「私の子供が、連れていかれたの!! 誰か助けて」
泣きながらに叫ぶ。最後、嗚咽を繰り返し膝から崩れ落ちた。
その言葉に、颯希と彩里が動いた。意図せず、二人同時に駆け出した。服や髪がほつれたり絡まったりして、みすぼらしく、小さなその女の背中に颯希は一瞬戸惑った。しかし彩里は臆することなく、優しく女の人と同じ目線にしゃがみ聞いた。
「連れていかれたってどこに?」
「わから、ない」
涙が出て止まらないようだ。咳も止まらないようで震える背中を彩里がさする。
「大丈夫、言ってみて。誰に連れていかれたの?」
女は鼻をすすり目をこすって言った。
「数人の男と、赤毛の女」
その瞬間、颯希と彩里は目を見開く。颯希は、女の人の肩を掴んでいった。
「場所は! どこ!?」
女は、颯希に勢いよく捕まれたショックで一時涙が止まったようだ。
「こっから出てすぐ右の森の奥」
意外と的確な答えだった。颯希は、ありがとうと軽く礼を言うとすぐに駆け出した。
「颯希!」
彩里と亮と滉が叫ぶ声が聞こえるが構わずに走った。
「あいつ、走るの速いなっ」
滉が舌打ちとともに驚いたように言った。
***
やはり、亜妃は、誘拐の現場にいる。そして、颯希が見たものから亜妃の地位はかなり上だと推測される。こんな短期間に、二回も誘拐が起こるなんて。しかも、なぜわざわざ颯希がいる図書館の近くで起こすのか。もしかして亜妃は、止めてほしいのか? 何を? ……誘拐を?
図書館の近くを囲んでいた森が仇となった。生い茂る木々の下は日が当たらず、微かなぬめりを感じる。全速力が出せればすぐに追いつける距離のような気がするのに、出口があまり近づかない。
日が当たり始めるあたりのところでは草が生えており、泥が付いた靴でそこを走るのは少々危険な行為だった。
息切れ切れに颯希は言った。
「ぬけたっ……」
森を抜けたところは、わずかだが前面に草が生えており天然な芝生だった。おっとっと、とバランスを取りながら素早く周囲を見渡す。何もなく、間違えたかと思ったがすぐ近くで子供の悲鳴が聞こえた。もうちょっと右だった。
すぐに走り出した颯希はまたすぐに止まった。木の陰に隠れ、様子をうかがうことにしたのだ。
この前みたいな黒い服の男たち、みすぼらしい薄茶色のコートを着てフードをかぶる背の高い人物。子供を捕まえ、馬車のような乗り物にいれているのは男たちの方だが、どう考えてもあのコートを着ている人物が命令している。あれが、きっと。颯希は目を細める。亜妃だ。
なぜ子供を誘拐するのか、なぜそんなことをするのか、なぜ颯希を助けたのか、なぜ亜妃はこの場にいるのか。頭の中でたくさんの疑問が回る。回って回って、でもたどり着けないその答え。きっと、颯希が考えたことがないようなことなのだろうと感じていた。
息が整うのを待って、颯希は決意を固めていた。まず男たちを倒して、そのあと亜妃を。そこまで考えて、亜妃の家で見た磨き上げられた銀色のナイフの存在を思い出した。あれを投げられたら避けられる気がしないな。その時は素直に観念するかと颯希は思った。
いざ、と一歩を踏み出そうとしたとき、颯希は肩を捕まえられた。
滉だった。あまりに急すぎて呼吸が一瞬止まった。
「滉」
小声で驚く。滉は面倒くさそうに、しかし力強く言った。
「戻れ」
なぜだ。滉は亜妃も颯希も知らないはず。ならこの行為は、滉にとって全く関わりがないもののはずだ。
「嫌よ」
「戻れ」
「なぜ?」
滉は息を吐いた。さっきの力強さは抜け、面倒くさい一心しか感じられない声でもう一度言った。
「戻れ」
きっと彩里か亮に言われたんだ。颯希はそう直感した。絶対にそうだ。滉はあの三人の中で一番若いし、どう考えても滉は二人に救われて、二人は滉に救われている。そういう雰囲気と空気が流れていた。三人は、独特な絆で結ばれているのだ。
「嫌。わたし、気になるのよ。なぜ亜妃がここにいて、誘拐なんてしているのか」
「そう? でも、気になるのはあんたの方よ」
驚いた。そして、振り返ったときにはもう遅かった。颯希は気を失った。
「彼女は大切にするものよ。違う?」
亜妃は言った。滉に対してだ。急に力が抜けたため、颯希は倒れこみかけたが寸でのところで滉が受け止める。亜妃の、「彼女は」の部分が妙に強調されていたので滉は言った。
「……ああ、そうだな」
奥で男たちが消えた亜妃に戸惑う声が上がった。どうやら、脳がないあほの集団らしい。滉はそう判断したのか亜妃に軽く会釈と厳しい視線を送り、そのまま、颯希を担いで森へと消えた。
個人的に滉が好き。滉の漢字をなぜ滉なのか少し疑問に思ってしまった。
キャッチアンドリリースについての補足とかあったらお願いします。