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8-センセンー

一日1話だとなかなか完結しないことに気づいたので今回から2話投稿。

 何かヒンヤリしたものが颯希の額の上に乗せられているようだ。額に触れると実際にそこにあり冷たいものがあったんだなと夢うつつの中感じた感覚ではなかったとわかった。

 そういえば、ヴィパルに来ているんだよな、わたし。ああ、亜妃が誘拐の現場にいて、いざ出ようと思ったら滉に掴まれて、そしたら……。

 颯希は目を見開いて飛び起きた。


「亜妃!!」


 その様子に驚いたのか、彩里・滉・亮の三人は肩をビクッとしたりうわっと声を上げるなり三者三様の驚き方を見せた。


「颯希、目が覚めたのね」

「そう、亜妃は?」

「ここにいるわ」


 亜妃の声だった。思いっきり振り返って首を少し痛めた。


「亜妃、何て事を」

「例えば?」

「誘拐」


 颯希は顔をしかめながら言った。振り返って首を痛めたと思ったがその首が、少し熱っぽかったからだ。


「ああ、それ冷やしとけば直るわよ」


 と彩里が言って颯希の首筋に何かを張る。額に乗せていたらしい、冷たいシップだった。そのシップはどうやら大きな葉でつくられたようで、こういうところからも今の文明の進化の過程が分かる。


「亜妃、どうして?」


 彩里のシップのこともほどほどに、颯希は先ほどの亜妃の行動を咎めた。


「どうして、誘拐をするの?」


 滉と亮が顔を見合(みあわ)したのが目の端でとらえた。そしてそれと同時に、ここが図書館でもなく、亜妃の家だとも分かった。


「あんたには関係ないわ」


 亜妃はそう言って視線を逸らした。棚を開け、ナイフを取出しコートの見えないところでそれに何かをする。


 颯希は、無性にもどかしいような気がして苛ついた。

 確かに、ここにいる中で一番知識が浅く、何もしないのは颯希だ。でも、だからといってこう立て続けに経験したり、知ったりしているのだから、少しぐらい教えてほしかった。こぶしを強く握る。


 あー! という掛け声とともに颯希の右ストレートが飛び出した。全員がぽかーんとした顔で颯希を見る。亜妃までは距離があるので届かないがそれは分かっていた。無性に腹立たしかったのだ。


「亜妃のバカ」


 小声でつぶやいた。

 たった三日、数えられるほどしかここにはいない。それに、ここにいる四人のことは何も知らない。なぜ自分がここにいるのか、なぜ来てしまったのか。その原因もわからない。

 退屈で平凡な毎日への革命は確かに必要で、でも、本当に必要なのか分からなくて。それがあるから颯希は今、ここにいる。不確かな要素の中で、亜妃がしていることが分かるのか。物事への関心も興味も今まであまり持ったことがない。それは、聞くだけでなんとなく全てが分かるという頭の良さ故の悩みだったのか。その颯希が今、確かな気持ちを持っている。そして、一つの目的のために今、颯希は動こうとしているのだ。


「彩里、滉、亮」


 呼びかけられた三人は順に返事をしていく。


「亜妃」


 最後に亜妃を呼んだ。けれど、亜妃は返事をしなかった。


「わたし、何回でもここに来る。ここに来て、ここで何が起きているのかを絶対に解明する。誘拐も、亜妃も、そしてこの国のことも」


 最後の方の言葉に、亜妃の動作が止まった。〝国〟について、つまり〝ヴィパル〟について、調べることは必須だった。発見されていない文明について調べるのは人として当たり前のような気がするが、それに亜妃がかかわるとなれば深いところまで知る必要があるだろう。


「だから、亜妃。存分にやって頂戴」


 これは一種の宣戦布告になった。絶対にすべてを暴き、そしてすべてを理解する。そうすれば、亜妃は絶対に、誘拐をやめる。その確信があった。

 亜妃は止めていた動作を再開させ銀色に輝くナイフを高くに投げた。しかし、天井には届かない。


「なら、存分にやらせてもらうわ」


 首を傾げてにこっと笑った。亜妃はいったい、何者なんだ。


***


 亜妃の家を後にし、颯希は再び図書館へ行こうと決めた。太陽を見てまだ三時位だと思い、念のため確認をする。


「今何時?」

「三時ぐらいじゃない?」


 彩里の勘のようだ。ここには時間というものがないのだろうか。


「時計、ある?」

「町とか村とか、人が住んでるところにはあるわ。大きな日時計が」


 そうなんだ、と軽い返事をしてやはりここは、地球より文明の発達が遅いのだとわかる。


「五時ぐらいに帰りたいからあと二時間程度か」


 一人呟き、図書館の道を覚えるだけにとどめておこうと思った。それから、夏休みだからまあいいかな、と考え、今日は学校を口実に来ているから、明日からは誰かの家に泊めてもらうという口実でいこう。


「図書館って、どうやって行くの?」

「そうね、また歩いて戻るのも面倒だし」

「家はどうせあっちだろう」


 滉が言った。


「そうだけど、颯希が図書館まで行ってまたこっちに帰って来て地球に戻るなんてなんか可哀そうだなあって」

「ならここに住めば」

「うるさい」


 滉の発言を途中でさえぎり、亮が頭を殴った。今日何回目だろうと思いつつ、滉の発言に感謝だ。ここに住むという発想はなかった。


「彩里、わたしここに住もうかな」

「だめ。ここに住んだらどんな……」

「どんな?」

「ああ、何でもないよ、気にせずに」


 どうも、ここに住んでいる人たちは何かを隠しているような気がしてならない。ここに住むとなにかがあるのか? どんなことが? 分からない。


「地図は?」


 颯希が言った。唐突過ぎて、彩里たちは一瞬意味が分からないような顔をしたので補足に言った。


「図書館までの」


 すると彩里がああ、と手を叩いて亜妃の家へと戻った。


「じゃあ、亜妃の家へ戻りましょう。あそこにはなんだかんだでいっぱい揃ってるわ」


 宣戦布告して飛び出して、そしてすぐに戻るというのは、颯希は気が引けた。しかし、戻らなければ、地図は手に入らないし。地図がきちんと使える物なのかはさておき、それがないと始められないのも確かだった。

 ちょっと悩んだ末、戻るという選択を選んだ。


「そうだね」


***


 亜妃の家に戻っても、亜妃はいなかった。どうやら、颯希たちが行った後に出て行ったらしい。棚には十本のナイフが飾れるようになっているが、実際にあるのは五本だけで、残りの五本は亜妃が持っていったのだろう。

 彩里が亜妃の家の棚を引っ張ったり閉じたりして地図を――もしかしたら紙とペンを――探している。それまでゆっくりとしてねー、とまるで自分の家のような口ぶりに驚きながらも、滉も亮もお構いなしにくつろいでいるので颯希もくつろぐことにした。何と言うか、忍びない。


「あったー!」


 彩里が言った。どうやら彩里が捜していたところとは全く違うところ、しかもわかりやすいところに地図が置いてあったらしい(滉が言っていた)のだが、彩里はなぜか黒のインクらしきもので汚れている。


「彩里さん、探すの遅すぎ」


 どこから出したのか、滉は本を閉じながらそう言った。


「でも地図を見つけたからいいじゃない」


 笑顔で言い切る彩里は強い。彩里は地図を見て、少し顔をしかめたがそれを颯希に渡した。


「はい颯希、ここの地図」

「ここ?」

「ヴィパルよ」


 思いがけない広範囲の地図が手に入ってしまった。というか、人の家を勝手に捜索してしかも、勝手に物を借りる(貰う)のはどうかと思うが。しかし、地図には『サツキヘ』と端に走り書きがあり、亜妃がわざわざ書いたと推測できる。彩里が顔をしかめたのはこれが原因なのか、と勝手に解釈した。


「じゃあ、それを持って今日は帰るか」


 亮が重い腰を上げながら言った。亮がのびるとさすがに天井にも手が付くようだ。


「そうします」


 地図を自分に当てた。これは大切にしなければ。きっと亜妃がくれた、何かだ。ヒントを見逃すな。そう言い聞かせたのだ。


「また明日」


 颯希はそれを言うと、すぐに亜妃の家を出た。ただ、今度は走らずに歩いてだが。


「亜妃は大変ね」

「ああ、そうだな」


 彩里と亮の会話に、滉は不思議に思った。


言葉の勢いがなくなってきているけどそれはそれ。

なんだかつまらなくなってきてるけど、それもそれ。

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