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52-イエジ-

 光の中は何もかもがあり、何もないようなそんな気分になるものだった。ヴィパルに来るとき、空を通っているような気分とは違う。あたりがまぶしすぎて何も見えないのか、そこにあるものがないような不思議な感覚に陥った。


「うっ」


 突然、目の前に色が飛び込んでくる。そして、前に勢いよく放り出される衝撃。突然のできごとに困惑していたら颯希の体を滉が受け止める。


「あ、ありがとう」

「気をつけろよ、そこ」


 足元を見ると、雨に濡れたのかぬめっている地面があった。ヴィパルにあったずっと日陰の林より全然どうってことないがどの先には流れを増した川がある。わざわざ、こんなところを選ばなくても。そう思い滉の顔を見るとやはり暗い。


「二人共、こっちにいなさい」


 亮だった。道路のわきに腰掛けている。その近くにはベンチがありそこには亜妃がいた。


「ああ、ドゥッチオが来たよ、ほら」


 亜妃が顔でそれを示す。ドゥッチオは地球に来れたことを確認すると颯希達とは少し距離を置いた。

 滉は颯希を引っ張ってベンチの方へ行った。


「最後は彩里か」


 颯希が言ったとき、彩里が現れた。きゅうに現れるものだから少なからず驚く。


「おお」


 ぐらっと彩里の体が傾き、そして持ちこたえた。


「あっぶなー」


 言いながら後ろを向き、ぎょっとしてそそくさと亮のもとへ。


「全員揃ったわ」


 亜妃がベンチから飛び降り、ドゥッチオに近づく。


「よろしく」


 ドゥッチオは無愛想にいきなり両手を地面につけた。それが時を戻す合図だと知らなかったので少し虚を突かれた。


「お前たちの記憶は保証してやる」


 景色が逆流し、自分の体が縮んでいく時、ドゥッチオが言う。


「ただ、ここからの未来は、保証しない」


 思わせぶりな態度に、消して未来を繰り返さないと心の中で誓う。


「消して変えさせない」


 亮が言った。彩里も頷き、滉は眉間にしわを寄せる。


「あたしは絶対に、ヴィパルには戻らない」


 亜妃の発言にドゥッチオは驚いたように目を見開いた。


「ジェラルドはどうするんだ?」

「……忘れないわよ。ただもう、あっちから願わなきゃ、会えないだけ」


 その声が、少し切ない。颯希は亜妃を見てからドゥッチオを見る。


「わたしの祖母が地球に来てしまったのはなにかの不注意だと、王は言っていた。本当かどうかはわからないけど、きっとそれが真実なのだろうと思っている」


 どこかへ歩いていくドゥッチオに颯希は言った。


「未来の記憶があるものがいるのなら、未来は変えられる。わたしたちは、決して同じ未来をたどらない」


 そこで、ドゥッチオが振り向く。


「……そうだな、お前たちの動きを少し遠くから見ることにするさ」


 そして、記憶が途絶えた。


***


 目を覚ましたとき、体が思い通りに動かなかった。中学二年の体から一気に小学二年生の体に戻ったのだ。景色が変わり、服がぶかぶかだった。周りを見ると、まだ誰も立ち上がっておらず周りには一回りも二回りも小さくなった四人がいた。風が吹いて、髪がなびく。そのまま静かに立ち上がり、空を見る。



 颯希という王家の印を持つ者が生まれた原因は祖母だ。なぜ祖母が地球に来てしまったのかそれは皆目不明だが誰もが自然と出来てしまった空間の歪みのせいだ、と言っていた。ジェラルドの能力は空間操作。歪めることもできるだろうが、先ほど見た光景により基本的には裂いて空間をつなげるようだ。

 王はそんなジェラルドの能力を買い、地球へ攻めるなどという大義名分のもとで、この地域だけに集中してジェラルドに能力を使わせた。


 つまり、颯希の祖母を探すために。


 彩里は、能力者はヴィパルを創り上げた賢者の末裔だと言っていた。それがなぜ、日本で生まれ、日本で育ち、ジェラルドの能力によってヴィパル行くことを強制された四人に備わっているのか。颯希が会ったヴィパルにいた地球人の中でなぜよりによって四人が、そして、その全員が能力者だったのか。


 目を閉じる。もう一度風が吹いた。ぶかぶかな服が体から滑り落ちる。


 普通に考えて、賢者は地球にもいた、ということになるのか。その賢者がいたのか、その賢者が本当に能力者だったのかそしてその能力は、洗脳の力により使わされていたのか。過去はわからない。ただ、ヴィパルの者たちは自らの命が危機に瀕するときに能力が開花するようになっている。もし、颯希の祖母のように誤って能力を持つ者が地球に来てしまっていたのなら。

 

そう考えれば、地球にいる人も能力を持つ人がいるという説明はつくだろうか。颯希が出会った否――この場所に住んでいる人々は能力を持つ可能性が高かった、つまり一番ヴィパルとつながっているのだと考えて良いのだろうか。

 疑問は疑問のままに終わった。


 そして一人、また一人と目を覚ました。


「おはよ」


 声をかけると、全員が颯希の方を向く。


「おはよう、颯希」


 彩里が答える。高校生一年まで遡っている彩里は颯希が知っている彩里よりも子供らしさが漂っていた。


 颯希自身の考えで、もしかしたらこの地がヴィパルに一番近い場所でそして能力の才能を持つものが多いのではないかと推測された。祖母はここに来ていることを、王は分かっていたのだろうか。だからここを狙い、ここに住む者は能力を持つ人が多いのだろう。


「全員、住んでる場所が近いってのはなにか意図があったのか?」


 頭を押さえながら亮が起き上がった。滉の頭が直撃していたからである。

 亮の動きと同様に滉も起き上がった。頭を押さえて。


「もしそうだったら、感謝すべきなのかボコるべきなのか」


 彩里と同じく高校一年まで戻った亮と颯希と同じく小学二年生まで遡った滉がいる。滉は言った瞬間に頭を叩かれた。少し声が高くて滉に至っては幼い外見からは思えないような発言が飛び出しているからだろう。


「いったー! 亮ちゃん、言っとくけど俺今、七歳だかんな! 小学二年を叩く高校生なんて見たくないぞ!」


 軽く涙目になった滉の反撃に亮は気圧されたように「わ、悪い」と詫び入れた。亮はいつもの調子で滉を叩いてしまい、少なからず申し訳ないと思っているようだ。


「それはそれでいいとして、早く戻らなきゃ。服もぶかぶかだし、ここにこんなに子供がいるのはなんか目立つ」


 亜妃が言った。きっと、元々が高校一年で小学五年生だろうか。


「じゃ、次の日曜日、あそこで」


 颯希が切り出した。全員が頷き、そのまま家路についた。


***


 颯希にとって、長いような短いような、あっという間だった数日感が終わる。そこで、友を得て、恋を知り(?)、戦い、成長した。戻った六年を、どう過ごすかにより未来は変わる。未来は、変わり続けている。その新年を持ち、これから六年平凡に過ごしていくのだろう。きっと、生涯に忘れることのできない体験だ。時折感じる、見張られているような視線にもなれてしまえば不自由なことはない。あとは、王が一言同じ命令を出さないように。同じ未来をたどらないようにそれぞれ祈り、行動するのみだ。


あと1話ありますよ^^

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