51-ワカレ-
今日で最終回まで行きます!
みなさま、あと少しお付き合いくださいっ!
全員が言いたかったことを全て言い切ったのか、亜妃から合図が入り、リナはドゥッチオを向く。
「貴様、わかっててこの案を提示したな」
ドゥッチオは何を言っているのかわからないのか、それともそういう演技か、無言だった。
「記憶も、成長も、その戻す対象がいる世界の時を戻せる。……しかし、私は気づかなかったが戻した時は再び進みだすと必ず同じ未来をたどる」
ドゥッチオはリナの方を見ない。リナは眉間にしわをよせ、ナイフを構える。ドゥッチオの首元にだ。
「答えろ。……同じ未来をたどるのは、今回のような国単位で動かすものだ。私たちが子供たちのために城に入ったとき子供たちのいる牢屋のなかだけ時が戻されていた。成長も、記憶もだ。そのぐらい小さな舞台だった場合、未来は他者からの影響を受け変わる」
一旦切り、息を吸う。ドゥッチオの首元のナイフがキラリと光る。
「貴様は地球への逃亡を祈願した」
「ああ」
少し枯れているような、しゃがついた声だ。
「六年間、長い時間だ。ヴィパル・地球ともにそれほどの時間を戻す。そして、記憶の残っていない者たちはまた、同じ行動に出る。……わかっていたのだろう? 繰り返される未来だ」
目の前の男の目がこちらを鋭く掴んだ。だが行動を起こす気配はない。
「亜妃とジェラルドの会話、聞こえてたか?」
首を振る。何を言い出すと思えば、盗み聞きでもしていたのか。
「ジェラルドの時を戻したあと、亜妃は自分の記憶をジェラルドに全て流し込むつもりだ」
驚きはしたが、別にどうとは思わない。二人が特別な間柄なのは周知の事実だし、驚くものではない。
「だからなんだ」
「俺の想定外の行動で、未来が変わる」
言葉と同じ意味を込めとリナはドゥッチオを見る。
「……六年時を戻すとしよう。今回は俺がいたから、全員、幸せだ。だが、次は俺がいない。未来は変わる」
ドゥッチオは首元に当てたナイフに触れる。そして、それをリナが思わず見とれるような動きで流れるようにナイフを抜き取った。
リナは一瞬、言葉を失った。
「なっ」
「未来は変わる。俺が何もしなくてもな。途中までは繰り返されるさ」
そして笑う。あざとい笑いだ。リナの光る眼光に微塵も怯えない。
「主人がいなくなったラド家はどうなるんだろうな」
その一言に、無性にイラついた。
***
「王様、ではお願いします」
ペコリと簡単に頭を下げる。王はシモーナの力を借りて起き上がり、頷いた。
「ジェラルド」
少し声を張る。空を見上げていたジェラルドはこちらに軽く一礼すると王のもとに跪いた。
「はい」
ジェラルドの声は全員の耳に届くほど澄んでいた。そして王は、口を開く。
「この者たちを、地球へ返してくれ」
数秒のだんまり。ちらりと亜妃に目をやってから頭を下げた。
「仰せの通りに」
そこからはまるで流れるような作業だった。
まずはじめに、ドゥッチオが能力を使いヴィパルの時を戻した。世界の動きが止まったかと思うと、後ろに引っ張られるように周りの景色が逆戻りした。声を出しかけたが、その声が出なかった。時が戻る途中で、そういうことができないのか。亜妃とリナ以外は皆驚いて、固まった。
気づくと、王やシモーナそのほかの七人才らは気を失っているのか倒れていた。静かな空間がそこに現れた。
そして、ジェラルドが宙に指どうしで組んだ手を挙げたかと思うと、そこからいきなり空が歪んだ。手を離し、ゆっくりと横にずらしていくと少しずつだが、白い空間が顔を見せる。思わず見とれてしまい、声をかけられるまで気づかない。
「ここから、亜妃がきたところに繋がっている。お前ら全員が、住んでいたところだろう」
空間の裂け目から溢れ出る光でジェラルドの後ろ姿の輪郭がぼやける。彩里や亮、亜妃、滉。少し前の会話で、全員が同じ市内に住んでおり、近所同士だったことはわかっていた。颯希の祖母を探していたのか、ジェラルドはそこにいる人間を定期的にヴィパルに引き込んでいたようだ。
「てことで、じゃあ」
こちらへどうぞ。そう言いながら、振り向き空間を示す。一番初めに裂け目に近づいたのは亜妃だ。
「……俺との記憶、忘れんなよ」
「大丈夫よ。あなたもどうやら、ドゥッチオの能力にかかわらなくて済むようだし、ね」
亜妃は言いながらドゥッチオに視線を飛ばす。少し離れたところにいたドゥッチオはそれに気づくと、すぐに視線をずらした。
「ジェラルド、もし会いたくなったら地球に来ちゃえば?」
ずっと言いたかったのか、亜妃がそう言った。ジェラルドの額に、背伸びをして自分の額を重ねている。あれ、滉でやったら気持ちとか全部読み取れちゃうなーなんて考えながら、颯希はリナの方を見た。
「そうだな、行った時はよろしく」
そう言って、二人は笑う。亜妃の発言も、ジェラルドの発言も、どちらも本気で言っているのかいまいちわからなかった。ただ何か、通じ合えたようだ。
「亜妃様」
颯希に見られていることを感じたのか、リナが亜妃に近寄った。いい感じの雰囲気だったがリナは何も考えないのか。そう思ってから、考え直した。リナをジッと見ていたのは颯希の方である。
「お邪魔かもしれませんが」
「何?」
そして、勢いよくリナは地面に正座し、手をつく。俗に言う、土下座。
「ありがとうございました!」
大きな声が、鼓膜を刺激する。今まで何も言わず、見守ってきた三人だったが、リナの声には少し驚いたようだ。
「……私を、絶望の淵から救い出してくれた恩、消して忘れません! 亜妃様がいなくなった今、ラド家の指揮官は何者になるのかわかりません。しかし、私は一生、亜妃様のために盾となり、命をかけると誓った兵士です!」
泣いているのか、地面が濡れていた。立ち上がり、顔を拭いた。敬礼したリナは言う。
「今まで、本当にありがとうございました! 私みたいなものを、使ってくれてありがとうございました! この御恩は、一生、忘れません!」
涙を拭き取ったはずなのに、目から溢れ出ていた。颯希はその心中を考えた。一生の主人をリナは今、無くそうとしているのだ。それはきっと、心に穴があいたような、そんな悲しい気持ちなのだろう。
亜妃は黙ってジェラルドから離れ、そしてリナを抱きしめた。
「ありがとうはこっちのほうよ、いつもあたしの好き勝手に使ってごめんね。今まで、あたしのために働いてくれてありがとう」
リナはそこからしばらく泣いた。押し殺したような泣き声が途中からまるで小さな子供が駄々をこねるように泣きじゃくった。亜妃の肩が濡れても、まるでお構い無いようで、いつまでも別れの時を惜しんだ。
しばらくしてリナが落ち着きを取り戻したとき、亜妃は深呼吸をする。
「じゃ、みんな先に行ってるね」
そう言って、裂け目に吸い込まれた。
一瞬で消えたその姿に、少し驚きながらしかし全員が一歩を踏み出す。
「ああ、一人ずつな」
割と大きめな裂け目だが全員が同時に入ることはできないようだ。
「次、俺が行く」
そう言って亮が行く。一歩踏み出したとたん、光に吸い込まれて消えた。
「滉、行きなさい」
「彩里さんは?」
「私は最後に行くわ。滉の次は颯希よ」
彩里から言われたことに頷いた。
そして滉が歩き、吸い込まれた。次に颯希が行く。ちらりと後ろを見たとき、彩里がドゥッチオを呼びかけているのが目に入った。最後にドゥッチオが来なければこの計画は成功しないのだろう。
そして颯希も、光に吸い込まれた。




