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42-ノウリョク-

題名は王族の、です。

「王族の能力は洗脳だ」


 ドゥッチオが言ったのはリナにとって想像もしていなかったものだ。


「それは……子供たちを誘拐した時にしたことか? それなら亜妃様で事足りると思うのだが」

「亜妃とは違う。あいつがやるのは洗脳ではなく、記憶の改変(・・・・・)だろ?」

「さして差はないだろう」

「あるんだな、これが」


 ドゥッチオは苦しそうに笑い言った。


「つまり洗脳で、国民全員操ってんだよ」


 驚いた。目を見開いてドゥッチオを凝視する。相手は視線をそらさずにリナをしっかりと見た。


「昔から、王家の印が出た者だけがこの能力を使えた。完全に相手を支配する能力だ。近いモノで言えば、記憶を操る亜妃や、心を読めるシモーナだ。七人才は国に必要だとされた者がいる、というが本当のところどうなんだろうな」

「……どういう意味だ」


 聞かなくてもわかっていた。話が現実離れしていると思った。


「……監視だろ」


 吐き捨てるようにドゥッチオは言った。まるで今まで、それにうもれていた自分が恥ずかしかったかのように自分でも、気分が悪いように顔を歪めて。


「だから逃れたいんだよ。この国と、王族から」


***


 地面に足が食い込んで、そこをばねにして後ろに飛んだ時、でかい何かにあたり、滉はバランスを崩し前に倒れた。


「な、んだ!?」


 勢いよく首を振り確認する。そのままそれと対峙するように構えた。だがそこに合ったのは亮の背中だ。


「亮ちゃん!!」

「ん、滉か、すまん」


 手短に謝った亮はすぐに移動した。滉は自分の敵を見てから、亮を追いかけた。正直もう体力の限界が近づいているのだ。


「待って亮ちゃん、俺もう倒れそうなんだけど」

「それは俺もだ、第一能力者に俺等の能力は太刀打(たちう)ちできない。二人とも近づけないしな」


 二人は話しながら、走り、目の前の森を目指した。亮が滉の戦いを見ていたことに驚きながら。


「森伝いに逃げよう、俺たちの目的は亜妃を逃がすことだ。いちいち敵をすべて倒す必要はない」


 それに頷いた滉はちらりと敵を見た。

 逃げていく二人を、二人と戦っていた敵がきちんととらえる。初めに亮と戦っていた奴が、


「敵前逃亡か!」


 と言ったのをきっかけに、二人は一斉に亮たちを罵倒し始めた。もちろん、追いかけてだが。


「そんなに俺が怖いのか? ホント、お子様だな!」


 これは滉に。


「分かっているだろうが言っておく。私の能力解除は、もう一度私が同じところに触れ能力を解除するという明確な意思を持ってやらなければ解除されないのだ!!」


 これは亮に。自ら能力をばらすなんて馬鹿かと二人で同時に思いながらしかし二人は、聞いていないふりをして森の中に駆け込んだ。


阿呆(あほう)か貴様ら! ここはわたし達が何より知っている土地だぞ、逃れられると思うなよ!」

「そうだぞ! 逃げるな、この腰抜けども!!」


 なぜか、亮たちを煽り立てるようなセリフを吐くダニーロ(滉と戦っていたやつ)だ。マノロがその頭をはたき、亮を追った。両足を怪我しているダニーロの足にマノロが触れながら言った。これで足の痛みはなくなった。


「奴らは体力の限界なんだ、できる限り追い詰めろ」


 マノロの言葉にダニーロは頷き、二人も森に入って行った。


***


「ねえジェラルド」


 亜妃が言った。相変わらずみぞおちは痛い。先程からずっと「ねえジェラルド」を連発している気がしないでもない。


「ん?」


 ジェラルドは、亮と滉が森に入って行ったのを見ていたためか少し抜けた返事をする。


「王の命令なら、絶対に聞くの?」


 目を細めた亜妃はそう言った。ジェラルドは森の方を見たまま、答える。


「そうだ。……俺の、恩人だし」


 それを聞き、亜妃は思った。


 ――ああ、あの話か、と。


***


 まだ亜妃が七人才に入ったばかりの、つまるところヴィパルに来て一年ぐらい立った頃、能力が目覚めたばかりで怯える毎日のある日、ジェラルドが話した。

 それは、どういう心境だったのか、どうして亜妃に話したのか分からないが、亜妃にとって唯一信用ができる

事なのだと、亜妃は後々考えた。


 誰もいない七人才の部屋に二人は適度な距離をおいてその部屋にいた。ある日突然攻撃を仕掛けられ、無理やりでも彩里たちのところから離された亜妃にとって、ジェラルドのことを信用していなく、だから警戒していた。


「なあ、お前、自分の能力がなぜあると思う?」


 突然問いかけられた問いに、亜妃は戸惑いながら答える。


「……わ、分かりません」

「だよな、でも、いつ使えるようになったかぐらいは分かるだろ?」

「……はい」


 それはもちろん、狩りに行った日に、襲われてから。

 短い亜妃の言葉に、ジェラルドは何を思ったのか亜妃が座っていたソファあの隣にドカッと座り、亜妃の顔を覗き込んだ。


「硬いな、お前。もっと笑えよ。せっかくかわいい顔してるのに」


 少し悲しそうなその顔に、亜妃は困った。思わず目を逸らし言った。


「わ、笑うのは、いやです。……あたしが、地球――日本、から来てるのは知ってます、よね。……あのあたし、その日本の学校という、同世代の子供が、えと、大勢集まるところでいつもいじめられてたんです」

「いじめ?」


 自分で、その説明をするのか。少し気分が下がる。


「悪質な嫌がらせをすることです。それで、それがすごく苦しくて」


 ここまで言って、ふと止まった。こんなことは、彩里たちにさえ言っていない。それをなぜよりにもよって自分を痛めつけた人物に話しているのか。しかし、途中で止めてもその言葉は留まるところを知らなかった。歯止めがきかなくなったように、今まで感じていたことがすべて、溢れ出す。


「苦しくて、苦しくて、ホントに、つらくて。何度も死のうって思って、何でいじめられるのって感じて。それで、途中で気付いたんです。ああ、あたしがみんなと、違う姿をしているから、あたしがみんなから見て、異端だと感じられたからなんだ、って。もうそうしたら悲しくて、親に相談しても変わらないし、ホントに、ホントにもう、だめだって思って」


 実をいうと、ヴィパルに来る前だって自殺を試みていた。通っている学校の敷地内で、自分がいじめていた子の死体を見つけたらどうだろうか、という思いが微かにあった。


「お前、あの村みたいなところにいたときも笑っていなかったのか?」


 ジェラルドは少し、驚いたように言う。

 言葉に詰まった。


「それは……」


 困った。笑うことを意識し始めたのはいじめにあっていたころだ。いじめる方は、自分がいじめているのに笑っている相手を見ると余計にムカつくようだったから。しかし、笑うことを意識しなくなったのはヴィパルに来て、彩里たちに出会ってからだ。二人に出会ってから、笑うことが苦にはならなくなっていた。


「……なら、笑えよ。笑うっていうのは、いいぞ? 気持ちが明るくなる」


 顔を覗き込んでいたジェラルドは、前を向いた。その横顔に亜妃は見惚れた。それは、好きだとかそういう恋愛的な感情ではなく、単純にいいと思える言葉と、顔だったからだ。その横顔は強い意志のある顔で、少なからず勇気が持てた。


「そういう、ものでしょうか?」

「そういうもんだ」


 恐怖から出ていた敬語に、少し暖かみが出ていた。


「ま、というのも王の受け売りだがな」

「……は?」

「王様が言ってたんだ、俺が七人才のトップに王の直属の部下として、最高の地位に立つときにな」


 そう言うジェラルドの横顔は、昔のことを思い出すように、顔が緩んだ。


「それはつまり、その言葉は王様が言っていたということですか?」

「そうだ」


 ジェラルドは頷くと、(おもむろ)に過去の話を始めた。


「……俺がまだ、治安が悪いころの王都郊外にいたころの話だ」


 突然言いだしたジェラルドに驚いた亜妃だったが、何も言わず、静かに聞いていた。今は静かに、ジェラルドの話に耳を傾けるべきだと思ったからだ。


「俺は、一度飢え死にしかけて、つまり、命の危機に瀕した時だ。能力が開花した。初めは、夜寝て朝気が付くと違うところにいたとか、無かったものが目の前にあったりとか不思議なことが起きた。当然、俺とつるんでいたやつらは、俺から離れて行った――――」



まさかのここであいつの過去編ぶち込みますw

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