43-過去 ジェラルド-
王都郊外西地区はここ数年で治安が格段に良くなった。というのも、治安が悪い部分だけを取り締まる、そんな人物が現れたからだ。
名を、ジェラルド。
彼は金髪に青い目を持っており、その髪は太陽に当たると光輝いた。
しかし、そんな彼も元はこの治安の悪い地区出身者である。ある日突然目覚めた能力により、彼は王の守りのもとに活動をしていたのだ。
その目覚めた能力とは何か。なぜ能力があるとわかったのか。これを知るには数年時を戻す必要がある。
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治安の悪いところにはそれに似合う、不格好で汚い者たちが集まるものだ。類は友を呼ぶというのか、そういう者が集まると、新しく来る者も大抵はそうだった。柄も悪く、たまに町に乗り出しては暴動、騒ぎの中心には必ず郊外の人間がいた。
ジェラルドも類にたがわず、その中の一人だった。
たまに町に繰り出しては金に換えられるものを盗み、食品を盗み、盗んだものを換金しては、のぎりぎりの生活をしていた。ジェラルドの周りには三名の仲間がおり、彼にとってこの生活は苦が多いが少なからず平和だった。
そんなある日だ。
いつも通り街に繰り出し、いつも通りの盗みをしようと考えていた矢先、郊外の人間が街に入ることを禁じられた。
もちろん、その程度で引き下がる奴らではないが、一歩でも踏み入れれば町を警護する人々により瀕死の重体を強いられた。
それはジェラルドの仲間の一人も例外ではなく、一人だけが瀕死になり、しかし一命を取り留めた。
ただ、そのときの仲間の身体が、あまりにもぼろぼろで、それを見た周りの人々は町に入ることに恐怖を覚え、町に行くことをやめた。
しかしそうなっては生活ができない。そこで起きたのが、地区内での争いだ。はじめは誰だったのかわからないが争いの火種はすぐに地区全体へと広がった。
そんなある日のことだ。瀕死の重体になり、しかし、一命を取り留めた仲間のためにわずかな食料を争いでかすめとったジェラルドは、あまりの空腹に倒れた。それを見かねた仲間がジェラルドの持っていた食べ物を食べさせるが受け取れるほどの元気が既にない。仲間に回すことが精一杯で、自分自身が十分な食料をとっていなかったのだ。
「おい、おい」
仲間の一人が呼びかける。しかし、返事がない。
この時ジェラルドは感じていた。体の中で、ボワッとまるで陽がともったような暖かさが宿ったことを。この暖かさが逆に恐怖で、ジェラルドは身近に迫る死を覚悟した。
夜が来た。
ジェラルドは未だ暖かい自分の体を不思議に感じながら、眠りについた。次に目覚められるのかどうか不安を抱えながらもジェラルドは眠った。
次の日の朝、ジェラルドは目覚めた。というよりも、誰かによって起こされた。
「おい、誰だコイツ、昨日こんな奴いたか?」
「いや、さっきまでいなかったぞ」
「はあ? なんだこいつ?」
男の会話が聞こえ、腹に蹴りを入れられ目が覚めた。一瞬、眩しい光に目がくらむ。
ジェラルドの目の前に広がっていたのは、広い草原と川。あきらかに夜、寝ていた場所とは違った。
「どこだ、ここ?」
ポツリといった疑問に、周りにいた男二人は顔をしかめた。
「はあ? おい、やっぱりこいつへんだぞ」
「何だァ? 記憶がねえのか? どこから来たんだ、お前」
ひとりの男に問いかけられ、ジェラルドは頭をひねる。確かに、こんなところに来た記憶はない。それどころか、ここまで来た道も、帰る道もわからない。
「おい、どこから来たんだって言ってんだ、言え」
王都郊外西地区。そういえばどこだか分かりたいていの人間が怯える。言っていいものか。
「おい」
いや、ここは言ってしまおう。もしかしたら死んでしまって違うところに来たのかもしれない。
少し自嘲気味になりながら、ジェラルド言った。
「……王都郊外西地区」
とたんに二人の男は、驚いたように目を見張る。
「そんな遠いところから」
二人の反応に少し驚きながらジェラルドは考えた。
王都郊外といっても、一応王都に含まれている。一晩あればヴィパルのはしとまではいかないがたいていの距離は移動できるはずだ。
そうなれば、早い。ジェラルドは国の地図を頭に思い浮かべる。川が流れているのはヴィぱるを四分割した時にちょうど地図の右斜め、南地区と東地区だけだ。
「なあ、あんたたち。王都郊外、知ってるのか?」
確かめるように言う。
「ああ、もちろんだ。あんたそこの流れもんかい? あそこ最近、余計治安が悪くなるってんで、逃げてきたやからが何人かいるんだ」
なるほど、反応が薄いのはこのためか。
「ここはどこだ?」
「ここは、そうさな、一番王都から離れたところ、ってかんじか」
余計自分がここに来てしまったのが不思議になる。自分でもわからない、というような顔をしていたのか男二人は不思議そうだった。
「ま、戻りたきゃゆっくり戻れ」
「俺たちゃ、もうお前に関わんねぇからな」
そう言うと男二人は歩いて行った。やがて姿が見えなくなると、ジェラルドは一人になった。広い空の下、考えることはいくつもある。だが。
「腹が減らねえ」
何か食べたのか。そう考えるのが妥当なのか。昨日寝てからの記憶がまるで、ない。とりあえず戻るかと腰を上げたがどう来たのか分からないから戻り方も分からなかった。
ジェラルドはその日、一日をかけ川伝いに移動した。なにせ川は、王都にとっても唯一の水産資源だ。いずれ王都に着くと踏んでのことだった。そして再び夜が来て、ジェラルドは眠った。不思議と腹が減らない一日だった。
次の日、ジェラルドが目を覚めた場所は再び違っていた。いつもの場所で、いつもの格好で、つまりは王都郊外で目覚めたのだ。
「よかった、目が覚めた」
「いつの間に帰ってきたんだ? 昨日一日どこ行ってたんだ?」
周りの仲間に質問攻めに合うが、ジェラルドは自分の身に起きた不思議なことを誰にも言わないでおこうと決めた。
しかしジェラルドは次の日も、その次の日も。今度は郊外からでなくなったが場所を構わず、誰の上だろうと構わず眠る様になっていた。こればかりは、喧嘩を売ったと考えられたり、気味悪がられたりする。ジェラルド自身、何故そうなっているのかわからなかったから、弁解の余地もなく仲間はひとりひとりと離れていった。
その要因はほかにもあり、ジェラルドはほかのやからが手に入れた食べ物を自分の目の前に移動させることができたのだ。俄然、喧嘩になり、人数が少ないジェラルドたちは争いにいつも敗れていた。
つまり、ジェラルドの力なのかほかの何かなのかわからないもののせいで郊外では余計治安が悪くなっていった。
そんな中、王様の視察という大義名分が果たされるという知らせが回ってきた。いつものように、今度は離れた仲間が助けてくれるわけでもなく、しかしいいように殴られ、ボコボコにされたジェラルドはそんなことを知る由もなく、その日は訪れた。
その日、彼らは柄にもなく静かだった。なんだかんだで自由なこの土地を気に入っており、それを王の一言で奪われてはたまらないと考えた、彼らなりの知恵の形だった。
「おい、そこの金髪」
それはジェラルドにも要求されることだ。怪我が治りきっていないジェラルドにとってそれは至極、面倒で迷惑なものだったが。
「仲間の振りでもなんでもいい。できないなら身を隠せよ」
言うだけ言って去っていった。もう誰も、ジェラルドとつるむ気はないようだ。喧嘩の火種となるものとは、なるべく仲良くしたくないというのが本音なのだろう。
一人になって、自由だとはしゃぐことなく、誰かに頼ろうとする自分が悔しかった。自分に身の覚えのないことが次々と起こること、その原因をかならずジェラルドにされてしまう事は少なからずイラついた。しかし、例えば食料が、自分の目の前にあってそれを知らないというのはかなり白々しい犯行なのだろう。
死にかけたあの日から変わった自分を、自分で殺そうと考えた。
「はて、なぜお主だけがここにおる?」
声が聞こえ、はっとしてジェラルドは上を向いた。
少し年のとった、しかし溢れんばかりの覇気をまとった人物がいた。上等な服を身にまとい、何人かの男に囲まれた人物だ。明らかにここにいる者とは違う、王都に住む者だと物語っていた。まさか王様か? 浮かんだ考えをすぐに否定する。いやそんなわけない。この汚い自分に話しかけるような人物が、王のわけないだろう。
「主に聞いておるのだ、答えんか」
そう言われても。考える暇もなく、言葉がぽっとでてくるような脳には、ジェラルドはなっていない。
「王、そんなに近づいては危険です。離れてください」
「かたいことを言うな。外見的には一致しておろう?」
「……はい。しかし、違うという場合も」
「ああ、つべこべうるさい! おいお主だ。聞くがお主、身に覚えのないことで争いの中心になっているらしいの」
そう言われハッとした。ああ、王は自分を、争いの火種を捕まえに来たのだな、と。そう考えるとジェラルドは納得した。
「ああ、そうだ。早く俺を捕まえろ」
久しぶりに発した声は思いのほか萎れていた。こりゃあ、死ぬのも時間の問題か。そう思い、頭をたれた。思わず笑みが溢れる。
「何言っておる、お主を捕まえるために我々が出向いたのではない」
「……は?」
「お主、自分の能力が怖いのだろう? 自分が何をしているのか、何になっているのか知りたいじゃろ?」
言っていることがわからなかった。ただ、自分が何者なのか知りたいと思ったのは事実だ。
ジェラルドの瞳の揺れを感じたのか王は、ニッコリと笑い言った。
「来なさい。私がお主に、すべてを教えよう」
伸ばされた手は光り輝いていて、自分が触れれば壊れるのではないかとジェラルドは思った。だが、王は伸ばされかけたジェラルドのその手をしっかりと力強く握った。
「良い手じゃ」
ボロボロになったジェラルドの手を王は褒めた。ジェラルドは目頭が熱くなり前を向くことができなかった。
その後、ジェラルドは馬車に揺られ、王都の中にある王宮に足を踏み入れた。馬車の中である程度の手当を受けたが、ジェラルドの汚い格好は王宮の中ではひどく異端に見えた。
「こっちじゃ」
少し楽しそうに、王は手招きをした。ジェラルドは吸い込まれるようにそちらについていった。
そして聞かされたのが能力についての話だ。なんでも、瀕死に近い状態になり、素質がある人なら開花するモノらしい。能力の祖先は、ヴィパルを作ったとされる賢者のチカラとかなんとか。それを継ぐ者があらゆる不思議な能力を持つらしい。
「そして主が持ったものは、空間操作の能力じゃ」
勝手に移動していたのも、目の前にモノが現れるのも、その能力のせいだった。
「私には主が必要だ。そのために力を貸してくれ」
差し伸べられた手は、ジェラルドを郊外から連れ出した時と同じく光り輝いていて、そして、壊れそうなくらい眩しかった。ジェラルドはこらえきれない嬉しさを噛み締めて、その手をしっかりと握った。出て行く時よりも強く、しかししっかりと、強い意志を持った潤んだ瞳で王を見た。自然と涙が溢れ出す。嬉しかった。必要とされ、気味悪がられもしない。止め用のない涙で目の前がぼやけた。
「……はいっ!!」
ただその顔には、晴れ晴れとした力強い意志だけが強く残っていた。
まさかの過去編←
でもあと10話ぐらいだからあと5日で終わるかなこれも。
そこまでのあいだ、皆様見捨てずにお願いいたします<m(__)m>




