38-ツタデ-
ご都合主義はいつものこと←オイ(゜Д゜)ノ
颯希は、エルシリアに向かって行った。戦うといっても、颯希は空手しか使えないため、植物を操る相手には不利ともいえた。伸ばしてくる植物の茎に構わず進んで行ったが、エルシリアは植物のツタで自分の前にバリアを作る。
「マジでっ!」
驚いて止まり、その反動で後ろに回る。後ろはまだ作りかけだったのか拳一つ分はいる隙間が残っていた。罠か? 思ったが思いっきり右ストレート。
「うっ!」
エルシリアの声が聞こえる。――入った!
しかし、抜こうとした瞬間に手首を植物に絡め取られる。
「ちょっと、離して」
みしみしと手首が鳴る。このまま強く穴を閉じようとすれば、確実に折れる。ツタが――否、何かの茎かもしれないが――颯希の腕に力強く巻きついていく。隙間から見えるエルシリアが微かに笑った。狙っていたのか。
手首の周りの草はなぜと問いたくなるような強度だ。
「くそっ」
言ったところで何も変わらない。植物はどんどん絡み付いてくる。手首から、腕、肩とどんどん伸びてきた。とりあえずムシってみるが、相変わらず伸びてくる。そうこうしているうちに足首にも絡みついてきた。
「何よこれっ」
「見ての通りツタよ。わたしのお気に入り」
伸びてきたツタは、颯希の腕を締め付けた。固定されて、動かなくなっていく。細いツタのところは皮膚から血がにじみ出てきた。
その時、隣からナイフが飛んできて、ちょうど足元に刺さった。足首のツタを切ってくれた。リナだ。滉を挟んで隣にいたが、争いの隙間を縫って飛ばしてきたのだろう。すごい腕だと感心する。
「ありがとっ、リナ!」
使い慣れていない左手でナイフを抜く。エルシリアを囲っているツタのガードから手首の周りのツタをぐるりとくりぬいた。ただ、切ったところからどんどん埋もれていくのでざくざく切って勢いよく抜く。
「っ抜けた!」
力が抜けていくのを感じる。手首を見ると、赤い筋がいくつもあった。利き手をけがしてしまうとは失態だ。
「まだ終わってないわよ」
エルシリアはツタを勢いよく飛ばしてきた。目の前に来るのはナイフで切っていた颯希だが、両手両足をツタに取られる。抵抗するがそのまま宙に上げられ、動こうにも動けなくなる。地上約、十メートルといったところか。
「景色はどう?」
「……最悪ね」
颯希の声が聞こえたからわからないが短く会話を交わすと、エルシリアは颯希をツタから離した。悲鳴も出ないまま落下した颯希だが落下直前に掴まれる。閉じていた目を開けると掴んでいたのはツタだった。
「もっといい顔しなさいよ、ほら、怖がって」
最悪な性格をしているようだ。地上まで十センチあるかないかで止めるなんて。しかし、これほど近ければ颯希にも考えがあった。右手に持っているナイフををしっかりと握り、下に向かって勢いよく回す。少し手首を傷つけるがそのままの勢いで右手首を自由にした。そのまま左手のツタを切り、勢いよく体をひねる。それで切れることを望んいたが、そうはいかなかった。ひねったついでに足を近づけ素早くそのまま切り、後ろにある森に隠れた。エルシリアは何も言わずにそれを見ていた。
息が乱れる。植物しかない森は、エルシリアにとっては恰好の狩場だ。それに気づいた颯希は軽く舌打ちをして、なるべく音をたてないようにエルシリアから距離を取る。武器は空手とナイフだけ。攻撃系の能力が目覚めないかと思う。
「隠れても無駄よ」
距離を取ってるはずなのに、エルシリアの声が近くから聞こえる。
「全部見えてるわよ」
後ろだ。遠くにいたエルシリアは形が崩れる。色が付いた葉だったのか? 考える暇もなく、足をツタで転ばされ、そのまま後ろを取られた。一瞬、その恐怖で身体が固まった。
「分かるかしら、これ」
ゆっくりと振り向いた。エルシリアの顔から楽しみがにじみ出る。颯希の首の後ろには尖った葉がある。少なくとも颯希にとっては知らない植物だ。
「これ、わたしが作ったのよ。葉は何よりも鋭くて、触れるとそこから毒が出るの。神経毒がね」
「……神経毒? 何でよ、さっさと殺したほうがあんたらにとってはいいんじゃないの?」
くだらない質問だ。神経毒で助かった。動かなくなるだけだ。とりあえず死にはしない。
「あら、神経が全部麻痺してる相手を甚振るのがいいのよ」
「神経が麻痺してるのに? きっと悲鳴も何も出ないわよ?」
「いいのよ。毒がどの程度回ることをあなたはあとで実感するでしょうけど、毒が切れた時の痛みは……たまったもんじゃないらしいわ」
最後の言葉は颯希の耳に囁くように行った。とたんに、全身が恐怖で麻痺する。
最低だ。最悪だ。趣味が悪いにもほどがある、と思った。
「……最低ね」
エルシリアは笑って
「どうもありがとう」
と言う。何なんだよ、こいつ。その時、エルシリアが言う。その命令に逆らえなかった。
「前向いて。忘れてたら教えてあげるけど、この葉は何よりも鋭いのよ。これで、首筋を切ったらどうなるかしら」
見るからに危険な葉が見える。忘れてるわけないだろ。神経毒よりこちらの方がよっぽど危険だ。誤って首の動脈を切られたら最後。息を吸う。逃げることしか思いつかない。
葉が颯希の首筋をかすめた。わずかな痛みに伴い血が出る。
「今のですこーし、神経毒が入っちゃった。しばらくは動けないかもね。これ、強烈なのよ」
葉を自分の近くに戻し颯希をツタを使い立たせた。ツタが颯希の身体に巻きついてきた。強く圧迫しているのか、右腕のように皮膚から血がにじんでくる。きつく巻きつかれているはずなのに、痛みを少ししか感じない。皮膚の神経が麻痺している。恐怖が身体をかすめた。
「はあえ」
自分の口から出た言葉に驚いた。ろれつが回らない。顔の筋肉が動いている気がしなかった。
「あら、何言ってるのかしら? ……この神経毒、すごいでしょ?」
ああ、すごい。全身の感覚が麻痺してきた。ツタに締め付けられている感覚がほとんどしない。それでも体の皮膚は、ところどころ血がにじむ。先ほど口を開いて話したことにより、口が開いたまま、ふさがらない。
「じゃあそろそろ、終わりにしましょうか」
エルシリアがにやりと口角を上げる。開いた口から、唾液が垂れてきた。これ、マジでヤバい。
エルシリアは手を振り上げる。先ほど颯希の首筋をかすめた鋭い葉がたくさんついたツタも一緒だ。
ツタで縛られた体の感覚はない、動くこともできない。これはもう、絶体絶命だ。
その時だった。消えていたシモーナが森の中からひょっこり顔を出す。そして、エルシリアを凝視した。エルシリアはシモーナに見られたことに気付きそちらを向く。颯希は首が動かせないのでどうにか動く目だけを頼りにシモーナの場所を特定した。
途端にエルシリアは目を見開き、そのまま前に倒れこんだ。地面に手をつく。息が乱れてるようだった。
何が起きた?
イマイチ状況が理解できない颯希にシモーナが近寄ってきた。
「彼女にトラウマ――能力が開花してしまった原因になったものを――見せたわ」
素早く、シモーナが言う。颯希の手からナイフを取り、ツタを切った。
「彩里さんに神経毒を治せる植物を聞いてきた。エルシリアに出してもらえれば大丈夫よ」
解放された颯希は、身体に力が入らず倒れた。足や腕は圧迫された跡として、たくさんの細い線が残っていた。ところどころ皮膚は裂け、血がにじみ出ている。はたから見れば、思わず震えるような姿だったが、生憎と言うべきか颯希は神経が麻痺していて痛みを全く感じなかった。
「不幸中の幸いってやつ?」
シモーナが颯希の心を読んで言う。笑おうと思っても、頬が動かなかった。
「ちょっと待ってて」
白い髪を翻しながら、シモーナがエルシリアに近寄った。
二言三言会話を交わし、植物ではなく、小さな薬を持って来た。
「これ飲んで」
飲むというのもできないんだよな。そんなことを思っているとシモーナが颯希をあお向けにして、どこから出したのか水をだし、流し込んだ。
「しばらくしてからその痛みの激痛が襲ってくるはず、気をつけてね」
そんなことできるか。そう思うとシモーナは笑ってそうね、と言う。
「ま、とりあえず相手は降参してくれたみたいだから。あとはどっかに縛っておけばわたし達の勝ちよ」
微笑むシモーナに、颯希は動き始めた口で言った。
「わ、たしは、いらなく、ない?」
回復の速さに驚いたのかシモーナはさらに笑って答えた。
「そうね、最終的にわたしのおかげよね」
いまだ震えているエルシリアを横目で見て颯希は痛んできてからだと状況に笑った。




