36-過去 亮、滉-
題名というものはとても難しい(`・ω・´)←
場面は変わり、ある日の夜。亮と男は、大嵐の中でも獲物を取れると互いに豪語していた。
「嘘つけ、お前、この前何にも捕ってこなかったじゃねえか」
「前は前だ。第一雨の格好をしていなかったのに捕ってこれるとでも思ってるのか?」
「おいおい、俺は取ってきたぜ? 何の言い訳だコノヤロー」
「あれは、雨が降る前の話しだろ。言葉使い悪すぎだ」
前、という言葉を強調し亮が言った。言いながらも、二人は楽しんでいた。
「じゃあ、雨の日なあ、絶対」
「ああ、獲物を多くとった方が勝ち。そうだな」
「あー、じゃあ、勝った方が負けた方の言うことを聞くってのはどうだ?」
頷こうとして、止まる。
「それ逆だろ?」
「…………ああ、負けた方が勝った方の言うことを聞くんだな、どうだ?」
「いいだろ、乗った」
そして再び場面が変わる。それから数日が経ったのか嵐がやってきた。いつかの賭けを思い出した二人は意気揚々、嵐の中でかけて行った。
亮は近くに潜んでいた、地球とは違いいろいろな雑種が混ざり合ってできたような不思議な動物を仕留める。親子ずれだったのに気付いたのは殺してしまった後で、胸が痛む。さっと合掌をして動物を手に勝ったと確信しながら洞穴へ帰った。
「いるか?」
亮の声が洞穴に響く。焚火も何もなかったので勝った! と喜んだ。あいつに、何をさせようか。火をおこし、動物をさばいて肉を焼きながら考えた。
亮は洞穴で男の帰りを待っていた。今回は、前の雨の日のように、ではなく亮がとった肉が焼かれているが亮はそれを食べず、腹を空かせながら男の帰りを待っていた。
ふと気づくと、夜が明けていた。雨は強く振り続けている。周りを見ても、男はいない。薪が足りずに燃え果てた焚火の残骸を見て隣の肉を見るが二つあるだけで減ってはいない。亮は途端に心配になり、冷えて、少し硬くなった肉にかぶりつくと男を探しに行こうと決めた。男と入れ違いになってはいけないと思ったのか、石で地面に文字を掘った。
一応、雨に対応した格好になり外に出かける。銃も持ち、あわよくば何かを持って帰ろうと考えていた。川にそう近くない場所からでも、川の流れる音がして、氾濫しているのが分かった。あの流れに飲み込まれていなければよいが。なにせ、男が特いなのは狩猟ではなく、釣りだ。賭けのせいで帰ってこない男の身を案じ続けた。
雨は強く降り続いた。頑固なのかやむ気配はない。一通り歩き回り、誰もいないことを確認した。どうするべきか。洞穴に帰ればいいのかまだ探すべきか迷った。大きな木の下に雨宿りをする。レインコートのようなものを着ても、地球より耐性が弱いのかあまり意味がなかった。ずるっと垂れてきた鼻水を吸い上げる。身体がすごく冷えていた。一旦帰って、焚火で暖まろうと考えた。男が帰ってきたとき、そちらの方が冷えた体があっためられるし。いや、もしかしたら男はもう戻っているかもしれない。今度は、雨にあまり当たりたくなかったので、木を伝って帰っていく。
帰る途中、少し離れた川に近いところにある草が揺れた。男か、獲物か。さっと身を隠し、気配をできる限り断つ。横目でそこを見た。ちょろりと、獣のような頭が見える。獲物だ。そう判断すると亮はすぐに銃を構え、一瞬で仕留めた。木のところで、雨がそう強くないのに感謝した。軽くガッツポーズを決め、近づく。しかし、そこに想像していた獲物はいなかった。
頭を一発撃ち抜かれた男が、そこにはいた。
亮は驚き、ひざを折る。力が抜けた。すぐに起こして、ゆする。
「おい、おい、大丈夫か? なんとか言え、おい」
自分が撃った。その事実が突き刺さる。男はすでに息をしていなかった。殺した。今迄あまたの数の獲物をしとめてきた。そのたびに合掌をして、それで終わっていた。でも今は、得体のしれない亮を迎え入れてくれた男がここにいる。ここに倒れている。
「おい、おい!」
雨が強くなる。
頭から流れ出てくる血は止まり方を忘れたように流れてきた。男を抱え上げる亮のレインコートは赤く染まった。
誰よりも恩人。誰よりも理解者。地球に戻ることができない亮の、唯一の拠り所だった。雨に交じって、涙が落ちる。殺してしまった、人を殺した、この男を、狩猟も、釣りも、焚火のつけ方も、稼ぎ方も、何もかも知らない無知な亮を、一から鍛えてくれた恩人を、殺した。呼びかける声が萎んでいく。絶望感と、喪失感と悔しさと悲しさが入り混じって行く。
「おい、返事してくれよ……いつものように……バカなこと、言ってくれよ……」
もう冷たい男の身体を抱き寄せる。
「あぁ―――――!!!!」
亮の叫びが、雨の中に消えた。
***
シモーナはためらったように、颯希を見た。颯希は、亮の記憶を旅していたかのように、どっと疲れが押しよせる。しかし、今見た映像は量はかなりあったが時間にすれば、一秒にも満たないものだった。亮と滉はジェラルドに攻撃しようと躍起になっている。こんな小さな部屋で暴れられても困る。それを思ったのか、リナが二人を軽く縛り上げていた。何もそこまでせずとも。そう思うが、無闇に発砲されても困る。
滉を見た。王宮へ向かい、歩いていた時に彩里と亮からここへ来てしまったわけを聞いた。しかし滉だけ、答えてくれなかった。話してくれてもいいじゃないかと、その時は思ったのだが、もし今の亮のようなものなら、口に出しては話せないだろう。無神経なこと言ったかもな。あの時、あまりしっかりと謝っていないような気がしたのであとできちんと謝ろうと思う。まだ何も、見ていないが。
状況を軽く確認してから、颯希はシモーナに向き合った。シモーナは颯希を向くと目を閉じる。途端に颯希の中に、滉の記憶が流れ込んできた。
***
記憶の映像は、ヴィパルのような、木が生い茂るものではなかった。ここでも雨が降ったばかりなのか、氾濫する小川があり、その近くにはビルやマンション、コンビニがある。確実に、地球の映像だった。これはやはり、滉がヴィパルに来てしまった時の映像だと確信する。小川の近くに道があり、そこには今より確実に小さい、しかし今と同じ女の子と思われるぐらい可愛らしい滉と思われる人物がいた。その隣に、優しそうに微笑む女の人がいる。茶髪で髪型だけ見れば彩里と見間違う。この人が母親かと、颯希は思った。
空には虹があり、二人揃ってそれを見上げているようだ。ただ、雨上がりといってもぐちゃぐちゃになった川の土手を乗り越えて氾濫する小川の近くにいるのは、何とも肝を冷やす光景だった。母親もそれを分かっていたのか、滉の手をしっかりと握り、危険がないように気を配っていた。
後ろを自転車が通る。水たまりに入ったのか、水が母親にはねた。母親は気にするそぶりをあまり見せないが、滉は怒ったようだ。
「なんだよあいつ、謝れっての。……母さん、大丈夫?」
泥水じゃないことが幸いしたのか、来ている服が汚れているようには見えなかった。
「ええ、大丈夫よ。滉も濡れてない?」
「大丈夫、全然濡れてないし」
ハンカチで滉の顔や頭を軽くふいて母親は笑った。今とだいぶ違う滉を見て、これが昔の話なのだ、と実感する。
母親は微笑み、続けた。
「じゃ、そろそろ行きましょうか」
「えー、もうちょっと見よう、虹」
反対する滉を軽くたしなめながら宿題やったの? と聞く。滉は視線を合わせようとせず
「いや、あれはあれ、これはこれ」
とよくわからない言い訳を言う。母親は滉の頭を軽くはたき、滉を催促する。
「ほら行くよ」
散歩がてらに見ていたのか、滉も母親も何も持たずにいた。
割と急な土手の端を滉はバランスよく渡る。一歩踏み外せば氾濫している川に直行だ。
「危ないからやめなさい」
母親がそう言うが、滉の身体能力を知っているのか特にきつく言うことはなかった。
「大丈夫っ」
雨に濡れて滑りやすくなっている芝の土手。そのななめと道のちょうど境目を歩く滉。強い風が川の方へ吹いたとき滉のバランスは崩れた。
「滉!」
母親がせっぱつまったように言う。しかし滉は途中で止まったようでひょっこりと顔を出す。
「大丈夫だって」
元気そうに笑顔を見せた。風が吹く前と同じように、境目をバランスよく歩いていた。
今日はゾロ目の日っ




