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35-過去 亮-

過去編を描くのは好き←

だから余計に盛ってしまうがそれでもOk?

「そのレンズ、早く取れ」


 颯希の手を縛る紐を持ったジェラルドが言う。

 猿ぐつわをかまされているので、言葉が出にくい。なので、黙る。


「お、わりぃ」


 それに気づいたジェラルドは、颯希の猿ぐつわを取った。もとより、階段で黙らせるのが目的であったため、どこで外そうと差して支障はない。


「……」


 しかし、颯希は黙っておりジェラルドは面倒くさそうに息を吐く。


 颯希は、隙をうかがっていたのだ。ジェラルドの瞬間移動でここから向かおうとしている場所まですぐのはずだ。それを使わないのは、周りに兵が数名いるからなのか。それとも誰かが追ってくるのを待っているのか。思った瞬間、否定する。それはないはずだ。


「ほれ、着いた」


 七人才の部屋にいた時とは違う、緊張感がまるでない。周りを見ていなかったが、どうやら、一度通ってきた道のようだ。途中の茶色い扉の前に止まる。


「何? ここ」


 思わず口にすると、ジェラルドは言う。


「王の部屋だ」


 それにしては、少しみすぼらしいような気がした。


***


 駆け上がった拍子に、亜妃は数名のラド家を叩き落とした。若干、胸が痛む行為といえばそうだが今はあまり気にならなかった。シモーナもついてきて、一気に王がいる部屋に向かって走り出した。


 それほど遠くない距離で、障害となるものもあまりなく扉の近くに難なく着いた。扉には兵が居て、うかつに近寄れずに、数メートル手前の物陰で急停止する。


「どうする?」

「と言われても」

「兵倒したら、中の人に気付かれちゃうし」

「もういっそのこと強行突破」


 彩里、滉、亜妃、亮の順で小声での会話だ。シモーナが少し考えて、自身の能力で言葉にして飛ばす。


(わたしが行く)


 頭の中に、シモーナの声が響いた。それに驚いた三人は、目を見開いてシモーナを見る。彼女の能力を秋以外の三人は知らないのだ。その直後リナに言われる。


「わたしも、今のでシモーナを連れてきたのだ」


 へえーと誰かが呟いた。

 現王の実の孫であるシモーナなら通れる、と思っての事だろう。亜妃は、訝しげにシモーナを見る。七人才の中で協調性のかけらもないシモーナを信用していないのだ。


(大丈夫、王が長生きしてくれるようにできるなら、わたしはそれに協力するから)


 亜妃の視線に気づいたシモーナは言う。


「これから、わたしが一人で行く。ジェラルドから何も聞かされてなければ、部屋には通すはず。扉を開けた瞬間、兵を気絶させて強行突破」

「結局それかよ」


 滉が呟く。それにシモーナは「黙って」と鋭く言い放った。


「とにかく、王の病気を治したいの。どのぐらい時間かかるの?」


 シモーナに聞かれた彩里は答えた。


「……程度にもよるけど、病だったら十分以上」


 どの程度、病気に蝕まれているのかを確認した後にそのすべてを取り除く。そんな集中する作業は最低でも十分はかかる。外傷を治すのとは要領が違うのだ。


「分かった。それまで、ゆっくり話したりなんかして時間稼ぎする」


 深呼吸をして、シモーナは呼吸を落ち着かせた。大丈夫だ。言い聞かせて、兵の方へ進んだ。


「あいつ、信用していいのか?」


 滉がポツリとつぶやいた。


「微妙。あたし自身、あいつを信じてるわけじゃない。ころころ裏返るし」


 シモーナが兵と話している。通らせてくれないようだが、半ば強引に扉を開けた。

 その瞬間、作戦にのっとり前にいた滉とリナで兵士二人をぶっ飛ばす。


 その音に気付いたのか、中にいた人物が振り返る。颯希だ。シモーナに続き、素早く中に入る。もちろん、それにジェラルドが気付かないわけはなくにやりと笑った。奥には王と見られる老人がいた。

 彩里が素早く王のところへ行くと、颯希の縄を亜妃が斬る。ジェラルドはその様子を止められるとわかっていながら見逃した。


「来たんだ」


 驚いたように言う。その時、初めは気づかなかったがコンタクトがない。亜妃たちは驚いた。


『当たり前だろ』


 滉が悪態つく。イヤホンで


『ここに来る前、お前を守るって言ったのは俺たちだ』


 と続けた。颯希は嬉しそうに顔をほころばせる。


『うん、ありがと』


 滉は視線を合わせようとはしなかった。ちなみにこの会話は全員にだだ漏れである。


 ジェラルドは確実に彩里に気が付いていたがそれを通し、王を治す作業に移させた。王の前には彩里、その前にはジェラルドとなんとも難しい形になる。彩里のところに行きたい衝動を抑えて颯希は言った。


「わたしは、ここの先代の王、アンナ・フィシュネールの孫だって」


 緊張感が流れる。それぞれが身体の後ろで武器を構えた。


「そして、王はわたしに王位を継がせたいわけじゃないらしい。でも、ジェラルドはそれを許さない」


 覚えたばかりの名前は口に合わない。すんなりと出てくるような言葉じゃないからだろうか。


「だって、こいつがわたしを、いやわたし達をこの地に呼び寄せた人物だから」


 先ほどの会話で分かった事実を颯希は悔しそうに言った。


 しばらくの沈黙。亜妃は分かっていたように、リナとシモーナは意味が分からないように言う。


「えっと……?」

「つまりこいつは、一種の(かたき)か」


 言いながらリナがナイフを構える。亜妃から何か聞いていたのか理解が速い。


「そう、わたし達がここにいるのはジェラルドの性」


 暴露された真実。ここにいるのはなぜか。ここに来たのはなぜか。それはすべて、ジェラルドの空間操作の能力によるものだった。地球とヴィパルとをつなぐ僅かすぎる空間をゆがめ、大きくさせた張本人。それが少し遅れて理解できたのか、滉は狂ったように銃を撃った。亮の顔が歪む。部屋の中に催眠ガスが充満した。


「なにしてるの! 早く逃げなきゃ」


 颯希が叫ぶと、亮は膝をつき下を向いた。滉は泣いている。


 驚いて、一瞬で大量のガスを吸い込む。やばい、眠る。そう思うが一瞬にしてそれがなくなった。体に吸い込んでしまった睡眠ガスの効力は少し出てしまったが。


 だが驚いて目を見張る。にやりと笑うジェラルドを見て、空間を入れ替えたのかと悟る。


「何? 俺、そんなにいけないことでもした?」


 亮と滉に向けた言葉だ。ここに来てしまった理由が分かっただけでなぜそうなるのか。


「……俺は、人を殺した!」


 叫ぶ滉。何があったのか。部屋の隅にいたシモーナは、心を読んだのか驚いた素振りを見せる。それに気づいた颯希は心の中でそれを(教えてくれ!) と叫んだ。一瞬、ためらうような素振りをしたシモーナだったが颯希の叫びに応えてくれる方を選んだようだ。ギュッと凝縮された映像が颯希の身体に流れ込んでくる。亮の映像だった。


***


 雨が強かった。地面がぬかるんで、亮の足跡がくっきり残っていた。肩には銃を下げていて、格好が猟をするものなのでこの雨はいきなり降ってきたものではないかと颯希は推測した。亮の前に立っていたが、亮は気づかずに進んでいった。触ろうとしても触れないのでこの世界にとって、颯希は違うものだと理解する。


 亮が歩いているのは、森のそばで、しかし、今彩里や滉と一緒に住んでいるあの集落とは違うところだとわかった。まっすぐ進んでいった先には、大きな洞穴があり、そこに一人の男がいた。


「よう、遅かったな亮」


 慣れ親しんだ間柄のように、笑顔で男は亮を迎えた。洞穴の中は赤く照らされており、たき火しているのが分かる。


「急な雨で参った。獲物はみんな、どっかに消えた」


 びしょ濡れになった服を脱ぎ絞る。焚火のそばに置いた。


「雨が降る前に帰れてよかったぜ。ほら、魚」


 たき火の裏側には、二匹の魚があり、丸焼きにしていた。そのうち一匹を亮に投げる。


「危ないな」

「じゃあいらねえか?」

「いや、貰うけど」


 笑う男につられて、亮も笑っていた。まだ彩里たちと出会う前の、亮の記憶だ。


 そこには確かに、閑閑(かんかん)たる空気が流れていた。


これかくの久しぶり

誤字脱字その他なにかあれこれ変じゃね?と思ったものがあった方連絡お願い致します。

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