34-サツキ-
もうすぐ終わるかな~ いや、終わらない(反語←)
「やめてくれる?」
亜妃だった。驚いた颯希は、何で? と聞く。
「あんたのせいで、彩里が狙われることになったのよ」
その事実を聞いたとき、四人は静止した。
――彩里が、狙われている?
「……でも、あの時は、亜妃が助けてくれて、それで」
言葉がしどろもどろになっているシモーナを見て、颯希たちが知らない間に何か、シモーナを助けるような行為をしたことわかる。リナはどうでもいいようで、周りを警戒していた。
「それで何? だから、その責任であたし達を助ける? ……勘違いしないでくれる」
内臓も治ったのか、亜妃は立ち上がった。彩里と亮のハイタッチで亜妃の治療は終わったようだ。そそくさと二人はリナのもとへ行く。
「あたしは別に、あんたを助けた気はないし、あんたに助けを乞う気もない。あんたたちが颯希を見張ってたことはもう、知ってるしね」
颯希を見張ってた? どういうことだ? それに、あんたたちって、どれだけの人数がいるのだ。
「亜妃、それどういう意味?」
彩里が聞いた。今の事全体についての質問だった。亜妃は首を曲げて言う。
「ジェラルドは颯希が王家の印を持つ者だというのを知っている。そして、シモーナがあたしの心を読んで彩里の存在を知った。そのとき、ジェラルドに首を絞められそうになってあたしが、「それじゃあ話せないよ」って、言っちゃって彩里の事がジェラルドにばれて、シモーナは助かった」
「……なぜ、彩里なんだ? 」
「なんでそこの女を助けるような行為をしたんだ?」
亮が言い滉が言った。二人とも目を細めている。
「……回復の能力を持つ者、だから。ここに来る前、小屋で話したでしょ? 王が倒れた。もう長くない」
だから、回復の力。でも、彩里は外傷を治せるだけなのではないか? と颯希は思った。亜妃はそれがわかっていたのか颯希の心を読んだように言った。
「彩里は、外傷だけでなく病原体を消し去ることも、それに適した薬の作り方もわかる。なにも、薬を飲ますだけがすべてじゃないのよ」
そう言われた瞬間、不満な気持ちで彩里を見た。彩里は少し笑うだけだ。宿で病のことについて聞いたと〝分からないわ〟と答えたのはどこのどいつだ。能力を隠す必要があるのか? そう自分に問いかける。どうやらこれは、イヤホンに流れていなかったようだ。
亜妃が近づいてきて颯希の肩に手を置いた。コンタクトをしている颯希の目を見た。
「よし、OK」
「何が?」
颯希の疑問には、滉が答える。
「ここは王宮だ。王家の印を知らないやつが、いるわけないだろ?」
ああ、変装の確認か。といっても、髪の色を変えなければ意味がないと思うが。
「まあいい。早く行こう」
リナの治療も終わったのか亮が一歩を踏み出した。その時、颯希の耳に微かな足音が聞こえた。何だ? 思うが、口には出さない。イヤホンにももれなかったようで、誰にも聞かれなかった。
***
七人才の部屋を出て、まっすぐ行き、通ってきた道をさかのぼる。シモーナもついてきていた。一番後ろは颯希が勤めており、時折聞こえる足音を不思議に思っていた。誰か着いてきているのか? たまに振り向いては、前の六人を催促する。亮は気づいていないのか? しかし、足音は近付いてきているようで颯希は恐怖に駆られた。
――彩里が狙われている。
唐突にそれを思い出し、青ざめる。彩里はシモーナと亜妃の後ろにいて、ちょうど真ん中あたりなので誰か来たら周りの人たちがそれを守るだろう。そう考えて安心した。
二階を抜け出し、一階への階段へさしかかったとき颯希は肩を掴まれた。振り返ったとき、金の髪が見えて恐怖が身体を支配した。青い目が覗き込んでくる。
「それ、外部と接触を断つためのレンズ、だよな」
彩里がコンタクトを出したとき言っていた説明を思い出す。ジェラルドの後ろには数人の兵士がいて、足音は兵士の方かと考える。服装が、アンフォッシ家の者だったがジェラルドには敬礼をしていた。叫ぼうとするが、口をふさがれる。颯希の前を走っていた滉が、颯希がいないことに気付いたのか叫んだ。
「待て、颯希!」
その瞬間に、周りをラド家に囲まれた。亜妃に忠誠を誓っている者ではないのか? と考える隙もない。
「そいつらを捕らえろ! 反逆者だ」
ジェラルドが言う。ラド家は多少困惑したようだがすぐ近くにもうひとりドゥッチオがいることを確認した瞬間、タカが外れたようだ。
ラド家の者との戦いが階段で始まってしまった。
***
「よかったのか?」
マノロがドゥッチオに向かい言った。ジェラルドの命令で、自分の部下のラド家を亜妃たちに仕向けたのだ。
「ああ、まあ。分かんねえ」
しっかりとした返事が返ってこない中マノロは軽く肩をすくめる。
「気に食わねえ相手を鎮めるのに、絶好な機会だとは、思うんだけどな」
その答えに、エルシリアがくすりと笑う。いつの間にか、エルシリアがいるところだけ、草のソファーが出来ていた。ダニーロは先ほどエルシリアにもらったパンをほおばる。
重い沈黙が、戦いを見守る者たちの間に流れた。
***
颯希は、ジェラルドにつかまったままその戦いを見ていた。全員、身のこなしがよくどこで鍛えたものかと不思議になる。しかし、最後まで見せてはもらえずに、颯希は連れていかれた。縄で手を結ばれ、口には猿ぐつわを噛ませられる。初めて来たとき、誘拐されかけた格好に似ていた。
「お前が動けば、俺はお前の仲間を一人ずつ殺しに行く」
脅しだ。しかし、シモーナの首を平気で絞めているあたり、断じて嘘、というわけにはいかないのかもしれない。
「分かったか」
颯希は、細い目でジェラルドを見た。
***
颯希が、ジェラルドに連れて行かれるのを見て、滉は叫ぶ。
「おい、颯希!」
呼びかけても、返事が返ってこないことはもうわかっていた。
「クソっ」
舌打ちも混ぜ、悪態つく。彩里に渡された銃弾――催眠弾だったが――それとナイフでラド家と戦う。リナのように、武器がナイフかと思ったがこのラド家は針を使うようだ。少しかすった時、そこからしびれてきたことから、神経毒が塗られているのが分かる。あくまで、殺さないようだ。それを素早くイヤホンで回し、彩里に治してもらう。
「ごめん、彩里さん」
彩里は笑って
「わたしの仕事よ」
と言う。彩里の渡してくれた銃弾が本物ではなく良かったと、感謝した。催眠弾はすごい威力で一発撃てば周りの人間数人を眠らせることができた。しかも、起きるのは一時間後だ。
階段の隅にいた滉と彩里は互いに、後ろにいたラド家をナイフで仕留めた。こちらも殺したくはないのでなるべく足を狙う。ラド家はそれでも、吹き矢を使って攻撃したりするので、結局は気絶させるのが一番手っ取り早い方法だった。
『ジェラルドに連れていかれた、ってことは王が気付いたはず』
シモーナ以外の全員が戦っており、全員のイヤホンから亜妃の言葉が流れる。リナからコピーしてもらったもののようだ。
『何をだ?』
亮が聞くと、亜妃はイヤホンで言った。分かりきっていることだった。
『颯希が、王家の印を持つ次期王だということ』
彩里は目の前にいたラド家を思い切り蹴飛ばし、上を向いた。
次期王が必要なのは王が死した後だ。死ぬのを少しでも伸ばすことが出来れば、颯希は戻れるかもしれない。
いくら寿命を延ばしたところで、次期王が必要ないと言い切れるものはなかった。長生きさせるといっても、もう八十を超えた老人ではあまり変わらないだろうというのが本音だった。しかし。
『颯希は、次期王として連れていかれたんならわたしが、王の病気を治せばいい?』
ナイフを投げて、避けたところに蹴りを入れる。彩里の疑問に、亜妃が答えた。
『そう言うことじゃないでしょ。でも』
亜妃の隣で催眠弾が爆発した。
『お前をおとりにして颯希も、お前も、絶対逃がす』
亮がイヤホンで言う。滉の肯定の言葉も聞いてシモーナの方を向く。シモーナは情けないことに階段の陰にずっと隠れていた。彩里の心を読み取ったシモーナは力強く頷く。
「亜妃様、数が多すぎます! 持ちません!!」
リナの言葉を聞き、亜妃は頷く。彩里の意思を聞いたときから逃げる気満々である。
「王がいるところまで、ついてきて!」
亜妃が階段を駆け上がるのを見て、残りの五人も階段を駆け上がって行った。




