33-シモーナ-
周りを見渡すとぼろぼろになっている亜妃が目に入り、颯希とリナは急いで駆け寄った。
「亜妃!」
「亜妃様!」
しかし、目の前にジェラルドがいるので颯希はリナに止められる。
「ちょっ、リナ!」
「だめだ動くな。……亜妃様の前にいるやつは七人才のリーダーだ」
そう言われて凝視した。金髪で亜妃がやられているのに誰ひとり助けようとしない。状況が状況だからか、相手が七人才のリーダーだからか。颯希は眉間にしわを寄せ、三人のもとへ戻った。
「あれ、来ないの?」
拍子抜けしたような声が響く。後ろの兵士たちは五人にぼろぼろにやられ、しかも七人才の部屋に入って行ったため恐れ多いのか追ってくることはなかった。だが遠いところから銃で攻撃を仕掛けてくる。ただその銃弾は先ほどの亮と滉の銃弾のように跳ね返っていたのだが。
その時、彩里の声がイヤホンに流れた。
『わたしが亜妃を治すのに時間稼ぎしてほしい』
それは勿論初めから思っていたことだから喜んで承諾した。ただ、もう敵の本拠地にいるので誰も頷くことはない。
『それで、亮、亜妃の身体どんな感じ?』
見事なポーカーフェイスで彩里は会話をしていた。ジェラルドは一瞬で部屋の真ん中に戻っておりこれが能力かと、もやは体の一部のように操るそれに感心した。
『……肋骨にひびが入っている。でも、一番ひどいのは内臓だな。つぶれてはいないけどかなり損傷を受けている』
『わかった。リナ、一瞬で亜妃のところに行って戻ってくるみたいな離れ業できる?』
『……できない。それが出来ていたらとうにやっている』
だよねーと彩里が小声でつぶやく。
『時間稼ぎしよう。というか今ならいけるんじゃないの? リーダー遠くに行ったし』
『お前も見てただろ? あいつ、一瞬で移動できるんだぜ』
颯希が言う。あくまで提案と後半はさきほど見たことを全否定している。それは滉から、指摘を受けた。
空間操作ってこことあっちの空間をつなげて移動している、とかなんだろうけどやはり厄介な能力であると颯希は思った。
『そうなのよね。そこが問題』
彩里の言葉に、あれ、今の流れてた? と思うが誰も返答してくれずリナが言った。
『……二十秒ぐらいなら足止めできるがどうだ?』
二十秒。至近距離の戦いで体術はもちろんの事、ナイフも自在に操れるリナでももって二十秒。驚きを隠せない颯希だったが、彩里は笑った。
『十分よ』
周りの七人才が攻撃して来るのか分からないが亜妃の救出が先決である。
『いい、わたしが行くぞー! って言うからリナ以外は亜妃を守るように囲って』
彩里の言葉に頷く。ジェラルドは勘ぐったように、にやりと口角を上げた。ご丁寧に何もしかけてこない五人を野放しにしていたのはなんだろうと考える。彩里が五人に目配せをする。合図が来るか。
「……行くぞー!」
彩里の掛け声に、全員が一斉に動いた。ドアの近くにいた亜妃に感謝すべきだ。すぐに、亜妃と彩里を見えないように囲い、治療をさせる。
「彩里」
亜妃の嬉しそうな瞳を一瞬見る。このぐらい、ぼろぼろになるともはや何もできなくなるのでは。誰も襲ってこない周りの五人を見てひとりだけ目がはれているのが分かる。白い髪だった。あれは、シモーナという女ではないか。
リナとジェラルドの二十秒程度の戦いの中亜妃は七人才の部屋から廊下に出され治療が始まった。
***
アンナが消えたことは、国中を騒がせた。現王が消えた一瞬だけでも国は乱れた。王の存在がどれほど安心感を与えるのかを垣間見た。
アンナが消えた数日から、ランダルの傷が日増しに深くなっていった。それが恐怖であり、喜びであった。憧れの王宮にもしかしたら入れるかもしれない。そんな考えを生む。アンが消えたことにショックを受けて、悲しんだ。そして気付いた。ランダルは、アンナのことを憧れの対象、象徴として敬っていただけなのだ、と。自らの目的はあくまで王宮の近くにいることであり王宮につき従うことに喜びを感じていたのだと。
アンナの手紙を一斉に捨てランダルはしばらく職務を放棄した。たまに、何とも言えない消失感に襲われた。それは、アンナがいなくなったことに対してなのか、アンナがいなくなった王宮に対してなのかわからなかった。そしてしばらくした後、やはりアンフォッシ家の者がどこから嗅ぎ付けて来たのかランダルを正式な王として迎えた。
当時、三十四歳。そこからランダルは王として選ばれた妻の夫としてその子の親、祖父として生きてきた。五十年がたち八十を超えた。そろそろ死期が近づいているのを悟り、次期王が生まれることを願ったが生まれなかった。なぜか。考えて、考えて、一日も忘れはしないアンナのことを思い出した。アンナはほんの一時でも王として生きた者。そのものが結婚し、子供を産んでいたとしたらその子供に王家の印が出ていることは大いにあり得る、と。
しかし、いくら探してもその気配も、その存在もなかった。王家の人間でさえ、王家の印を持つものが生まれずに数年が過ぎた。こうなったら、現王の血筋に任せようという話さえ上がった。そして王は、確信を持った。
アンナは生きていて、子供を産んだ。それには確実に、王家の印があると。
そして王は今、王家の印を持つ者の気配に気づいた。やはりアンナだ。それが確証できる証拠はないが直感的にそう思った。王家の印が離れて行ったことが少し気がかりだがこの城の中にいれば十分だ。確実に捕まえて確かめる。
「誰かいるか?」
「はっ」
一人にしろと言ったのに兵はついている。少し呆れたが、それよりも。
「王家の印を持つ者が、この城にいる。きっとこの階だ。三つとも当てはまらなくても良い。二つ、いや一つだけでもあてはまる者がいたら連れてこい」
「仰せの通りに」
兵は深々と頭を下げた。しばらく寝よう。薬の効果があったのか、王はすぐさま眠りに落ちた。
***
――速い
リナはジェラルドを足止めするために戦っていた。これはやはりぎりぎりの戦いだ。ナイフを出して投げるがそれはすぐにひっくり返って自分に戻ってくる。投げられないことがわるとナイフを持って戦うしかなかった。
右手を出し、その手を掴ませる。相手は掴んでほしいのがわかっていたのか、わざとつかんだような気がした。
掴まれている右手と床と密着している右足を軸として左足で蹴りあげた。蹴られた衝撃でジェラルドは違う方を向いている。その瞬間に左手で刺した。しかし、ジェラルドは体をひねり、身体の急所を避ける。腹に刺さった。刺さった銀のナイフを抜くと血が付いていて傷を与えたことを確認。
その瞬間、腹を蹴られた。ジェラルドが笑ったことを目の端でとらえる。蹴られた衝動か口になにかこみ上げてくる。それを抑え、飛ばされるがすぐ床をこすり減速して止まった。たった数秒の行動だが、息が乱れる。
ナイフを両手に構えた。作った拳の指の間からナイフが出るように握る。片手に二本ずつ持ち構えた。
「あぁ―――!」
叫んで、腹を連打で殴る。ナイフがでっぱっている拳で、だ。最後に腹を蹴り、距離を取ろうとした。しかし、その瞬間に腕を掴まれ、顔を殴られる。一瞬、ガードしたが遅く、飛ばされた。
後ろで彩里が亜妃を部屋から出したことを確認するとそのまま遠ざかり部屋を出た。しかしその瞬間、頭の中に声が響く。聞いたことがあった。シモーナだ。
(こ、これからいうことを信じて)
シモーナを見ると腫れ上がった目に強い意志が見えた。体中が痛い。ジェラルドを見ても、攻撃のダメージを全く受けていなかった。それどころか、リナの手の方が。あいつ、見えないところで能力を使ったな。
(亜妃を連れて逃げる)
リナはその言葉を聞くと、体の痛みを忘れ部屋の隅にあったソファの近くにいたシモーナの手を引っ張り、持ち上げ部屋を出て、ドアを閉めた。ドアを閉めただけで大きな音が廊下に木霊した
「リナ、サンキュ」
彩里の声を聞いてリナは頷く。膝から力が抜け、崩れ落ちた。彩里が小声で「ちょっと待ってて」と言う。
「それ、シモーナっていう人でしょ」
リナが手を掴んでいる女を見て颯希が言った。明らかな警戒心。どうやら、部屋の外まではシモーナの声が届かなかったようだ。
「シモーナってあれか、亜妃が俺たちと話してた時来る! って言ってた」
「そう、それ」
滉が言ったのを颯希が肯定した。亮は彩里の治療の手伝いをしていたがふと振り向いて言った。
「で、何のために連れてきたんだ?」
リナもとっさに掴んできたことだが、聞こえたことを言おうとした。しかしシモーナが言う。
「亜妃を連れて逃げる」
題名って難しい……




