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31-過去 アンナ-

話数のあとの--に挟む言葉

はじめは4字に決めてたのにいつの間にか3字に。ついに漢字まで入ってしまたぁぁぁぁ!!(* ̄□ ̄*;

「よし、やめよう!」


 颯希がそう宣言した。亮が驚いたような表所で聞く。


「何を?」

「子供たちを倒すの」


 言った時、後ろにいた子供の行動が止まった。


「わたしたちさ、あなたたちを助けたいって思ってここに来たんだ。でも、襲ってくるから倒してたんだけどね」


 振り向いて、笑いかける。ぴたりと全員の動きが止まり、一人が関を切ったように泣き始めた。それを見た颯希はあとは放っておいても大丈夫、とはいかないだろうが自分たちの要件を先に済ますことを決めた。


「これから、七人才の部屋に行こうと思う」


 イヤホンに集中した。それぞれ頷いたり返事をしたりして颯希の提案はみんなに受け入れられたようだ。


「亜妃様から返答がない」

「そう、わたしも」


 リナと彩里の会話で二人とも亜妃に連絡を取ろうとしていたのかと思う。


「多分、亜妃、わたし達と連絡を取ってたことがばれたとか、そういうのだと思う」


 言いかけて聞こえなくなった亜妃の声。かすかに頭に反響する。たった数日の付き合い。けれど、普通の人より確実に濃い関係だ。それはリナ以外の三人も。颯希はこぶしを握った。


「だから早く、亜妃がいるところに行きたいんだ」


 急に黙った五人を見て子供たちは不思議そうに見上げていた。颯希は近くの子供の頭を撫でて言う。


「待っててね」


 子供たちの救出と亜妃の逃亡の手助け。今回の目的はこの二つに限る。ろくな情報が得られているわけではない。七人才がどれほどの強さなのかもわからない。全てが未知数なのだ。でも、戦う必要がある。


「行こう、早く」


 四人は力強く頷いた。


***


 腹が痛い。上体を起こそうとするだけでも全身の悲鳴が聞こえる。ドアを開いたとき、ドアが来ない方の壁で話していてよかった。彩里が来てくれれば多分、治せる。そして、王の病も治せるはずだ。

 息を吐いて、呼吸を落ち着かせた。ジェラルドの視線が先ほどからずっと刺さっているが、それを感じないようにして目線を上げた。シモーナと、目が合う。心が読まれた。


「あなた達、最低よ」


 ぼろぼろと涙がこぼれていた。シモーナに読まれたのはどこだ。少し焦った。王の病も治せるというところか。心の中で、文章をつくってみる。


 (彩里っていう人の能力はどんな怪我も病も治すこと。外傷や内臓の破壊、病すべて治せる。傷はなかったようになるし、病は、身体を侵食している病原菌を取り出すことができる)


 シモーナが睨んでくる。だがその睨みは、まったく怖くない。安心したような、驚いたような、そんな睨みだった。


 (あたしに、ついてみる?)


 これは賭けだった。シモーナの能力は心を読むことだが同時に、自分の心を文章として飛ばすことができる。それは、半径三メートルの範囲だが今は十分な距離だ。

 シモーナは困ったような顔になった。眉が下がった。ジェラルドがそれに気付いたようで一瞬でシモーナのもとに移動し顔を掴んだ。


「何をした」


 恐怖が、シモーナの顔に広がって行く。


「言え、何を読んだ」


 今度は喉を掴んだ。周りの奴らは顔をゆがめたり逸らしたりする。これがジェラルドの支配だ。


「あ、……ぅ」


 先ほどの涙も交じりシモーナは苦しそうにジェラルドの手を掴んだ。しかし、常に体を鍛えず、部下を動かしてきたシモーナの握力はジェラルドにとってあまりにも弱い。


「そんなんじゃ言えないわよ」


 ケホッと小さな血の塊を吐きだしながら亜妃が言った。言ったところで彩里は強いし狙われてもジェラルドが選んだチェロニアーティ家のやつに負ける気がしない。それどころか、彩里たちをここまで連れてきてもらい、王の病を治すという手に出てもらえば良いことづくしだ。


「そうだな」


 初めて気が付いたようにジェラルドは手を放した。潰されかけた喉に手をかけシモーナは咳き込みながら必死に息を取り込もうとしていた。その瞳には強い、憎悪と悔しさが映し出されていた。


「ほら、言え」


 ジェラルドが足を動かして催促する。いやな奴だ。亜妃は思った。シモーナは言うだろうなという確信とともに。


「あ、亜妃は」


 途中で咳き込み、言葉が途切れた。ジェラルドはうるさそうに両耳に手を当てる。


「仲間が、来て、それ……で」


 亜妃に一瞬、申し訳なさそうな視線を飛ばす。


「王の病も、自分の傷も治る、って」


 床にしゃがみ込んだままシモーナは視線をずらした。ジェラルドがしゃがむ。絶対的な権力がそこには存在していた。


「そいつの名前は?」


 下唇を噛んでいる。言うのにためらっているのだ。それはそうだ。自分の実の祖父が死にかけているのを治せる人物なのだから。もし、ここで殺されては元も子もなくなる。亜妃は目を細めた。


「彩里」


***


 リナを筆頭とした四人はラド家の格好をし、城を駆けていた。七人才の部屋は一階の上。二階にあり、さらに王室のすぐ近くで間違えてもそこに入ってはいけなかった。

 階段を駆け上がる途中、近くにいた二人の兵士に呼び止められた。


「ラド家の者だな、下の子供たちの事なのだが……」


 しかし、リナの一撃でその兵士は気を失う。


「おいおい、んなことしていいのかよ」


 滉が言うとリナは頷いた。


「どうせ逃げる」


 確かにそうだが、ここを出るまでにものすごく追われることになりそうだ。


 階段を駆け上がり、二階についた。


「右? 左?」


 彩里が緊迫した様子で言う。すると、何かに気付いたようだ。


「右」

「ちょっと待って」


 彩里は、倒れた兵士が持っていた銃を取り上げると亮と滉に投げた。


「人殺しは嫌でしょ?」


 そういいながら、彩里は自分の後ろのポケットから銃弾を取り出す。


「彩里、それは?」


 颯希の質問に、彩里は答えた。


「使ってからの秘密よ」


 その時のウィンクはなんとも楽しげであった。


***


 王は目が覚めた。感じていた。次期王、王家の印を――いや、かすかに懐かしい気配を――持つ者が近づいていると。


「あ、あ……」


 とたんに激しく咳き込む。近くにあった水を飲み干すといくらか落ち着いた。王の目が覚めたのに近くの者が気付いたようで数人の兵士が寄ってくる。


「ご気分はいかがでしょうか?」


 コップの水を継ぎ足しながら、一人の兵士が言った。


「……よいとは言えんが落ち着いている。しばらく、一人にさせてくれ」


 兵士らは、困惑しながらも深々とお辞儀をして出て行った。先ほどの激しい咳を見たからか本当に離れても良いのかという困惑した目線が突き刺さったことに王自身気が付いている。深く呼吸をして、感じた。異質な存在が近づいていることに。これは紛れもなく王家の印を持つ次期王の者だとわかり興奮した。


「やはり、アンナだったか」


 幼馴染で、先代だった女王を思い出す。忽然(こつぜん)と消えた瞬間、唯一なかった身体の傷がめきめきと浮き彫りになっていったのは今でも覚えている。肩に触れる。王の傷がある場所だった。


 王は思い出していた。先代王女・アンナ・フェシュネールのことを。


*****


 色素が薄い茶色の腰まで伸びた長い髪が風になびいた。深い青と黒が混じる瞳は、そのまんま王家の印で、王は顔を見るたびに劣等感を感じていた。きれいで、頭脳明晰で、明るくて、彼女の周りにはいつも誰かがいた。それがまた(さま)になっていて――ああ、こういうのが王になるべき人間なのだ、と見せつけられた。


 自分も、王家の印と同じ容姿なのに。傷がないから、得られなかったその地位。貴族といえども、端っこの低級で庶民と同じ暮らしをしていた。傷さえあれば、傷さえ出れば。アンナが生まれたことを、王は、ランダルは悔やんだ。



 親同士の付き合いで、小さいころからアンナとランダルは一緒にいることが多かった。アンナも、ランダルと同じ低級の貴族で傷が出るまでその生活はひどかった。といっても、民衆よりかはいくらかましな生活だった。


 現王の次を継ぐ王が成人を迎え次期王がいなくなったとき、アンナの生活は変わった。徐々に体に見たことのない傷が現れ、恐怖し、引きこもる。新種の病ではないか。そういう噂がつきまとい、アンナから離れる者たちもいた。だが、それは親たちのうわさを聞きつけた王族直下の部下、アンフォッシ家の者により解消された。


「アンナ様を次期王とし、王宮に向かいいれます」


 半ば強引に命令なのかにアンナは連れていかれた。

 ランダルもアンナも、十の時だった。


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