1 Prologue
白色にそまる世界の中でポツンと立っている東屋の中。白いローブの様なものを纏った老人が手ずから入れてくれたお茶を口に含んで俺はティーカップをソーサーに戻した。
「で、俺は死んでしまったと」
申し訳なさそうな顔で、対面して座る老人、自称神様は頷いた。
生前、俺は生まれつき病気を患っていた。現在の医療技術では大方回復するらしいが、死亡率は低くはない。どうやら俺は助かるふるいから零れ落ちてしまったらしい。
「本来辛い人生は刑罰の様なものなのじゃ。本当に申し訳ない」
沈鬱な表情を見せる神。彼の言葉を信じるなら、つらい人生を送ることになる生命は前世の行いが良くないらしい。
それでは俺の前世、といってもそんな記憶はないのだが、その前世での俺が悪さをしていたのかと聞いてみればそうではないらしい。なんでも、ごくまれに普通の一生を終えるはずの魂が刑罰の道を歩むこともあるとか。どうやら俺はそのまれなパターンだったらしい。
「以前は人口も少なく杜撰な管理でもなんとかなったのじゃが、昨今の人口増加ではそうもいかなくての。これでもだいぶ改善してきたのじゃが、どうしてもまだエラーがのう……許してくれとはとても言えんのじゃが」
「いえ、別にいいですよ。両親も優しかったですし、友達も、少ないけどいましたしね。対外的にはつらい人生でも、俺的には満ち足りてました。一応十七までは生きましたし」
「お主……。少々人ができすぎてはおらんかのう。もっと怒ってくれてもいいんじゃよ。そのほうがワシの罪悪感もマシになるし」
「俺的には神様が若干俗っぽいのが驚きです。あまりその辺気にしないのかと」
そうでもないのが実情だと苦笑いを返す神様になんともいたたまれなくなって俺はカップのお茶に再度口をつけた。
「まぁ、とりあえず俺がレアケースってのはわかりましたけど、それがあるたびに呼んで謝ってるんです?」
俺の問いかけに、先ほどの俺と同じようにカップを傾けていた神様がより一層沈鬱な笑みを浮かべる。
「それなんじゃがな。普通は輪廻の輪に戻るだけでワシが出張ってきたりはせん。じゃがのう。君の場合は前世にも問題があってのう。有体に言えば徳がたまっておるのじゃ」
「つまり、前世の行いが良かったにも関わらず苦しい人生を送らせたから補填が必要、と」
「するどいのぅ。じゃが、そういうことじゃ。そこで、異世界行きの切符を君に授けようと思うのじゃが……。どうじゃろうか?」
あぁ、テンプレか。と俺は心の中で独り言ちた。病院通いで、入退院や自宅療養を繰り返していた身であるためそういった創作物は腐るほど読んだ。その物語の主人公たちは、皆、剣と魔術の世界で面白おかしく冒険したり厄介ごとに巻き込まれたり世界を救ったりスローライフを送ったりするのだ。
「一応聞きますが、どんな世界ですか」
「その世界はアルカフィルと呼ばれておる。魔物がいたりダンジョンがあったりするが、比較的穏やかな世界じゃよ」
「魔法も、あったり?」
「もちろんじゃ」
楽しそうじゃろう、と再びカップを傾ける神様。その言葉に、俺はテーブルの上に突っ伏した。立っていたらおそらく膝から崩れ落ちていただろう。
「だ、駄目かのぅ」
「いえ、異世界行きは楽しそうなんですよ、楽しそうなんですけど……」
俺は突っ伏したまま意を決して言う。
「魔法があるってことは……科学は……」
「あー……。劣っておるのぅ。確実に。というか君の世界が発達しすぎなんじゃ。それはもう、異常なくらいに」
その言葉に俺は涙した。剣や魔法の世界が嫌いなのではない。嫌いではないのだが、俺はどうしようもなくメカのほうが好きだった。RPGではないのだ。ロボットシミュレーションこそが至高なのだ。
いくらアプデでの調整がクソであろうが、俺自身は若いので待ってはいないが、新作まで十年待たされようが、あのシリーズに愛を捧ぐほどには。
身体は闘争を求めるのも仕方のないことだった。戦争がしたいわけではないが。
「ちなみに異世界行きを断った場合ってどうなります?」
「輪廻の輪に戻るだけじゃな。記憶を亡くし、次の生を全うすることになるじゃろう」
それは今の俺が完全に消えるということ。せっかく残してもらった意識だ。なんだかそれは非常にもったいない気がしてならなかった。神様としてもこのまま輪廻の輪とやらに戻すのは本意ではないのだろう。重ねた手の甲をさすりながらずっとそわそわしている。
「……特典、つきますか?」
「特典とな?」
不思議そうな顔をする神様に地球ではやっている異世界転生物のテンプレを説明する。
「君の言うようなチートは無理じゃな。あからさまなものはさすがに与えられん。じゃが便宜は図ろうぞ」
俺は神様のその言葉にやりたいことを片っ端から伝えた。神様は興味津々といったように驚いた表情をし、アルカフィルの基準と照らし合わせた結果、願った要求のほとんどは通ってしまった。
そして俺はほっほっほと柔和な笑みを浮かべる神様に向かって言うのだ。
「じゃぁ異世界、行ってきます」




